8 月23日~25日、三重県・鈴鹿サーキットで「鈴鹿10時間耐久レース」が開催された。このレースは、昨年始まったGT3カーの世界一を決める耐久レース。世界5大陸をまたいで、年間全5戦で競われる「インターコンチネンタルGTチャレンジ(IGTC)」のアジアラウンドとして位置付けられ、日本をはじめヨーロッパ、アジアなど世界各国から強豪チームが集結。10時間を走行しその走行距離の長さを競うものだ。
このレースに、新型のベントレーコンチネンタルGT3の姿があった。ベントレーというと高級車ブランドのイメージが強いが、実はそもそもは1919年にW.O.(ウォルター・オーウェン)ベントレーによって創業されたスポーツカーメーカーだ。ベントレーが製作したクルマは当時の上流階級に生まれ育ったリッチな若者たちから絶大な支持をうける。彼らは購入したマシンをもちより“ベントレーボーイズ”というチームを結成。いまのジェントルマン・ドライバーのルーツとも言えるものだ。1923年に始まった第1回ルマン24時間レースにカーナンバー8をつけたベントレーが参戦。この年は4位に終わるも、翌年のルマンでは見事に初優勝。以降1930年までに5度の優勝を遂げている。ベントレーのモータースポーツの歴史はこうして始まった。
ベントレーは今年創業100周年を迎え、モータースポーツの新たなディレクターにポール・ウィリアムズを任命した。ウィリアムズは2008年にベントレーに入社、パワートレインの開発者として市販モデルのコンチネンタルGTのV8エンジンの開発に従事し、その後はパワートレイン全体のディレクターとして、コンチネンタルGTをはじめ、フライングスパー、ベンテイガ用の新型6ℓW12エンジンの開発の指揮をとってきた。そして今年8月、ベントレーのモータースポーツの名物ディレクターであったブライアン・ガッシュの後任として大役を担う。そのウィリアムズに鈴鹿サーキットで話を聞くことができた。
10h Suzuka 2019Communications Audi Sport customer racingラグジュアリー、だけじゃない——まず最初に、高級車ブランドになったベントレーがいまもレースを続けているのはなぜでしょうか?
ウィリアムズ:「理由は2つあります。1つは、耐久性の高さを証明するため。ベントレーには100年近く前から、ルマン24時間レースに参戦してきた歴史があり、耐久性の高さを証明してきました。もう1つは、GT3カテゴリーにおいて、存在感を高めることです。現在のGT3には実にたくさんのブランドが参戦しています。ベントレーはラグジュアリーとパフォーマンスを両立したブランドです。一方で競合は、フェラーリ、ランボルギーニ、マクラーレン、ポルシェといったスーパーカーやスポーツカーブランドです。彼らと競いあうことでベントレーのパフォーマンスをお客様にアピールすることができます。そしてカスタマーが、もしレースに参戦したいとなれば、このGT3カーを購入することができるのです」
※GT3とは、FIA(国際自動車連盟)の規定に準拠したレースカーのこと。スポーツカー、スーパーカーのみならず、メルセデス(AMG GT)、BMW(M6)、アウディ(R8)や日本勢もレクサス(RC F)、日産(GT-R)、ホンダ(NSX)など各社がGT3カーをつくっている。最大の特徴は“市販車”であること。したがってプロドライバーだけでなく、ジェントルマン・ドライバー(アマチュア)も運転することが可能で、GT3カテゴリーの多くのレースはプロとアマが混走するレギュレーションになっている。
———パワートレインの担当からモータースポーツの担当になって、とまどいはありませんか?
ポール・ウィリアムズがベントレーに入社したのは2008年のこと。V8エンジン開発のディレクターとして入社し、6リッターWI2エンジンや4リッターV8エンジンを開発した。ウィリアムズ:「およそ12年前にコンチネンタルGTにV8エンジンを搭載するプロジェクトを始めるということでベントレーに入社したのですが、今もそのV8をベースにしたエンジンがこのGT3カーに搭載されています。そういう意味では感慨深いものがありますし、レースチーム全体を見ることができる仕事は実にエキサイティングですね」
———ベントレーのマシンは見るからに大きいですが、レーシングマシンとしてはデメリットはないのでしょうか?
