レギュラーシーズンも残り2戦にして、2024年NASCARカップシリーズ第25戦『Coke Zero Sugar 400(コークゼロ・シュガー400)』は、今季もっとも劇的かつドラマチックな幕切れで記憶されることに。
都合3度の“ビッグワン”により、チャンピオン争いとポストシーズン進出権確保に向けた候補者が次々と飲み込まれていくデイトナ・インターナショナル・スピードウェイで、23歳のハリソン・バートン(ウッド・ブラザーズ・レーシング(WBR)/フォード・マスタング)が最後の最後に主役に躍り出ることに。
武者修行の豪州王者SVGが“約束”の2025年NASCARカップ昇格へ。トラックハウスが3台目のチャーターを獲得
オーバータイム決着となったファイナルラップで、カップ“2冠”のカイル・ブッシュ(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)を仕留め、自身カップ初制覇を成し遂げるとともに古豪WBRに歴史的な100勝目をもたらした。
年間カレンダーも大詰めを迎えるなか、このレースウイークを前に豪州“3冠”王者のSVGことシェーン-ヴァン・ギズバーゲン(カウリグ・レーシング/シボレー・カマロ)の来季2025年フル参戦がアナウンスされた陰で、オースティン・ディロン(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)の控訴が棄却され、これで正式に第23戦リッチモンドの勝利とポストシーズンの“プレーオフ進出権のみ剥奪”というペナルティが確定する。
その一方で、序盤の3月にブリストルで開催された1戦を制していたデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)には、エンジン規則に違反したとしてより厳格な『L2レベル』のペナルティが課され、ドライバーズとオーナーズのチャンピオンシップから75ポイントを剥奪。さらにプレーオフポイントの10点も失い、クルーチーフのクリス・ゲイブハートには10万ドルの罰金も課されることとなった。
「ポイントは重要になるまで意味がない。それが真実だ」と、ここへ来ての悪い知らせに不機嫌なハムリン。
「ファイナルのChampionship 4(チャンピオンシップ4)からカットを逃したここ数年間は、あの“Hail Melon”(ヘイル・メロン/意訳:やけくそスイカ/2022年のマーティンスヴィルでのロス・チャスティンの動き)や、ホームステッドでのパワーステアリングの故障(昨季)なんかもあった。ポストシーズンはあちこちで数ポイントが重要になるんだ」
こうして始まったデイトナは、予選でマイケル・マクドウェル(フロントロウ・モータースポーツ/フォード・マスタング)が今季4回目、スーパースピードウェイでは実に3回目のポールポジションを獲得する。
迎えた決勝ではジョシュ・ベリー(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)がステージ1を制覇した後、最初のドラマが61周目に発生し、ターン4の立ち上がりで都合17台が巻き添えとなる“ビッグワン”が発生する。
■2度目のビッグワンに14台が巻き込まれる。宙を舞うクラッシュも
中段のパックで行き場を失くしたコリー・ラジョイ(スパイア・モータースポーツ/シボレー・カマロ)らがノア・グラグソン(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)をプッシュし、カットライン当落線上からの逆襲を狙うロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)もリヤをヒットされ巻き添えとなり、ここから複数回の修復作業を強いられることに。
また選手権で首位を行くタイラー・レディック(23XIレーシング/トヨタ・カムリXSE)やハムリン、さらにカイル・ラーソンとチェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)の2台もダメージを負い、実質的にレースを終えてしまう。
さらに80周目には今季のカップ5戦目となったSVGの16号車がエンジンブローに見舞われると、続くステージ2はジョーイ・ロガーノとライアン・ブレイニー(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)がワン・ツーで制覇していく。ここでチーム・ペンスキー艦隊の2台に食い下がっていたブラッド・ケセロウスキー(RFKレーシング/フォード・マスタング)が、残り16周のリスタートでジャンプスタートのペナルティを取られると、今度はフィールドの先頭で14台を巻き込む2度目のビッグワンが発生する。
