2008年、メルセデス・ベンツCクラスワゴン、アウディA4アバントの登場もあって、Dセグメントワゴンに大きな注目が集まっていた。国産ワゴンが少なくなっている中、輸入Dセグメントワゴンの人気が高まっていた。Motor Magazine誌では、ボルボV70、BMW3シリーズツーリング、フォルクスワーゲン パサートヴァリアントというDセグメントの人気ワゴンの魅力を検証。ここではその模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine2008年6月号より)
自由であるがゆえに個性が発揮されるワゴン
ステーションワゴンというボディから受けるイメージは人それぞれによって大きく異なるだろう。が、言うなればキャビン後方にラゲッジスペースをアドオンしたという、この種のモデル特有のプロポーションからは、「それに乗る人のライフスタイル」もある程度は連想できてしまったりもしそうだ。考え方次第でその使い勝手も大きく広げることができるのがこのボディ形態。それが、ステーションワゴンならではの魅力の原点でもあるはずだ。
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「儀礼的なフォーマルさ」が基本的なイメージと重なる3ボックスのセダンや、広大な室内空間であるがために「家族サービス」の雰囲気が抜けないミニバン、あるいは、「合理性優先」の印象が強いハッチバックといったボディとはまた異なる「自由奔放さ」が、ステーションワゴンの魅力を生み出すエネルギーの源だろう。
通常走行時には、セダンと同等の後席居住性を確保しながらも、いざとなればそこをちょっとした貨物車並みの荷物のための空間へと変身させる、そんな変幻自在の多用途性が、それを所有するオーナーの自由度の高い発想力をどことなくイメージさせてくれる。
かくも付加価値性に富んだボディ形態であるだけに、そこには各メーカーそれぞれの創意工夫が溢れる点にも興味が尽きることはない。とくに、ステーションワゴンの要であるボディのリアセクションをどのようなデザインとするかはメーカーによってまさに千差万別。ここに、用いられる多種多様なクルマづくりの流儀が、各メーカーから生まれるステーションワゴンをより多種多用なキャラクターの持ち主へと色分けしていく。
走れば走るほど印象が好転していくV70
最新の輸入ステーションワゴンとしてまず真っ先に注目しないわけにはいかない存在。それが、はるばる北欧はスウェーデンからやってきたボルボの新型V70だ。
「ワゴンといえばボルボ」であり、「ボルボといえばワゴン」だと、そんなイメージを抱く人は少なくないだろう。それはこのブランドが発した「エステート」を名乗るステーションワゴンが、実はすでに軽く半世紀という時間を超える、歴史と伝統ある存在である点にも大きな影響を受けているに違いない。
1953年にリリースされたボルボ初のステーションワゴン=PV445には、当時デュエットなる愛称が与えられた。趣味と実用を両立できるモデル、あるいは乗用車と商用車の双方の特徴を兼ね備えた存在という、今で言えばクロスオーバーカー的なキャラクターが、すでにこの時に強く意識されていたわけだ。ボルボはやはりステーションワゴンづくりの老舗であるということがよくわかるエピソードでもある。
一方、V70を名乗るエステートとしては3代目となる現行モデルは、日本では2007年11月のデビュー。今回も、いかにもボルボのステーションワゴンというイメージを強く放つスタイリングで登場した最新V70の、まず大きな特徴は、ついに6気筒エンジン搭載モデルをそのラインアップに加えた点にある。
新型V70のフロントフード内にマウントされるのは、3.2Lの自然吸気エンジンと3Lのターボ付きエンジン。そのいずれもが直列6気筒というデザインであるのも特徴だ。V70はそれを横置きとすることで、「フロントクラッシュ時のクラッシャブルゾーンをより大きく確保」というボルボならではのセーフティフィロソフィへの貢献も実現させているのだ。
そんな新しいV70を目の当たりにすると、実はこのモデルがもはや「LLクラス」とでも呼びたくなるサイズの持ち主であることを教えられる。実際、4825×1890mmという全長×全幅サイズは、日本でパーソナルワゴンとして用いるには、まさにフルサイズ級の大きさ。今回テストに連れ出した3台中でももちろん最大サイズ。従来型比でも全長で100mm、全幅で80mm以上の拡大を果たした新型V70は、「ゆとりあるサイズのステーションワゴンが欲しい」という選択眼で見られた場合の商品性を、一気に高めたことにもなる。
なるほど、ドライバーズシートへ乗り込むと、そんな「大型化」は室内空間の広さからもすぐに実感できる。中でも、横方向への広がり感は特筆すべきもの。そしてそれが例の「スカンジナビアンデザイン」を意識したインテリアの仕上げと相まって、ボルボ車ならではのゆったりとしたゆとり感を演じてくれるのだ。
