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時代の最高速モデル 1950年代 メルセデス・ベンツ300SL レーシングカー譲りの262.3km/h

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時代の最高速モデル 1950年代 メルセデス・ベンツ300SL レーシングカー譲りの262.3km/h

モータースポーツでの活躍で地位を確立

一般に、モータースポーツがクルマを進化させるといわれてきた。ガルウィングドアのクーペ、メルセデス・ベンツ300SLは、直接的な影響を与えた格好の例だろう。

【画像】1940年代のジャガーと1950年代のメルセデス・ベンツ 同時期のジャガーと最新SLも 全80枚

1950年代初頭のメルセデス・ベンツは、モータースポーツでの活躍こそが、自動車メーカーとしての地位を築くうえで重要だと考えていた。戦後のブランド復活のために。

それを受け、技術者のルドルフ・ウーレンハウト氏は、軽量で流線型ボディのレーシングカーを1951年に生み出す。エンジンは、300アデナウアー・サルーン用の2996cc直列6気筒。シングル・オーバーヘッド・カム(SOHC)の、質素なユニットだった。

コードネームにW194が振られたレーシングカーは、1952年にモータースポーツ・デビュー。ミッレ・ミリアやル・マン24時間レース、メキシコで開かれたカレラ・パナメリカーナへ参戦。それぞれのイベントで勝利を掴み、性能の高さを証明した。

パワーはそれほど高くなかったが、W194の強さを導いたのが空力的に優れたボディだった。メルセデス・ベンツというブランドを、その姿が強く印象付けた。

華々しく活躍したW194だったが、アメリカで代理店を営むマックス・ホフマン氏のアイデアがなければ、量産されなかったかもしれない。彼は裕福な自動車ファンのために、レーシングカーの市販をメルセデス・ベンツへ打診したのだ。

ホフマンは予約注文を集めていたものの、1000台という数はドイツ・ブランドにとって限定的ではあった。それでも、メルセデス・ベンツは300SL クーペの量産を決断した。

レーシングカーよりパワフルな240ps

当初のW194用エンジンに載っていたトリプル・ソレックス・キャブレターは、先進的なボッシュ社製の機械式インジェクションへ置換。量産版の300SLは、レーシングカーより最高出力が40%もパワーアップし、240psを獲得した。

発表は1954年のニューヨーク国際モータースポーツショー。当時では考えられない、時速163マイル(262.3km/h)という最高速度がうたわれた。ベースのレーシングカーより性能が高められた市販モデルは珍しい。

ウーレンハウト率いる開発チームによる、300SLの設計内容は挑戦的なものだった。スチール製のスペースフレーム・シャシーに、低く滑らかなスチール製ボディシェルを融合。ボンネットとトランクリッド、ドア、サイドシルには軽量なアルミが用いられた。

そのスペースフレームは、レーシングカーのW194からの派生。タイトなキャビンの幅も、フレーム幅が決めたもの。空力特性には優れていたものの、良くない乗降性という課題があった。その結果導かれたのが、ガルウィングドアだ。

もう1つの問題が、低いボンネットのラインを保ちながら、高さのある直列6気筒エンジンを維持するということ。解決策として、15Lのエンジンオイルでドライサンプ化され、ユニット自体も50度傾けてエンジンルームに納められた。

70年前のクルマとは思えない車内

300SL クーペの主要市場は、要求の厳しい北米。充分な性能が発揮されなかったり、信頼性が高くなければ、多大な開発コストがそのまま跳ね返ってくるリスクがあった。

そこで、搭載されるエンジンのすべてに、24時間に及ぶランニングテストが実施された。そのうちの4時間は、高負荷条件。テスト後に分解し、内部状態を確かめ、スペースフレーム・シャシーへ組み付けられた。

加えて300SLは、人間工学的にも最高水準にあった。生産から70年が経過するとは思えないほど、車内のレイアウトは入念に考え抜かれている。運転席に座れば、すぐにクルマとの距離が縮まる。

サイドシルは分厚く、ガルウィングドアを開き、大股で乗り降りするのは簡単ではない。しかしステアリングホイールがチルトするから、そこまで難しい動作でもない。

大径のステアリングホイールは2スポーク。着座位置はかなりクルマの中央寄り。ボディと同色に塗られたダッシュボードには、大きなレブカウンターとスピードメーターが並び、小さなメーターが4枚、隙間を埋める。

スライドレバーで調整するベンチレーション機能は、当時としては先進的。主要な操作系がドライバーにとって最適な位置関係にある。この親しみやすさは、いかにもメルセデス・ベンツらしい。

自動車史にとっても価値のある1台

発進も難しくない。高い位置のHパターン・ゲートから伸びるレバーは扱いやすい。クラッチペダルは若干重めだが、正確につながる感覚を得られる。

低い速度でも、風切り音は大きい。複雑な形のガルウィングドアを、完全に密閉するのは難しいのだろう。だが、2500rpmを超えた辺りから直列6気筒エンジンの唸りが大きくなり、ほどなくかき消されてしまう。

そのまま、豊かなエンジンノイズに包まれる。ドイツ・テクノに陶酔するように。

滑らかに加速し、高いスピードでコーナーへ侵入する。300SL クーペに与えられた狭めのトレッドと、スイングアスクルのリア・サスペンションの存在を実感する。

ステアリングホイールには、沢山のフィードバックが伝わってくる。だが、コーナー出口へ向けて、正確にラインを辿ることは簡単でもないようだ。

非常に珍しいメルセデス・ベンツ300SL クーペは、ブランドとしてだけでなく、自動車史にとっても価値のある1台だ。まさにクルマの世界遺産。今回の企画の10台から1台を選ぶなら、筆者は迷わずこれにするだろう。

メルセデス・ベンツ300SL クーペ(1954~1957年/欧州仕様)のスペック

英国価格:4393ポンド(1954年時)/100万ポンド(約1億6000万円)以下(現在)
生産台数:1400台
最高速度:262.3km/h
0-97km/h加速:9.3秒
車両重量:1295kg
パワートレイン:直列6気筒2996cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:240ps/6100rpm
最大トルク:29.9kg-m/4800rpm
ギアボックス:4速マニュアル

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