燃料を変えればクルマはクリーンになる
text:Jesse Crosse(ジェシ・クロス)
【画像】内燃機関は死なず【ポルシェの内燃機関搭載スポーツカー5選】 全116枚
translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)
ポルシェは最近、2022年までにほぼCO2ニュートラルな合成燃料の製造を開始する計画を発表し、大きな話題となった。しかし、合成燃料の化学的性質は、自動車の誕生とほぼ同じ時期から理解されていたものだ。ポルシェの発表は何が新しいのだろうか。
合成燃料とは、お酒などに含まれるアルコールの一種、エタノールのことではない。エタノールは発酵の産物であり、生物学的に生成される。英国ではガソリンに5%混合され、今年後半にはCO2排出量をさらに削減するために10%に増量される。エンジンは、エタノールの腐食性に対応しなければならないが、合成燃料では問題ない。
ポルシェが言う合成燃料とは、「ガス・ツー・リキッド(GTL)」技術を用いて製造されるもので、炭素源であるCO2を水素と反応させて、アルコールの一種であるメタノールを生成する。このメタノールは、さらにいくつかの段階を経て、合成炭化水素(合成ガソリンや合成ディーゼル)となる。
「何が新しいか」というと、現在わたし達が置かれている状況と、合成燃料の生産に適した持続可能な技術に関連している。第一に、風力や太陽光などによる持続可能な電力生産への世界的な大移行がある。持続可能な電力を使って水を電気分解して水素を作れば、限りなくCO2ニュートラルに近い状態になる。
昨今、エネルギーキャリアとしての水素の導入が急速に進んでいる。水素は、持続可能な大量の余剰エネルギーを貯蔵する最良の方法の1つだ。例えば、夜間の風力発電などで余剰エネルギーが発生した場合、それを無駄にせず、水素にして貯めておくことができる。
持続可能な水素の利用と貯蔵が促進されると、ガス・ツー・リキッドによる合成燃料の製造にも役立つ。合成されたCO2は大気中から取り出されるが、大気中のCO2を削減する方法の1つである地中貯留(回収したCO2を地下深くに貯蔵すること)などを考えると、合成燃料の製造にも適していると言える。
合成燃料から排出されるCO2は、製造時に抽出されたCO2と同等であり、害はない。CO2ニュートラルであることに加えて、その他の排出物に関してもクリーンであることを除けば、既存の化石燃料とほぼ同様の働きを示す。また、既存の液体燃料のインフラ(タンカー、ポンプ、販売店など)との互換性もあり、古いエンジンにも新しいエンジンにも対応できる。
確かに製造プロセスは高価だが、十分な量を作れば価格は下がると期待されている。既存のクルマをクリーンにする最も効果的な方法は燃料を変えることである、というのは昔から言われていることだ。
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