セルジオ・ペレスのレッドブルのキャリアは、優勝5回、3回のポールポジション、932ポイントで終わりを迎えた。2024年シーズンはこの3つのカテゴリーで、最後のポイントだけ数字が増えた。
それが2024年限りでレッドブルを退団することになった主な理由3つのうちのひとつだ。残るふたつは、まずドライバーズチャンピオンに輝いた僚友マックス・フェルスタッペンの35%しかポイントを獲得できず、レッドブルのコンストラクターズタイトル争いに響いたこと。そして挽回の見込みがなかったということだ。
■ペレスのレッドブル離脱に惜別の声続々。F1初王座は「君の助けなしでは起こり得なかった」とフェルスタッペン……同郷仲間も「誇り持って」
レッドブルはチーム代表のクリスチャン・ホーナーが表立ってサポートを行ない、モータースポーツアドバイザーを務めるヘルムート・マルコが公然と批判を展開するという“アメとムチ”でペレスを焚きつけようと試みた。
ペレスは2021年シーズン後半にメルセデスのルイス・ハミルトンとバトルを繰り広げてフェルスタッペンのタイトルに貢献したことでチームからも厚い信頼を集めていた。しかし今年のメキシコシティGPを迎える頃には、好意も尽きてしまったことがレッドブル関係者のプライベートなやり取りの中から明らかとなった。
今年の夏にレッドブルは、ペレスをシニアチームに残すか、そしてダニエル・リカルドを姉妹チームのRBに残すかという評価を実施。その当時はふたりとも難を逃れたが、新年を迎える前に結局ふたりともいなくなった。
ペレスとしては、今に至るまでに様々なミスが積み重なっていた。ここではレッドブル退団の鍵となった瞬間を振り返る。
1. ”最強の2番手”としての役目を果たせず
シーズン序盤のオーストラリアGP決勝では、フェラーリが優勝候補筆頭だったものの、フェルスタッペンがポールポジションを獲得し、2023年同様の強さを見せつけていた。
しかしフェルスタッペンはレース序盤にブレーキトラブルでリタイアを喫し、フェラーリのカルロス・サインツJr.が勝ち星を挙げた。残りの表彰台争いはもう1台のフェラーリに乗るシャルル・ルクレールとマクラーレン勢によって繰り広げられた。
勝てるだけのマシンを手にしていたはずのペレスは、その争いに加われず。予選でもハースのニコ・ヒュルケンベルグの走行を妨害したとして3番グリッドを失っていた。
ペレスは結果的に5位でチェッカーを受けたが、レース中には捨てバイザーがマシン下面に詰まるというアクシデントにも見舞われた。ただ、フェルスタッペンが不運に見舞われた時にペレスが勝利を拾い上げるべき存在であるということが浮き彫りになった。
そして仮にペレスが上位からスタートできていれば、レース中の混乱も避けられたかもしれない。
2. 中国GPでノリスに敗れる
バーレーンGP、サウジアラビアGP、そして日本GPでペレスがフェルスタッペンに次ぐ2位でフィニッシュしたことを考えると、オーストラリアGPは一瞬の出来事だったかもしれない。しかし中国GPでは、フェルスタッペンが優勝を重ねた一方で、ペレスはそれに次ぐ結果を果たせなかった。
予選でペレスはポールポジションを獲得したフェルスタッペンに0.3秒もの大差をつけられ、決勝スタートでアストンマーティンのフェルナンド・アロンソに大外から抜かれて2番手を失った。
その後ペレスは各スティントの序盤に攻めすぎたことが影響し、後方スタートとなったマクラーレンのランド・ノリスに交わされて3位フィニッシュとなった。その時点でマクラーレンは大型アップデートを実施していなかったことを考えると、レッドブルとしては不本意なダブル表彰台となった。
3. モナコGPのクラッシュで修理費がかさむ
ペレスは2022年にモナコGPで勝利を手にしたが、その予選Q3ではクラッシュを喫して挽回のチャンスを失ったフェルスタッペンを激怒させていた。そして2年後のモナコGPでもペレスはクラッシュ続きとなった。
2023年にペレスは予選Q1でクラッシュを喫し、今年はQ1敗退を喫すると決勝レースの1周目でハース勢との多重クラッシュに見舞われた。2024年のクラッシュはペレスに100%の否があるわけではない。しかし予選後に口にした「本当に酷かった」というペレスのコメントが週末全体を表している。
4. 契約延長後も調子は上がらず
レッドブルは6月4日にペレスとの2年間の契約延長を発表し、2022年以降続く負のスパイラルから救い上げようとしていた。これはシートを確保することで、調子を安定させようという考えから生まれたモノだ。
「ここ数戦は厳しいレースが続いており、グリッドも収束しているが、我々はチェコ(ペレス)に自信を持っており、我々がよく目にするような実績のある調子とパフォーマンスに戻ることを楽しみにしている」
ホーナー代表はカナダGPを前にそう語ったが、そのグランプリでペレスはまたも予選Q1落ち。レースでは単独クラッシュを喫し、セーフティカー出動によってフェルスタッペンの結果に影響を与えないよう、自走でピットへと戻った。
