基本骨格はレクサスLSと共通。乗ってみたい、と思わせる造形
トヨタMIRAIの○と×
○:優れた走りの質感、クラウン級の作り込み
×:拠点が少なく営業時間も短い燃料充填設備
トヨタ・カムリがマイナーチェンジ。より洗練された内外装デザインへと刷新
MIRAIは2014年末、世界初の「誰でも購入できる燃料電池車(FCV)」としてデビュー。それから6年、2020年末にフルチェンジを実施した。
新型は、出力の向上と大幅なコンパクト化を図った燃料電池スタックを、従来のフロントシート下からフード下に移設。それを受け、低全高化を図るとともに前輪駆動を後輪駆動へと変更した。さらにエンジン車ではプロペラシャフトが通るセンタートンネル内にも水素タンクを置き、航続距離の延長を図っている。2ndモデルは、基本的なパッケージング・レイアウトを刷新したことが大きなトピックだ。なお基本骨格は、レクサスLSと同様のGA-Lである。
ボディサイズは全長×全幅×全高4975×1885×1470mm。全長とホイールベース(2920mm)は、旧型比でそれぞれ85mmと140mmのプラス。スタイリングは、全高が65mm低くなった効果で、流麗な印象が大いに強まった。クーペ風のプロポーションは、「ドライバーズカーとして乗ってみたくなるような『カッコよさ』が不可欠」という考えから採用したという。
「あえて狙ったわけではないが、高価なプライスタグにふさわしい雰囲気は意識した」と開発陣が語る車格感の向上は、インテリアも同様だ。室内はそつなく上質。各部の仕上がりは、たとえクラウンから乗り換えても、まったく落胆を感じる心配のない水準にある。
後席居住性もハイレベル。圧倒的な静粛性に感動
MIRAIは「エコカー」の先頭を行くキャラクターの持ち主。それゆえ公用車として採用される可能性も高い。そうなれば必然的に増えそうなのが「ショーファードリブン」としての運用。
スタイリングの影響で、後席乗降時の頭部の運びはややタイト。もっとも、ひとたび乗り込んでしまえば大人4名が長時間を過ごすのに大きな不満がない。後席に大切なゲストを招くのにふさわしい空間が確保されている。前席背後の大型グリップや電動式リアサンシェード、空調やオーディオ操作スイッチを組み込んだリアのセンターアームレストなどから成る“エグゼクティブパッケージ”を設定するのも、新型の特徴である。
MIRAIは「水素を燃料とした発電システムを搭載するEV」。特異なメカニズムを採用したモデルだが、ステアリングコラム左側のシステム起動スイッチを押し、セレクターレバーでDレンジを選択。アクセルペダルを踏み込めば、あっけないほどスムーズに走り始める。
まず驚くのは静粛性。数多くのピュアEVを試乗した経験に照らしても、「この静かさは特別」という印象だ。動力源が発するノイズがほぼ無音なのはもちろん、MIRAIの場合はロードノイズや風切り音のレベルが格別に小さい。さらに、ドアを閉じた段階で感じられる外界からのノイズの遮断性が優れている。そうした積み重ねが、圧倒的静粛性に結実した。
気持ちのいいパフォーマンス。乗り味は上質
試乗車はオプションの20インチタイヤを装着。その影響もあって、ばね下の重さを感じる場面があった。とはいえ基本的な乗り味は上質。操舵フィーリングに雑味が混じらないのは、前輪が駆動力から解放された後輪駆動レイアウトがプラスに作用しているに違いない。
パフォーマンスは気持ちがいい。「十分にスポーティ」と受け取れるだけの、小気味よい加速感を味わわせてくれる。アクセルペダルを深く踏み込んだ場合でも、爆発的加速力は得られないが、実用上は十分以上だ。フィーリングもいい。旧型は、素早く加速しようとアクセルを踏み込むとブロア音の高まりが顕著に耳に届いた。新型はそれも控えめ。「耳を澄まして待ち構えていないと、認識できない」という程度だ。
Zグレードは「静かすぎる環境」に物足りなさを抱くユーザーを想定してか、生成した電子音を専用スピーカーから室内に放出するアクティブサウンドコントロールというギミックを標準装備。ドライブモードに応じて2種類の音色が選べるように工夫されていた。だが、いずれも耳に届くのはエモーショナルと思えるほどのサウンドではなかった。もうひとひねりチューニングの余地がありそうだ。
航続距離が伸びたとはいえ、水素インフラの整備に課題を残していることは事実。補助金がないと、エンジン車に対する価格競争力がない点も未解決だ。
とはいえ、「さまざまな方法で製造が可能」で「貯めやすく」「運びやすい」という水素の特徴は、揺るがない。かつて、排出ガス対策に対して大々的に謳われたトヨタの「複眼の思想」という表現は、いまこそ蘇るべきだろう。
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それともFCをエンジンに見立てて、走行モータはアクスルの一部として考えてFRなの?