ここでポールウイナーだったマクドウェルの34号車が横向きで空中に舞い上がると、バンクの車列中央へ4輪から叩き付けられるように着地。この混乱で、ラーソン以下、ロガーノや選手権首位のレディック、アレックス・ボウマン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)らに加え、プレーオフの最終ポイントポジションを争うダレル“バッバ”ウォレスJr.(23XIレーシング/トヨタ・カムリXSE)らも痛手を被ることに。
これで残りは3周。僚友の仇討ちとばかりに先頭に並んだオースティン・シンドリック(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)と、ステージ1覇者ベリーの牽引でリスタートを迎えると、その背後で“19年連続勝利記録”を狙うカイル・ブッシュ(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)の後押しを受けたシンドリックが姿勢を乱し、隣にいたベリーの4号車に激突してしまう。
雪崩を打つようにインフィールドへ滑り出た先頭2台のうち、ベリーの4号車はここで宙に舞い上がり、バックストレートのランオフでルーフを下にして滑走。そのままバリアに衝突した弾みで、コマのように回転を続けた後にようやくストップする大事故となる。
この晩に8周をリードし、今季初のステージウインも飾ったベリーはセーフティクルーの助けを借りてクルマを降りると、観客に手を振って無事をアピールし、経緯を見守った大観衆からの拍手と歓声を受けた。
「大丈夫。実際は見た目ほど悪くはなかったと思う」とインフィールド・メディカル・センターでの検査後に応じたベリー。
「でも本当に残念だ。素晴らしい夜だったのにね……僕らはポジションを確保し、今夜の自分とチームの仕事に本当に誇りを感じている。僕らは今季最後のチームで優勝争いに加わっていたんだからね!」
■わずか5台がチェッカー。激闘を制したバートンがカップ初勝利
これで残り2周の延長リスタートを迎え、ブッシュとバートンの並びで最後の勝負へ突入すると、古巣の元僚友クリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)のサポートを得たボトムのカマロ8号車がリードを得てホワイトフラッグへ突き進む。
するとこのハイバンクでカップシリーズ初出場のパーカー・レツラフ(ビアード・モータースポーツ/シボレー・カマロ)に強烈なプッシュを受けたバートンが驚異的な伸びを見せ、バックストレートでブッシュの前へ。
なんとか21号車マスタング“ダークホース”のリヤバンパーに追いすがり、テールを突っついて陽動した8号車カマロZL1だったが、ふたたび前に出ることは叶わず。この夜、いずれかの事故に巻き込まれずにチェッカーフラッグを受けたのはわずか5台、16名のリーダーが生まれた激闘を制したバートンが、プレーオフへの自動切符を手にする貴重なカップ初勝利を飾ってみせた。
「ウイニングラップは中ずっと泣いていた」と、まさに感極まった様子で語ったバートン。
「もちろんこの仕事から解雇されたし(編注:来季はジョシュ・ベリーが移籍加入)、彼らウッド・ブラザーズのためにできる限りのことをしたかった。チームは人生で素晴らしい機会を与えてくれたし、僕の除籍にあたり100勝目を挙げることができて最高だ。さぁ、これでプレーオフだ。ダーリントンに行って何が起こるか見てみよう」
一方、わずか0.047秒差で敗れたブッシュは、キャリア連続勝利のみならずプレーオフ出場権を獲得できる最大のチャンスを逃したことに「ただただイライラする」と失意を滲ませた。
「デイトナで最後のリスタートまで勝っていたが、レースでの勝利を収めることができなかった。何が間違っているのか、今の自分に何が足りないのか分からない」と続けたブッシュ。
「ここ数戦は勢いが増していることは分かっていたし、21号車(バートン)の前に出たかったが、20号車(元僚友のベル)の方が(背後につければ)味方になると分かっていた。今日はただ、いつものようにうまくいかなかっただけだ……」
併催されたNASCARエクスフィニティ・シリーズ第22戦『Wawa 250 Powered by Coca-Cola(ワワ250パワード・バイ・コカ・コーラ)』は、こちらも警告多発の乱戦をライアン・トゥルーエクス(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタGRスープラ)が制し、今季2勝目を飾る結果に。
一方、ミルウォーキーマイルで開催されたNASCARクラフツマン・トラック・シリーズの第16戦、今季プレーオフ緒戦となる『LIUNA! 175(リウナ175)』は、こちらもバートンと同じく2世ドライバーのレイン・リッグス(フロントロウ・モータースポーツ/フォードF-150)がキャリア初優勝を果たしている。
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