これによりペレスは、スペインGPでグリッド降格ペナルティを受け8位フィニッシュ。続くチーム母国戦オーストリアGPではペース不足によって、ハースのニコ・ヒュルケンベルグに敗れ7位となった。
5. イギリスGPの惨状
イギリスGP予選ではレッドブル2台がQ1から苦戦を強いられ、フェルスタッペンがコプスでマシンの挙動を乱しながらも抑え込み、Q2、Q3へと進んでいったが、ペレスは同じコプスでスピンを喫し、グラベルトラップにハマってしまった。
フェルスタッペンが雨絡みの決勝レースで2位表彰台を掴んだ一方、ペレスは結果的にピットレーンスタートを選択。インターミディエイトタイヤに早く切り替えるギャンブルも実らず2周遅れの17位に終わった。
「チームと契約しているし、必ず状況を好転させる」と当時のペレスは誓っていた。
6. ハンガリーGP前後も変わらず
レッドブルはハンガリーGPでRB20に最初の大型アップデートを投じたが、これはフェルスタッペン車のみ。ペレスは予選Q1でクラッシュを喫して16番手となり、レースでも7位止まりと、同じような展開が続いた。
レッドブル首脳陣は、サマーブレイクに突入した時点でフェルスタッペンとの差が100ポイントに達していた場合、契約解除条項の行使を検討するとしていた。
ハンガリーGP時点で、フェルスタッペンとペレスの差は141ポイント。水面下での話し合いは、レッドブルがリカルドをメインチームに昇格させるか、それとも切り捨ててリアム・ローソンをRBで起用するかという決断と同時に行なわれた。
しかしリカルドは現状維持に十分な結果を残していると考えられ、サマーブレイク以降も続投が決まった。ただ、結局リカルドはそれから4レースで解雇。ペレスにはさらに6レースの猶予が与えられた。
7. フロントロウスタートも虚しく
サマーブレイク前最後のベルギーGPで、ペレスはまたしてもレッドブルに好印象を残すことができなかった。
舞台となったスパ・フランコルシャンは高速コーナーが多く起伏に富み、レッドブルのマシンパッケージ有利と見られたレイアウト。フェルスタッペンは4年連続で予選最速となったものの、パワーユニット交換のためグリッド降格を強いられた。
そのためペレスが2番手フロントロウからスタート。レッドブル優勝の望みが託されたが、レースではズルズルと後退し7位となった。結果的にフェルスタッペンからは3つ下の順位だ。
8. 得意の市街地でも逆境は続く
ペレスは直角コーナーの多い市街地レース、特にアゼルバイジャンGPを得意としており、フェルスタッペンが珍しく週末を通じて苦戦していた一方で、予選4番手と優勝候補の一角に躍り出た。
決勝でもペレスは早めのピット戦略で表彰台争いを繰り広げ、2番手も射程圏内に捉えていた。しかしサインツJr.と交錯してリタイア。好結果を逃した上に、レッドブルは高額な修理費を背負うこととなった。
ペレスはアゼルバイジャンGPの好調をシンガポールGPで再現することができず。続くアメリカGPのスプリントでフェルスタッペンが久しぶりの優勝を挙げる中、ペレスは中団グループの混戦に飲み込まれた。
9. メキシコシティGPでのミス
そして迎えたペレスの母国戦メキシコシティGP。上位チームも実力が拮抗している中で、ペレスはまたも予選Q1敗退を喫した。この時は「ブレーキやストップが上手くいかず、ブレーキングで攻めた途端にスライドしてロックアップさせてしまった」ことが原因だと語った。
レースでペレスは、スタート位置を間違えたとしてペナルティが科され、ローソンとのコース上での接触によりマシンにダメージを負った。ローソンには抜かれる際、中指を立てられ、周回遅れでの17位フィニッシュ以上の屈辱を受けた。
10. レッドブルキャリアを象徴するカタールGP
シーズン終盤になると、レッドブル関係者はますます苛立ちを募らせていた。チームは尾を引くブレーキング問題でペレスを手助けしようとしていたが、どうやら効果はなかった。
カタールGPスプリント予選SQ1で敗退となったペレスは、サスペンションセットアップを変更し、F1スプリントをピットレーンからスタートした。しかしピット出口のシグナルが変わっても反応せず、ウイリアムズのフランコ・コラピントに先行を許した。そしてスプリントながらレース中にピットストップを行ない、セットアップの実験に当てた。
決勝に向けた予選でペレスはQ3進出を果たし、決勝でもポイント圏内を走行していたものの、セーフティカー出動というチャンスを単独スピンでフイにしてしまった。
ペレスはスピンの後にクラッチが高温になってしまったためストップ。最終戦アブダビGPでもザウバーのバルテリ・ボッタスに接触された後、再びクラッチを焼いてしまった。
現代F1での最強チームでのスティントとしては、物足りない幕切れだった。
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