■世界的に知られている名車の、知られていない歴史とは?
デロリアンと聞いて思い出すのは、1985年に公開された映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズに登場するタイムマシン。本家デロリアンよりタイムマシンになった映画モデルの方が有名になったという珍しいクルマです。実際には、どのようなクルマだったのでしょうか。
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正式名称「デロリアンDMC-12」は、DMC(DE LOREAN Motor Company)が、1981年から1982年にかけて製造・発売したモデルで、数奇な運命に抗うように短い時代を生きた車種です。
バック・トゥ・ザ・フューチャーで一気にその名が知られましたが、実は映画が公開されるずいぶん前に販売が終了していたクルマでした。
デロリアンは、イタルデザイン社のジウジアーロ氏がデザインを担当し、シャシーはコーリン・チャップマン率いる英国のロータス社が開発したバックボーンフレーム構造のモデルです。
アウターパネルは、ヘアライン仕上げの無塗装ステンレス製とし、ガルウィングドアを採用、2ドアクーペのRR(リアエンジン+リアドライブ)駆動という稀な駆動方式を採用した特異な車両レイアウト&デザインでした。
ボディサイズは全長4267mm×全幅1990mm×全高1140mm、ホイールベース2408mmで、重たいステンレススティール製ボディにも拘わらず車両重量は1233kgに抑えられ、これはバックボーンフレームを採用した効果とされています。
外観デザインは、1970年代からジウジアーロ氏が手がけたロータス「エスプリ」やマセラティ「メラク」との近似性が感じられます。
象徴的なステンレススティール製のボディパネルに樹脂製のバンパーを組み合わせたボディで、組み付けが悪い個体もあり、樹脂バンパーがすぐに波打ったといわれています。
パワートレインは、プジョー、ルノー、ボルボの3社共同開発によるV型6気筒SOHC2849ccのPRV型ユニットで、最高出力は北米モデルで最高出力130馬力(欧州仕様は150馬力)と、排気量から期待する性能は発揮せずファミリーカー並みでした。
これは、当時米国で施行していた大気浄化法改正法「マスキー法」の排ガス規制をクリアするためと、直前に起きた2度目のオイルショックから、燃費の悪いエンジンは避けたといわれています。このエンジンをバックボーンフレーム後端に搭載して後輪を駆動する、いわゆるRR方式を採用。組み合わせたトランスミッションは5速MTのみでした。
このデロリアンとともに興味深いのが、DMCを創設した、ジョン・ザカリー・デロリアン氏の生涯です。デロリアン氏は米国を代表する自動車都市のデトロイトで生まれ、クライスラー工業大学を卒業し、そのままクライスラーで働く予定だったものの、「個人を忘れ、会社に適応せよ」というクライスラー社の方針に疑問を感じ、パッカードの研究開発部門に就職するのでした。
その後、GMにヘッドハンティングされ、ポンティアック「GTO」などの数々のアメリカンスポーツを生み出し、ついには最年少でGMのポンティアック部門副社長に昇りつめるのです。
しかし、保守的な社風に合わず、また夢のスポーツカーをつくりたいという信念からGMを退社して、1975年にデトロイトに本社を置くDMCを設立。
彼がつくろうとしたクルマは、それまでの米ビッグ3が製造してきた恐竜のようなアメリカ車と一線を画する本格的なグランドツーリングカーでした。そこで優秀なエンジニアリング組織を持った英国ロータス社に開発を依頼したのです。
ところが、生産拠点の決定が手間取ったうえに、車両開発にも時間を要します。初の生産車となるデロリアンのデビューは、6年後の1981年まで待たされてしまいました。
その後、英国からの資金援助を受け、工場は北アイルランドのベルファスト郊外に新たに建設。本社の国籍は米国ながら開発と生産は英国に、そしてデザインはイタリアという極めて国際的なクルマとなります。発売当初は好調な売れ行きで、パワーユニットのターボ化計画や4ドアモデルの新展開などの発表が相次ぎます。
しかし、その後のクオリティ問題に端を発する問題と2万5000ドルという高価格、非力なエンジンなどから不人気にとなり、売上が激減。
さらに、北アイルランドへの工場誘致の条件として公布されていた英国政府からの補助金が停止され、経営が一気に悪化します。また、デロリアン氏自身がコカイン密輸の容疑をかけられたことから、デロリアンは8538台を生産した段階で、1982年にDMCは倒産してしまいます。
バック・トゥ・ザ・フューチャーの1作目の公開は1985年となり、倒産から3年後に採用されたことになります。ちなみに、登場人物の「ドク」によると、愛車のデロリアンを改造した理由は「ステンレスがタイムマシンにとって好都合」だったとのことです。
映画の大ヒットによって世界的に名前が知られたデロリアンですが、デロリアン氏の麻薬密輸容疑は晴れたものの、彼の夢のプロジェクトは瓦解します。会社復興もうまくいかず、2005年に80歳の生涯を終えるのでした。
■出ては消える「デロリアン復活」の噂
2011年秋に、日本で「デロリアン、EVで復活か?」というニュースが流れました。
ニュースによればDMCの設備などを譲り受けた会社が、米EVベンチャーと協力して「2013年に発売するとした」という内容でしたが、その後のリリースは判然としていません。
では、現在デロリアン復活の真相はどうなっているのでしょうか。国内の株式会社デロリアン・モーター・カンパニーは以下のように話します。
「米国本社の見解として、EVはリリース予定という基本方針に変わりはありません。具体的な時期は未定ですが、国内での予約は受け付けています。なお、ガソリン車については、復活するために米国での法律改正を待っています」
映画のヒットによって世界中にファンを持つものの、販売に結びつく見込みが立ちにくいことが、復活が難航しているようです。
なお、バック・トゥ・ザ・フューチャーの2作目にて、30年後の未来として描かれていたのは2015年です。あの頃描かれた未来から、既に5年近く経過しています。
作中で、科学者ドクは「お金儲けのためにタイムマシンを開発したのではない」といった発言をしていますが、お金儲けができなければタイムマシンさえ復活できない現代に、彼は何を思うのでしょうか。
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