ラゲッジスペースの仕上がりが、まるでそんなキャビン部分を延長したかのような雰囲気であるのもボルボのステーションワゴンらしさを継承している部分。V70のラゲッジスペースは実用性一辺倒の作りとは一線を画しているのだ。
今回のテスト車は、6気筒モデルではなく、従来型から受け継いだターボ付き5気筒エンジンを搭載する2.5TLE。過給圧をある程度までに抑えたいわゆる「ライトプレッシャーターボ」を採用したこの心臓の最高出力は200ps。ただし、300Nmという最大トルク値は、自然吸気6気筒エンジンの320Nmに肉薄する。
そんな心臓を搭載したこのモデルの動力性能が、しかし予想以上に力強く好印象なものであったのは、そこに組み合わせるATが6速仕様であった効果も大きそうだ。1.7トンを超える車両重量に対しても、まずフルアクセルを与える必要に迫られることはないし、6気筒エンジンと直接比較を行えばさすがにそのスムーズさでは一歩譲るものの、加速時の静粛性も十分に「優れている」という評価を与えることができるものだ。
しかし、このモデルで感心したのは、そんなパワーパックのみではない。むしろ、高速道路上で長時間クルーズを続けると、走れば走るほどに印象が好転をしていくという、そんな懐の深い走りのテイストにこそ、改めて新型V70の良さを実感させられたのだ。
前述のように加速能力が特に長けているというわけではないし、舵の効きもことさら正確性が高いという印象ではない。接地感が飛び切り色濃いというわけでもなく、従って短時間のドライブでの評価では「さほど印象に残らない走り」とそんな程度で終わってしまうかも知れない。
けれども今回、数時間に及ぶ連続したドライブを経験して、再度ボルボ車の真髄に触れた気がした。どこまでも平常心のままでのドライビングを可能としてくれること、それこそがV70ならではの得意技であると気が付いたのだ。
「セダンよりスポーティ」な印象の3シリーズツーリング
そんなV70の走り味からすると、見方によってはそのテイストは対極に位置するとも思えたのがBMW325iツーリングだった。
いかにも回転バランスに優れていることをイメージさせるエンジンサウンドを耳にしながら、ステアリングの濃密な反力を手に感じながらのこのモデルでのドライブは、それゆえに常に「クルマを操っている」という事柄を意識させられるものだ。それが「駆けぬける歓び」という、例のフレーズの根源を支えるものという理解はもちろん可能だが、しかしある程度「走りの実感」をオブラートに包み込むことでリラックスしたドライビングの演出を行うV70に対すると、まるで180度異なるアプローチとも思えるのがこのモデルの行き方でもあるのだ。
世界で最もランフラットタイヤの採用に積極的なメーカーの作品らしく、325iツーリングも当然のようにそれを装着する。そして、走り出しの瞬間には「ランフラットタイヤの履きこなしも随分上手くなったナ」と、そんな真円度の高そうな車輪の回転フィールが連想できるのがこのモデルの走り味でもある。
けれども、連続した長時間のクルージングでは、そんな色濃い走りの感覚がちょっとばかり鼻に付くという印象が無きにしもあらず。フラット感はそれなりに演じられるものの、路面凹凸を拾った際の突き上げ感が少々強い乗り味も、そんな印象に拍車をかける。
BMW車ならではのダイナミックなドライビング感覚も、それを連続して長時間味わうと、ちょっとばかりシツコイと思える瞬間がある。これまで何種類か放映されてきたBMW車のTVコマーシャルが、いずれも「コーナリング」というシーンにフォーカスしてきたのはまさに「言い得て妙」なのだ。
そんな325iツーリングのラゲッジスペースは、どちらかと言うとセダンのトランクスペースが、大きなゲートと高い荷室高を採り入れたものへと「変形」した、という雰囲気の感じられるもの。強く前傾したリアウインドウや後ろ下がりのルーフラインも、「まず荷室容量ありきでデザインしたのであれば、決してこうはならなかったはず」というシナリオが想定できるものだ。
一方、BMWらしいそんな割り切りによって生まれたパッケージングは、見る人によっては「むしろセダンよりもスポーティ」と感じさせるスタイリングへとつながる結果になっている。
率直に言って、とくに後席使用時のラゲッジスペースのボリュームは「ステーションワゴンとしては物足りないもの」と思えなくもないが、しかしそんな際立つ個性が許され、オーナーとなる人にはむしろそれがひとつの「勲章」として受け取ってもらえるという比類なきブランド力を身につけているのが、今のBMWとも考えられる。
機能的で買い得感の高いパサートヴァリアント
一方、さすがにV70の水準にまでは達していないものの、実は325iツーリングよりは確実に大きなボディサイズの持ち主なのがパサートヴァリアント。4.8m級の全長に1.8mを超えるという全幅は、多くの人が「フォルクスワーゲン」というブランド名から受けるイメージを遥かに超越した大きさと言えるだろう。「見た目以上に大きい」のが、まずはこのモデルの特徴だ。
