SUVやサルーンのポルシェは本流ではないというのは当然理解できるが、その一方で積載能力や、家族と旅を楽しめるポルシェという側面も無視できない。使えるSUVのポルシェとして、あるいはサルーンのポルシェとして注目が集まるモデルをあらためて試乗し、再考した。REPORT◎高平高輝(TAKAHIRA Koki)PHOTO◎篠原晃一(SHINOHARA Koichi)
やっぱりあった、と思いつつステアリングホイールを瞬間的に右に当てる。昔さんざん走った道は久しぶりでも案外正確に覚えているものだ。確かこの先の左コーナーには大きなうねりがあったはず、と何となく身構えていたせいもあるが、覚えていたほどは跳ね上げられなかった。上下に煽られて、はずみでリアが外側にザっと流れ、おそらくタイヤ一本分ぐらいは外側に膨らんだだろうが、一瞬ステアリングを当てただけで再び何事もなかったかのように加速できた。こういう懐の深さというか余裕というか、ドライバーに十分コントロールできるという確かな自信を与えてくれるのがさすがだ。一番おとなしいスタンダードのパナメーラであっても、やはりポルシェであると納得せざるを得ない。
裏磐梯を抜けるこのルートは交通量が少ないだけでなく、アップダウンもあればツイスティなコーナーも高速セクションもあり、さらに適度に舗装が荒れている個所も路面のうねりも、すべて揃っているという理想的な試乗コースである。もしも同じコースを911カレラで走ったならもっと痛快だったろうな、と考えることをやめられない自分もいる。
これは楽しい! まるでレーシングカーのようなフェラーリ488ピスタに試乗(前編)
ポルシェといえばスポーツカー、つまり911に限る。百歩譲ってもボクスターかケイマンだ。せっかくポルシェを選ぶのに、どうしてわざわざSUVや4シーターセダンを選ばなくてはいけないのか、と頭から認めたくないという人もまだまだ多い。正直に言えば私もその派閥である。まあ、ある程度以上の年齢のドライバーなら自然な反応ともいえる。何しろ私たちの世代は若いころからさんざんポルシェの凄さを聞かされて、911への憧れが染みついている。それに比べてカイエンやパナメーラが登場したのは21世紀になってから、ついこの間のことなのである。今流行しているからと言って、音楽の好みが急には変わらないのと一緒である。
もちろん、SUVに手を染めるのはスポーツカーメーカーの矜持にかかわるなどと言っている時代ではないことは理解している。とうとうロールス・ロイスさえSUVを発表し、残る牙城のフェラーリは一体どうするのか、というところまで来ている。であれば、創業以来最低限の実用性を捨てないモデルを作り続けてきたポルシェが、スポーツカーメーカーとしてはいち早くSUV開発に乗り出し、実際に大成功を収めたのは、まさに先見の明があったと言わなければならない。今や年間24万台ほどを生産するポルシェのその7割以上がSUVという。911は依然進化を続けているが、屋台骨を支えているのはSUVであることは、もはや否定できない事実である。
またそこで得られたノウハウが、グループの他のブランドに活かされているというシナジー効果も見逃せない。それでも、とオジサンの頭の中では堂々巡りが始まる。911に思い入れがない若いユーザーには分かってもらえないかもしれないが、これもまたポルシェと認めるにはどうしても何かがちょっと引っかかるのである。
飛ばせば飛ばすほど輝く
ほぼ1年前のジュネーブショーでデビューしたのがパナメーラのワゴンバージョンである「スポーツツーリスモ」だ。といってもボディの3サイズは標準型と変わっていない。ホイールベースも2950mmで同一だから、乱暴に言えばルーフを伸ばした先により小さなハッチゲートを取り付けたシューティングブレークのような位置づけなのだろう。知らない人には見分けがつかないぐらいの微妙な違いである。荷室容量は20ℓ増えて520ℓ(最大1390ℓ)に拡大され、後席が3人掛けとなり(中央席は大人にはちょっと苦行だが)日常での使い勝手が向上したことのほうに意味があるかもしれない。とはいえ、それをわざわざ別のモデルラインとして発売してしまうのだから、さすがポルシェは商売上手という気がする。
ターボ・スポーツツーリスモのエンジンは標準ボディのターボと同じ4.0ℓV8ツインターボで、550psと770Nmを発生、トランスミッションは8段に増えたPDKである。スポーツクロノパッケージ付きでは0→100km/h加速3.6秒という超弩級のパフォーマンスを誇り、全開加速を試みると4WDならではの路面を削るような瞬発力を見せつけ、目の前がちょっと暗くなるほどの加速Gを造作なく発揮する。
もっとも、山道を全力の半分程度のペースで走っている限りは、まるで問題なく素晴らしく安定してスイスイ速く、また高速道路では巌のように安定しているのだが、不思議なことに、山道をフルスロットルで走ろうとするとかえってぎこちなくなってしまうことに気づいた。もちろん豪快だが、いささか洗練度に欠けるというか、無理矢理に曲がっている感触がある。過剰なほどのパワーをトルクベクタリングや4WSなど、満載された電子制御システムが知らぬうちに抑えて、それがぎこちなさを生み出しているのかもしれない。ならばシステムオフにすれば、というところだが、人里離れた山道でもすべてを解き放つのは後ろめたいほどの怪力なのである。
