2ドアクーペより人気の4ドアクーペ
text:Lawrence Allan(ローレンス・アラン)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
市場動向を見ると、高い訴求力だと思わざるを得ない。ポルシェ・パナメーラやメルセデスAMG GT 4ドアクーペに対抗するべく登場した、BMW M8コンペティション・グランクーペのことだ。
最新の4ドア・クーペは、ドライバーが得られる興奮に焦点が向けられている。さらに日常の利便性も忘れていない、プレミアム・スポーツだといえる。
M8コンペティション・グランクーペは長い。2ドアクーペのM8より、ホイールベースは201mmも伸ばされている。ドアは4枚へ増えているが、クーペより安いのも特長。英国では2500ポンド(34万円)ほど、お手頃価格に設定されている。
もっとも、1万2000ポンド(1656万円)を軽く超えるような価格帯のバイヤーなら、気にするほどの違いではないだろう。オプションを選べば、この価格差はすぐに消えてしまう。
クラシックで大きな2ドアクーペを選ぶか、ほっそりと長いモダンな4ドアクーペを選ぶかは、好みの問題だと思う。今は、4ドアクーペの方が人気は高いようだ。
遠くないうちに、プレミアムな2ドアクーペ最大のライバルは、消える運命にある。メルセデス・ベンツSクラスのクーペとコンバーチブルは、モデルチェンジの予定がない。
M8グランクーペのメカニズムは、基本的には2ドアクーペのM8と共通。624psを発生するV型8気筒エンジンを搭載し、四輪を駆動する。ドライブモードを介して、後輪駆動へ切り替えることもできる。
ドイツ人かアメリカ人の方を向いている
2ドアとの最大の違いはボディサイズ。全長は5.1mを超え、車重は2tオーバー。M8のコンバーチブルも、同じくらい重たいが。
M8グランクーペの場合、フロントガラスが狭く前方の視界は限定的。長いボンネットのおかげで、前端がどのあたりにあるのか、感覚もつかみにくい。
サイズは、すでに大きいポルシェ・パナメーラを上回る。ただし、メルセデスAMG GT 4ドアクーペの方が、さらに幅は広い。
この3台はいずれも、ドイツ人かアメリカ人の方を向いている。英国や日本のような道路環境では、車重と車幅は、考慮したいポイントとなるだろう。
低速域では、仮想現実機能を用いた映像によるパーキング・カメラ・システムが助けてくれる。ステアリングの操作に合わせて、実際にカメラ映像も向きを変える。
大きく伸ばされたホイールベースのおかげで、身長が180cmを超える大人でも、リアシートへ快適に座れる。傾斜したルーフラインのおかげで、頭上空間はやや狭い。
荷室容量は、2ドアクーペより20Lほど大きい。リアシート中央部にはトランクスルー機構が付き、スキーなど長尺の荷物も詰める。
そのかわり、リアシートの中央は子供用。トランスミッション・トンネルは高く、エアコンの操作パネルが飛び出ていて、またぐ感じで座ることになる。
定期的にリアシートへ3名を乗せる必要があるなら、5シリーズや7シリーズを選んだ方が良い。同様に高速なモデルが選べる。
感心するほどの姿勢制御と機敏さ
運転を始めてみる。大きなボディサイズは、常に気を使うことになる。
複雑に設定可能な、ドライブ・モードにも気が奪われがち。シャシーとステアリング、ブレーキ、四輪駆動システム、エンジンマッピングには、基本となる3段階の設定がある。シフトノブの横と、ステアリングホイールにも別のプリセットボタンが付いている。
モニター式のメーターパネルとヘッドアップディスプレイも、3種類から表示を選べる。ドライバー好みの設定を見つけるには時間を要するが、M8の動的性能の高さに、浸ることができるだろう。
筆者はエンジンが中間、ダンパーはソフト、四輪駆動はスポーツという組み合わせが好みだった。
M8グランクーペは、素晴らしい万能選手的な能力を備えている。姿勢制御や、安定性の高い機敏さには感心させられた。
四輪駆動システムは、基本的にリア側へ強く駆動力を掛かけてくれる。DSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)をオフにし、後輪駆動モードを選べば、さらに楽しみの自由度は増す。