実際、このモデルの「大判ぶり」を裏付けるのが、ラゲッジスペースの容量。見るからにタップリとしたパサートヴァリアントのこの空間は、今回の3車中でも最大のデータを誇る。後席使用時で603L、後席アレンジ時で1731Lというそのデータは、実はV70の575~1600Lという数値をも上回る広大さ。ちなみに、325iツーリングのそれは460~1385Lで、やはりこちらはそもそも「容量競争」に参戦を企てていないことが明らかだ。
パサートの走りは、良くも悪くも「与えられた仕事を淡々とこなす」という印象の強いものだった。1.8Lの直噴ターボ付きエンジン+6速ATという組み合わせが生み出す動力性能は、出力面でもフィーリング面でも「余剰感こそないものの不足/不満はまったく感じないレベル」。一方、直進性に長け、コーナリングもソツなくこなすフットワークは、多くの人々が抱くであろう「ドイツ車」に対するイメージを裏切らない仕上がりだ。
ただし、静粛性面ではタイヤが伝えるロードノイズ/空洞音が、他の2車より大きいと感じられた。フォルクスワーゲンのハイエンドステーションワゴンであるという点から、そこに格別のプレミアム感を求めるのであれば、このあたりは減点の対象と言わざるを得ないだろう。
もっとも、このモデルの評価にあたっては、その設定価格を抜きには語れない。350万円を下回るというプライスタグは、V70/325iツーリングと比べるべくもないバーゲン価格であると判断できるからだ。
そう、こと「コストパフォーマンス」という観点のみから結論を導くのであれば、今回の3車中圧倒的な強みを示すのがこのモデル。V70が見せたユーザーに対する温かなホスピタリティ精神、あるいは、325iツーリングのダイナミズムへの徹底したこだわりといった個性は見られないものの、「とにかく、機能面でステーションワゴンとして良くできた1台が欲しい」となると、俄然ポテンシャルを発揮しそうなのがこのパサートヴァリアントであると紹介できそうだ。
ひと口に「Dセグメントに属するステーションワゴン」と紹介しても、たちまちこれほどまでの考え方の違いや個性を見つけることができるのが輸入車の面白さ。多くの日本の自動車メーカーが、同じようなマーケティング調査の結果に、同じようなキャラクターのクルマを、同じようなタイミングでリリースする場合が少なくないのに比べると、まだまだ作り手自らが、理想とする考え方に基づき、さまざまな製品を企ててくる輸入車の世界は、乗る人の個性や主張に合わせた「クルマ選び」の醍醐味が遥かに色濃く残されていると感じられるものだ。
だからこそ、そんなクルマたちに乗るというのはまた、そのオーナーの個性を表現する手段にも他ならないと言えるのではないだろうか。そんなことを考えさせられる今回のステーションワゴン3銘柄なのであった。(文:河村康彦/Motor Magazine 2008年6月号より)
ボルボV70 2.5T LE 主要諸元
●全長×全幅×全高:4825×1890×1545mm
●ホイールベース:2815mm
●車両重量:1750kg
●エンジン:直5DOHCターボ
●排気量:2521cc
●最高出力:200ps/4800rpm
●最大トルク:300Nm/1500-4500rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:488万円(2008年)
BMW 325iツーリング 主要諸元
●全長×全幅×全高:4525×1815×1450mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1580kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2496cc
●最高出力:218ps/6500rpm
●最大トルク:250Nm/2750-4250rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:555万円(2008年)
フォルクスワーゲン パサートヴァリアント TSIコンフォートライン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4785×1820×1530mm
●ホイールベース:2710mm
●車両重量:1520kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1798cc
●最高出力:160ps/5000-6200rpm
●最大トルク:255Nm/1500-4200rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:345万円(2008年)
[ アルバム : ボルボV70 2.5T LE、BMW325iツーリング、フォルクスワーゲン パサートヴァリアント TSIコンフォートライン はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
特に高速で長時間移動なら間違いない。