次戦ベルギーGPから新たなレギュレーションになる。これまで極低ライドハイトで大きなダウンフォースを得て、路面との接触で削れるはずのスキッドブロックをフレキシブルマウントで逃げていたチームは、これに対処しなければならない。さて、その新規制の詳細とフェラーリ、レッドブル、メルセデスの対応はどうなのか。元F1メカ津川哲夫氏が解説する。
文/津川哲夫
写真/Ferrari,Mercedes,Redbull
フレキシブルフロア禁止! ベルギーGPからの新レギュレーションで躍進のはずが思惑が外れたメルセデス
ポーポシングの規制でフレキシブルなマウントが禁止になった
FIAの世界評議会はベルギーグランプリに向けての新たなレギュレーションの変更を認め、加えて来年23年の変更と26年以降のPUの規則の概要も認めた。
新たな規則変更とは、今シーズン開幕から大きな問題になってきたポーポシングの規制だ。厳密に言うとポーポシング(エアロによる上下振動)とバウンシング(サスペンションによる振動)そしてフロアの底突き等による衝撃などを規制するという。どう規制するかと言うと、振動と衝撃をセンサーによって記録し、その強さの上限を数値化してそこに制限を設け、超えると規則違反となるのだ。
それと、スキッドブロックの厚さだ。レース後1mm以上減ると規則違反になる。いくつかのチームはこれまで、このスキッドブロックの搭載部分にフレキシブルなマウントを使い、路面接触時にスキッドブロック自体が僅かに上方に持ち上がり、路面との接触衝撃を弱めてスキッドブロックが大きく削れることを回避していた。しかし、このフレキシブルなマウントが禁止になった。
フェラーリやアルファロメオはフレキシブルなマウントを使っていた
フレキシブルフロアからソリッドなフロアへ
ベルギーグランプリでは今まで規制されていなかった前後方向の柔軟性の部分も規制をすることになり、新たな検査方式を導入した。規則の縛りでよりソリッドなフロアへ近づけることになったのだ。
今まではフロアエアロの効率を上げるために必要以上に車高を低めたり、路面に接触してもスキッドブロックが削れなかったりする逃げを、この規則で封じ込めたのだ。検査をより厳格化するためにFIAはスキッドブロックの“削れ減り”を計る為の検査位置をこれまでのように一部ではなく、穴の縁全域で検査することになった。
これは今回のベルギーから施工されるのだが、これに加えて来年23年からはフロアーエッジの高さを15mm上昇させ、かつエッジの柔軟性を減らしベンチュリーフロアの最も低い部分を持ち上げるという。フロアエッジの柔軟性がフロアのシール性を上げ、より効率の良いダウンフォース獲得につかわれた。このフロアエッジの柔軟性を防ぐためにフロアエッジをつり下げるFIA公認ロッドの使用を許している。
メルセデスは英国で、このFIA公認ロッドの追加のテストをしていた。つまりメルセデスW13はフロア・エッジに柔軟性があったということだろう。また、ディフューザーの両サイドもよりソリッド化されて、今シーズンFIAチェックのない部分での柔軟性が問題となった。それらを来期から強硬に封じ込めようとしている。
そして最終的に上下振動に特化したFIAの振動・衝撃・加速センサーの搭載が義務づけられ、走行中のデータ全てがFIAでチェックされることになるのだ。
本来なら車高の問題を取り上げて欲しかったメルセデス。思惑どおり行かなかったようだ
フェラーリF1-75はそんなに影響はないという
特に影響があるだろうとされていたフェラーリは問題なさそうだ
さてベルギーから施行される新規則、これまで極低ライドハイトでフロアから大きなダウンフォースを得て、路面との接触で削れるはずのスキッドブロックをフレキシブルマウントで逃げていたチームは、もちろん何とかこれに対処しなければ成らない。フェラーリはこの方式を使っていたため、影響は大きいと言われているが、実はハンガリーでフレキシブルなマウントを使ってはいなかった。それでもパフォーマンスに大きな差はなかったフェラーリF1-75はそんなに影響はないだろう。またレッドブルは最初からこの規則変更になんら問題はないし、改造の必要もないと言いきっている。
レッドブルは元々フレキシブルフロアを使っていないので問題はないという
ライバルに近づけると思っていたが、思惑が外れたメルセデス
そうポーポシングの問題を大げさに騒いでいたチーム……。ドライバーへの危険性を訴え続け、FIAを動かしてレギュレーション化に導いたメルセデスは、これで思い通りライバルに近づける……と思われた。なぜなら、メルセデスはライドハイトの上昇がポーポシング対策には必須だったからだ。ところがライドハイトを上げなくともポーポシング対策ができていて、ダウンフォースも失わないチームがいると勝負にはならない。それで、何とか規則によってライドハイトを上げさせるのが目的だった。
しかし、FIAはライドハイトそのものに関しては何も制限を付けず、スキッドブロックの削れとフレキシブルフロアだけに言及し、ライドハイトの高さに規則を設けなかった。つまりメルセデスの思惑通りには行かなかったわけだ。
結果はベルギーグランプリを見てみないとわからないが、俯瞰してみれば規則変更をしてポーポシングが収まっても、今シーズンの勢力図に大きな変化はないのでは? と考えられる。実際夏休み前のハンガリーもフランスでも各チームでポーポシング対策はできていたのだから。
それでもスパ・フランコルシャンはハイスピードながら、テクニカルな下りコーナーが多く、ドラッグを減らしながらもダウンフォースも欲しい。さらに舗装の基本は悪くはないが、アップダウンが多く水平面と下りコーナーの組み合わせはその合流点でうねりを造る。高速からのハードブレーキングとこのうねり、さらにはオールージュの縦のGフォース。ポーポシングにもバウンシングにも底突きにも、えらくタフなサーキットだ。
チームのモディファイとFIAの思惑はいかなる結果をスパ・フランコルシャンでみせてくれるのだろうか?
津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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みんなのコメント
グランドエフェクトカーの問題は過去に学んでいるのに何なんでしょう。
グランドエフェクトカー自体を止めてしまえばいいように思いますが。
1970年代後半~1980年代前半に学んだ事が全く忘れ去られている。