V8ツインターボ・エンジンのパフォーマンスも、ほぼ不満は感じないはず。0-100km/hの加速時間は、カタログ上では2ドアクーペと変わらない。
エンジンの個性として、爆発的にパワーを高めたり、ゾクゾクするようなサウンドを聞かせてくれるわけではない。それでも必要になれば、望んだだけのパワーを放出してくれる。穏やかに走っている時は、とても従順でもある。
ステアリングホイールの不自然な重みと、太すぎるリムは、気になる点の1つだ。
ボディサイズが大きすぎるスポーツカー
M8グランクーペのドライビング体験はイイ。ボディサイズが大きすぎる、スポーツカーといったところ。2ドアのM8でも同様だった。
一方で高性能が故に、英国の一般道ではその真価を味わうことが難しい。内に秘めたパワーを発揮することなく、狭い車線へ4本のタイヤを留めておくことに、運転時間の大部分を費やしてしまう。
わずかな輝きを、垣間見ることはできる。深くアクセルを踏んだ一瞬に。
グランドツアラーとして、M8グランクーペを長距離移動の相棒に選ぶにも、別のハードルがある。乗り心地が、コンフォート・モードでも落ち着きがなく、にぎやかななのだ。
コンフォート・モードより、硬い設定を選ぼうと思わなかったほど。速度の上昇に合わせて、乗り心地は良くなっていく。しかしこのクラスなら、ジキルとハイド的な、快適さと鋭さという二面性を備えているべきだと思う。
M8グランクーペの車内は居心地が良いだけに、残念。ポルシェ911の方が、快適性では上だろう。
特別感は高くはないものの、インテリアの素材は高級感に溢れ、シートは快適。身体のサポート性も素晴らしい。
選択に迷うドライブ・モードや、充実した運転支援システムを備えているが、全体的な車内の操作系は明瞭。インフォテインメント・システムのiドライブにはロータリーコントローラーが残され、ベンチマークといえるほど走行中の操作もしやすい。
ただし、技術面やスイッチ類などの多くは、下位クラスのモデルと共有している。
英国ならM5やM850iがベターか
試乗車には、2万ポンド(276万円)の、ウルティメイト・パッケージが装備されていた。ボディはカーボンファイバー製のキットで飾られ、カーボンセラミック・ブレーキが付いてくる。リアシートにはブラインドが追加され、車内装備もアップグレードされる。
天候に左右されない高性能をM8グランクーペは獲得しているが、それはライバルも同様。さらにライバルは、より強い個性や、グランドツアラーとして角の取れた仕上がりを得ている。
M8グランクーペが、最も実用性に優れるM8であることは間違いない。しかし、個性が煮詰めきれていないように思う。豪奢な車内は、ロードレーサー級に硬い足まわりと、調和が取れていない。グランドツアラーとしては、もう少しの親しみやすさが欲しい。
スポーツカーのような、スリリングなドライビングは楽しめる。しかし、強い一体感を得るにはボディは大き過ぎ、システムは複雑過ぎる。
BMW Mのラインナップを俯瞰してみる。M8グランクーペと同等に興奮を誘う走りを楽しめ、より高い実用性と快適性を備えた安価なモデルがある。M5だ。
もし5シリーズ以上にスリムでプレミアムな雰囲気が欲しいなら、M850iという選択肢がある。英国のような道路環境では、より快適に、素早い走りを享受できると思う。
BMW M8コンペティション・グランクーペ(英国仕様)のスペック
価格:12万970ポンド(1669万円)から/試乗車:14万ポンド(1932万円)
全長:5105mm
全幅:1945mm
全高:1420mm
最高速度:249km/h(リミッター)
0-100km/h加速:3.2秒
燃費:9.0km/L
CO2排出量:254g/km
乾燥重量:2032kg
パワートレイン:V型8気筒4395ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:624ps/6000rpm
最大トルク:76.3kg-m/1800-5800rpm
ギアボックス:8速オートマティック
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みんなのコメント
価格の開きも無い、GT-Rもデビューして長いからね!当時は半値以下でポルシェやフェラーリ、ランボより速かったけど。