ウィリアムズ:「このV8エンジンは(エンジンオイルを安定供給する)ドライサンプ方式を使って位置を低くし、そしてより車体中心に搭載しています。重量バランスは限りなく50:50ですし、車両重量は約1275kgと競合と変わりません。BoP(性能調整)もありますし、前面投影面積が大きく見えるかもしれませんが、空力には良い影響もあって、実は大きなダウンフォースが得られます。ネガティブなことばかりではありません」
——市販車と共通するのはエンジン以外にもあるのでしょうか?
ウィリアムズ:「エンジンではシリンダーヘッドやブロックなどは市販車と同じものを使っています。またボディの基本構造も同じです。ギアボックスやサスペンションなどはレース専用品になりますが、多くを共通化しています」
Drew Gibson「日本にも“ベントレーボーイズ”があらわれることを期待します」——いま世界的にGTカーレースが盛り上がっていて、新たにGT4カテゴリーができています。またベントレーといえば、ルマン24時間のイメージがありますが、GT4やルマンへの復活などのプランはないのでしょうか?
ウィリアムズ:「GT4はより市販車に近いカテゴリーで、GT3よりもコスト的にも始めやすいこともあって検討をはじめています。ルマンについては、それこそ毎年ディスカッションしています(笑)。してはいるのですが、まだ最終決定には至っていません」
——それからベントレーのチーム名ですが、「ベントレー チーム Mスポーツ」となっていますが、Mスポーツとの関係性を教えてください。
※欧州ではさまざまなモータースポーツ専業企業が存在し、自動車メーカーとタッグを組んでワークスチームを構成するケースが多い。Mスポーツは、英国で1979年に創業され、競技用車両の製造、販売、整備、チーム運営などを行う。M スポーツといえばWRC(世界ラリー選手権)での活躍が有名。現在もM スポーツ フォード・ワールド ラリー チームとして参戦している。ベントレーとは2014年より「ベントレー チーム Mスポーツ」としてブランパンGTシリーズなどに参戦している。
ウィリアムズ:「車両開発やチーム運営をまるごとM スポーツに委託しているわけではありません。ベントレーモータースから3名がMスポーツに常駐して、GT3マシンを共同で開発していますし、レースの現場でもベントレーとM スポーツのスタッフが一緒になって働いています。とてもいいパートナーです」
100年記念のスペシャルカラーが施されたコンチネンタルGT3。7月26日から28日にかけて開催されたトタル・スパ24時間に投入した。———しかし、GTレースをやるのに、なぜラリーで有名なMスポーツと手を組もうと思ったのですか?
ウィリアムズ:「GT3のプログラムを始めるにあたってパートナーを探すときに、これまでGT3を手掛けていない、まったく違った考え方をもったチームと組んでみたかったのです。M スポーツとのタッグは新鮮だし、WRC仕込みもあって耐久レースの経験も豊富だし、何よりマシントラブルへの対処が速い(笑)」
——日本のスーパーGTでも、2017年と2018年の2年間だけ、ベントレーが走っていましたが、これまでベントレーのコンチネンタルGT3は何台くらい販売されたのでしょうか?
ウィリアムズ:「第1世代がおおよそ40台くらい、そして昨年出た新型が約20台くらいです。新型はまだアジアの顧客がいないので、ぜひ日本でもアピールしたいですね(笑)。ただ、台数を増やして利益を追求するよりも、強いチームと組んで走りたい。日本にも“ベントレーボーイズ”があらわれることを期待します」
今年の鈴鹿10時間耐久レースでは、伝統のカーナンバー7と100周年をあわせたゼッケン107のベントレーが見事に8位入賞を果たした。来年は日本人“ベントレーボーイズ”の活躍に期待する。
文・藤野太一 編集・iconic
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