■愛らしいミウラの目元にまつわるストーリー
スーパーカーの始祖といわれている、ランボルギーニ「ミウラ」ですが、優雅でなめらかなラインのボディは美しく、オークションなどでの市場価格も1億円を超えるようになりました。
ミウラがいまなお人気があるのは、シャシの設計と開発を担当したのがジャンパオロ・ダラーラ、そしてエンジンはジョット・ビッザリーニ、そのエンジンを改良したのがパオロ・スタンツァーニ、ボディのスタイリングはベルトーネのマルチェロ・ガンディーニという錚々たるメンバーが参与していたことも大きな理由です。
しかし、ミウラの独特の丸目ヘッドライトに魅了される人も多いはずです。そこで、ミウラのヘッドライトについて解説します。
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●まつ毛のあるミウラP400 & 400S
ミウラのヘッドライトは、当時のフィアット「850スパイダー」のヘッドライトを流用したものでした。
当時、ヘッドライトやテールライトといった灯火類は、自動車メーカーを超えて広く流用されるのが普通でした。
ミウラが850スパイダーと異なるのは、850スパイダーが固定式であるのに対し、ミウラはポップアップ式だったのです。ポップアップすると、カエルのようでなんとも愛らしい顔でした。
そしてもうひとつの特徴は、ヘッドライトの上下に通称「まつ毛」と呼ばれるパーツが装着されていたことです。このまつ毛が装着されるミウラは、初期の「P400」と「P400S」です。
その形状から冷却用、もしくは空力を考慮したように見えますが、ミウラの完成形ともいえる「P400SV(スピント・ヴェローチェ:通称SV)」には装着されていないため、単なるデザイン上の装飾であったといえます。
この「まつ毛」と呼ばれる金属製パーツは、実際に手にすると結構な重量ですので、軽量化の意味でもミウラP400SVには装着されなかったと考えられます。
●まつ毛がなくなったミウラP400SV
ミウラの特徴であった「まつ毛」がなくなったミウラP400SVですが、それまでのミウラのイメージを変更しないように、「まつ毛」が取り付けられていた箇所は、ブラックでペイントが施されています。
ヘッドライトを黒く縁取られたミウラP400SVは、パンダのようにも見え、これはこれで愛嬌があります。
意外と知られていないのは、「まつ毛」がなくなったP400SVのヘッドライト周りに、2つの仕様があるということです。
ひとつは、ヘッドライトの上下に二分割されたプレートを装着したものです。これは、ミウラP400SVの最初期モデルに採用された方式です。この仕様のミウラP400SVは、個体数が非常に少なく、かなりのレアモデルです。
そしてもうひとつは、カウル一体型です。これはヘッドライト周辺のブラックでペイントされた箇所を、丁寧に当時のカロッツェリアの職人が、ハンマーで叩いて作り出していします。イベントで見かけるミウラP400SVは、大抵の場合こちらのタイプです。
※ ※ ※
ミウラP400SVは、外観ではテールライトも変更されており、ひと目でわかるポイントとなっています。また、リアフェンダーもワイド化され、エンジンとトランスミッションの潤滑系がそれぞれ独立されるなど、機能的には数段進歩しています。
しかし、「まつ毛」のあるミウラの方がデザイン的にも好きだというカスタマーも存在しました。それは、ランボルギーニの創設者であるフェルッチオ・ランボルギーニもそうでした。
■フェルッチオ・ランボルギーニのミウラSVは、まつ毛ありだった!
機関系など、ミウラP400、P400Sのウィークポイントを改良し、スパルタンな外観になったミウラP400SVですが、先代モデルに比べてひとつだけオーナーには納得しないポイントがありました。
それは、「まつ毛」がなくなったことです。そこで、創始者フェルッチオ・ランボルギーニは、どのうような方策に出たのでしょうか。
●フェルッチオだけの特別なまつ毛ありP400SV
フェルッチオは、自社製品であるスーパーカーを、きちんと代金を支払って購入していたといわれています。レースに関心がないともいわれていますが、若い頃は自らチューニングしたフィアットで、ラリーレースにも出走しています。
フェルッチオと、その一族が所有したクルマを一同に展示した博物館があります。それが、「ムゼオ・フェルッチオ・ランボルギーニ」です。
この博物館に、フェルッチオが所有していたミウラP400SVが展示されています。フェルッチオの甥にあたるファビオ氏によれば、フェルッチオは赤やオレンジ、黄色のボディカラーを好んでいてたそうです。
そのため、フェルッチオのミウラP400SVのボディカラーは赤です。フロントからその姿を眺めると、「まつ毛」が付いていることから、ミウラP400かP400Sのようにも見えますが、膨らみを増したフェンダーなど、あきらかに様子が違います。
リアに回ると、「SV」のエンブレムが取り付けられ、テールライトもミウラP400SVのものでした。ファビオ氏によると、フェルッチオは「まつ毛」が取り付けられたミウラのほうが好みだったようで、特別に「まつ毛」付きのP400SVをオーダーしたそうです。
当時は、1台1台、モデナ周辺のカロッツェリアの職人がハンマーで叩き出してボディを作っていた時代です。それくらいのモディファイは、わけもなくやってのけたのでしょう。
こうして、いまでいうところの「アドペルソナム」仕様の、フェルッチオ専用ミウラP400SVが完成したのです。
※ ※ ※
1970年ぐらいまでのスーパーカーは、生産台数も非常に少なく、ミウラは全シリーズあわせても750台程度しか製造されていません。
それだけに、1台1台が持っているヒストリーがあり、それを調べるだけでも非常の楽しいものです。スーパーカーは実際に所有しなくても、いろいろな楽しみ方があるのです。
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