風光明媚な丘陵地帯に、危険なコーナーが潜んでいる
「スパ・フランコルシャン」……僕(筆者:木下隆之)がこの伝統的なベルギーのサーキットに初めて挑んだのは、1992年のことでした。日産が世界のツーリングカーレースを席巻するために生み出したスカイラインGT-Rを彼の地に送り込み、そのドライバーに起用されたのです。
海外レースという意味では、すでにニュルブルクリンクに挑戦した後でしたが、モータースボーツ先進国の欧州の雰囲気に圧倒された記憶は生々しく、かつ、スパ・フランコルシャンの美しさに見惚れてしまったことを記憶しています。
穏やかな丘陵地帯にあるスパ・フランコルシャンは、元々は公道でした。レースが始まる数時間前に道路が閉鎖され、終了すると閉鎖が解かれ、日常へと戻るのです。
そんな特異なサーキットなのですが、牧歌的な雰囲気とは異なり、とても危険なコーナーが存在していました。「オー・ルージュ」と呼ばれるコーナーです。
急激な滝下りのようなストレートの直後、壁に打ち付けられるような登り区間になります。しかも左旋回から右旋回にロールチェンジし、駆け上がるとフラットなります。
しかもそのS字コーナーは高速区間です。これまで多くのドライバーやライダーをクラッシュさせてきた名所なのです。
じつは1992年に挑んだ時、コンビを組む僚友がオー・ルージュの餌食になりました。幸いマシンは損傷を免れ、ドライバーも無事だったのですが、ピットに戻ってくるなりその相棒は、青ざめた顔でこう捲し立てたのです。
「ワケがわからないうちにスピンした」……と。
走行開始1周目でしたから、それほど攻めてもいませんでした。初めてのコースですし、オー・ルージュが数々のドライバーを餌食にしていたことを知っていましたから慎重に走っていたはずです。それでもスピンしたのです。
その話を聞いてから僕も走行を開始したのですが、なんと僕も最初の1周目に派手にスピンしてしまったのです。チームメイトのアドバイスを聞き、慎重に走行を開始したにもかかわらずスピンしたのですから、不思議ですよね。
「なぜ?」頭の中に無数の「ハテナ」が浮かびました。それほどミステリアスに前後左右のGが加わり、しかも縦Gかミックスしてしたのです。フラットに区間はつまりジャンプ台にもなっていたというワケです。
そんなスパ・フランコルシャンを再び訪れました。運良くその日はスーパーバイクのレースが開催されていました。オー・ルージュはその日も、多くのライダーを餌食にしていたのです。
ハイパワーなバイクはクルマよりもウイリーしやすく、レーシングカーが前輪を浮かせて加速することはまずあり得ませんが、バイクでは珍しくはない。そんなバイクがジャンプ台を通過するのですから、それは当然クラッシュに陥りますよね。
いやはや、これほど風光明媚なサーキットでありながら、ライダーには牙を向くのです。そしてそのスリリングなオー・ルージュを求めて欧州から命知らずのライダーが集結する。オー・ルージュが世界に名を轟かせるのも納得です。
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