それに対してスタンダードのパナメーラの3.0ℓV6ツインターボは330ps、450Nmという「ターボ」に比べれば穏当なパワーを発生。RWDだから車重も約250kg軽量だ。エンジンそのものはあまりエキサイティングではないタイプながら、十分にパワフルだ。一方でワインディングロードを飛ばせば飛ばすほど、そのリニアなコントロール性と高い安定感が身体に浸み込んでくるのがスタンダードのパナメーラである。ロールも小さくないが、姿勢変化は自然でまったく不安に感じない。バランスに優れる車というのはまさしくパナメーラのことである。
一番の新顔かつとっつきやすいマカンだが、GTSは600万円台から始まるシリーズの中でも「マカンターボ」に次ぐ上級高性能モデルで車両価格も1000万円に近い。こちらも3.0ℓV6ツインターボエンジン(ボア×ストロークは96×69mm)を搭載するが、パナメーラ用とは異なり、マカンターボの3.6ℓV6ツインターボ(同96×83mm)のショートストローク版である。この3.6ℓV6は4.8ℓV8から2気筒を省略したものだから、パナメーラ用の3.0ℓV6ツインターボ(84.5×89mm)とは系統が別で、いわばひとつ前の世代のユニットである。
またそれとは別にパナメーラ4S用などに440psの2.9ℓV6ツインターボユニットも用意されているので紛らわしい。パナメーラの図体に比べコンパクトと思いきや、1.9mを超える全幅は狭い山道向きというわけでもない。視界はいいが、その分やはり腰高感は否めず、山中で思い切り踏むのは、得意ではない競技を無理強いしているようでちょっと気が引ける。もちろんポルシェ同士の比較の話である。
モデルや価格とパフォーマンスの“年功序列”を少しも乱さず守るところがポルシェの憎らしいところ、値段分は何かしらのメリットがあるのが通例だ。ただし、それもモデル数が増えて複雑微妙になってきた。今回は素のパナメーラの完成度が明らかに光っていたのである。
※本記事は『GENROQ』2018年7月号より転載したものです。
SPECIFICATIONS
ポルシェ・パナメーラ・ターボ・スポーツツーリスモ
■ボディサイズ:全長5049×全幅1937×全高1432mm ホイールベース:2950mm トレッド:F1657R1639mm ■車両重量(EU):2110kg ■エンジン:V型8気筒DOHCターボ 総排気量:3996cc 最高出力:404kW(550ps)/5750~6000rpm 最大トルク:770Nm(78.5kgm)/1960~4500rpm ■トランスミッション:8速DCT ■駆動方式:AWD ■サスペンション形式:Fダブルウイッシュボーン Rマルチリンク ■ブレーキ:F&Rベンチレーテッドディスク ■タイヤサイズ(リム幅):F275/40ZR20(9.5J) R315/35ZR20(11.5J) ■パフォーマンス 最高速度:304km/h 0→100km/h加速:3.8秒 ■環境性能(NEDC) CO2排出量:217~215g/km ■車両本体価格:2453万3000円
ポルシェ・パナメーラ
■ボディサイズ:全長5049×全幅1937×全高1423mm ホイールベース:2950mm トレッド:F1671R1651mm ■車両重量(EU):1890kg ■エンジン:V型6気筒DOHCターボ 総排気量:2995cc 最高出力:243kW(330ps)/5400~6400rpm 最大トルク:450Nm(45.9kgm)/1340~4900rpm ■トランスミッション:8速DCT ■駆動方式:RWD ■サスペンション形式:Fダブルウイッシュボーン Rマルチリンク ■ブレーキ:F&Rベンチレーテッドディスク ■タイヤサイズ(リム径):F265/45ZR19(9J) R295/40ZR19(10.5J) ■パフォーマンス 最高速度:264km/h 0→100km/h加速:5.7秒 ■環境性能(NEDC) CO2排出量:173~171g/km ■車両本体価格:1162万円
ポルシェ・マカンGTS
■ボディサイズ:全長4692×全幅1926×全高1609mm ホイールベース:2807mm トレッド:F1650R1660mm ■車両重量:1940kg ■エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ 総排気量:2997cc 最高出力:265kW(360ps)/6000rpm 最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1650~4000rpm ■トランスミッション:7速DCT ■駆動方式:AWD ■サスペンション形式:FダブルウイッシュボーンRマルチリンク ■ブレーキ:F&Rベンチレーテッドディスク ■タイヤサイズ(リム幅):F265/45R20(9J)R295/40R20(10J) ■パフォーマンス 最高速度:256km/h 0→100km/h加速:5.2秒 ■環境性能(モード) CO2排出量(EU複合モード):215~210g/km 燃料消費率(EU複合モード):9.2~8.9ℓ/100km ■車両本体価格:981万円
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