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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第13回】ニコがトウなしでQ1突破。VF-23の長所が活きたモンツァの予選

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第13回】ニコがトウなしでQ1突破。VF-23の長所が活きたモンツァの予選

 2023年シーズンで8年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。ヨーロッパラウンド最終戦となったイタリアGPは、前戦オランダで見えた進歩が現れず苦しい展開となった。ただ、トウが重要になるこのモンツァでニコ・ヒュルケンベルグがトウを使わずに予選Q1を突破しVF-23の強みを活かすことができたのは、チームにとっても励みになるだろう。

 またハースは2024年もヒュルケンベルグとケビン・マグヌッセンのコンビを継続することが明らかになった。経験豊富なベテランふたりがチームに残ることで、チームとしてさらに成長を望めると小松エンジニアも期待を寄せている。そんなイタリアGPの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。

ヒュルケンベルグ「入賞には遠く及ばず。前戦で進歩したと思ったが今回はそれが現れなかった」ハース F1第15戦決勝

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2023年F1第15戦イタリアGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選19番手/決勝18位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選13番手/決勝17位

 イタリアGPでは今シーズン2回目となる『Alternative Tyre Allocation(ATA)』が実施されました。僕たちはFP3でケビンが7番手、ニコが8番手という結果になりましたが、この速さを予選Q1(ハードタイヤ)、Q2(ミディアムタイヤ)に反映するのが難しかったのかというと、実はそうではありません。FP3で誰がどのタイミングでソフトタイヤを履いてタイムを出したのか(またはソフトをまったく使わなかったか)を見てみると、FP3の順位があてにならないことは明らかです。FP3の順位でうちより後ろにつけていても、本当だったらうちより上の順位の人はたくさんいるという状況でした。

 だからなんとかQ2に進みたいというのが現実的な目標で、そう考えるとニコはよくやってくれたと思います。特にQ1ではトウを使えない状況のなかで15番手につけてくれました。Q2では残念ながら2回目のアタックでミスをして13番手。ターン1のブレーキングでフロントタイヤをロックアップさせてコンマ2秒近くタイムロスしてしまったんです。そこからコンマ1秒ほど取り戻しましたが、もしクリーンなラップを走れていたとしても12番手が妥当かなという感じです。

 Q1でトウを使えなかったのは、うちと同じプランでアタックをするチームが少なかったことも影響しました。1回目のランでは早めに出ていく予定で、うちよりも前にアルファタウリの2台がコースに出て行ったので彼らのトウを使うことができました。ただうちは2アタック(アタック→クールダウンラップ→アタック)で2ラン、アルファタウリは1アタックで3ランするプランだったので、確実にトウを使えるのは最初の周だけでした。

 ニコがクールダウンラップを挟んで次のアタックに入った時には、アルファタウリ勢はピットイン。その代わり距離は遠かったのですがフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)がアウトラップ中でした。その時にレースエンジニアがニコに対して「差を詰めてアロンソの5秒後ろくらいでアタックを始めて」と指示を出せばよかったのですが、そうしなかったのでトウがない状況でのアタックになってしまいました。

 2回目のランでは同じようなタイミングで出ていく人を待っていたのですが、結局ほとんどいませんでした。これ以上待つと2アタックのプランを実行できなくなるというギリギリのところまで待ってコースに出たのでトウを使えず、さらにはニコが1回目のアタックを終えてクールダウンラップに入ったところで最後のアタックに向かう人たちがコースに出てきたので、結局ニコは隊列の先頭でアタックに入ることになりました。もう少しガレージで待ってからコースに出て行けばトウを使えたので、このあたりは見直したいと思います。

 それからニコがレース後のコメントで「ザントフォールトで多少は進歩したと思ったが、今日はそれが現われなかった」と言っていましたが、前戦で見えた進歩というのはふたつあります。ひとつはオランダGPで新しいフロントウイングを投入したのですが、それのおかげでコーナーの進入とエイペックスのバランスがよくなったので、一歩とは言わないまでも半歩くらいよくなりました。

 もうひとつは、最後の雨が降る前の第3スティントでニコがソフトで走っていたペースがよかったことです。アルファロメオよりも速くて、他の人とのタイムを見てもすごくよかったので、そういう意味で進歩が見えたのです。

 それをイタリアGPで発揮できなかったのは、新しいフロントウイングがなかったというのがひとつの理由です。新しいウイングは3つあるのですが、そのうちふたつをケビンとニコがザントフォールトで壊したので、モンツァではひとつしかなかったのです。それにモンツァではダウンフォースを削るのでリヤウイングは通常よりも小さなものを使いますが、それに合わせてフロントウイングもそれなりのフラップがないといけないのですが、それが間に合いませんでした。

 一方ケビンはとにかくQ1でハードタイヤに苦労し、アンダーステアがひどいと言っていたのでレースではエアロバランスを調整することにしました。彼はコーナーのエントリーで突っ込み、コーナーの真ん中から出口にかけてアンダーステアになりアクセルを踏めずスピードが落ちることがあるので、彼の言うアンダーステアは彼自身のドライビングに起因するものでもあります。予選後にも話をしたのですが、なかなか改善が難しかったので、エアロバランスで対処しました。

 もちろんこうするとエンジニアリングの観点ではあまりよくないのですが、セットアップというのはドライバーとエンジニアの妥協点を探すものなので、今回はケビンの意見を取り入れることにしました。もしこれが間違っていても、それをケビンに身をもって感じてほしかったのです。もしこれでケビンがコンペティティブならそれはそれでいいし、そうはなりませんでしたが、彼がそれを経験すればこれからの仕事のやり方なども変わっていい方向にいくと思ったのでやらざるを得ませんでした。

 実際にケビンは特にレース序盤はクルマが安定せず、ペースが上がらなかったので早めにピットインしてバランスを調整しましたが、このタイミングでは2ストップに変更せざるを得ませんでした。ケビンのクルマのバランスはある程度改善され、第1スティントよりペースはよくなり、2回目のストップでもう一度バランスを調整した結果、さらにペースに改善が見られました。ですから、今回のレースで結果にはつながりませんでしたが、これからのことも考慮するとやってよかったと思っています。

■2024年もニコ&ケビンのコンビ続投。短所を補いチームの成長を目指す

 先日2024年のドライバーラインアップを発表しましたが、来シーズンもニコとケビンのコンビの継続となりました。ニコは今年チームに加入して、期待どおりのパフォーマンスを発揮してくれているのでまったく迷いはありませんでした。予選での一発の速さはとてもいいものを持っており、クルマの限界を常に示してくれます。

 またフィードバックも素晴らしいですし、クルマの開発面においてもとてもいい仕事をしてくれています。一番の課題はレースタイヤのマネージメントですが、これも自分でしっかりと認識して積極的に取り組んでいるのでこれから一緒に改善していけると思っています。

 ケビンは2022年、チームの緊急時に戻って来てくれて、昨シーズンはミックにはなかった速さと経験をチームに与えてくれました。ニコをチームメイトに迎えた今シーズンは、予選ではなかなか厳しい結果が続いています。VF-23の特性がケビンのドライビングスタイルに合わないことが理由のひとつですが、それでもレースでは時にニコよりうまくタイヤを使えています。

 来シーズンに向けて両ドライバーの長所を活かして短所を補いあっていけば、またひとつチームとして成長できると思うので、ほかのドライバーも考慮しましたが、このままニコとケビンで続投することを決めました。よくわかっているドライバーふたりでチームとしてクルマに集中できるというのも利点のひとつです。とにかく、今年の一番の問題は何かと聞かれればVF-23というクルマの空力性能につきます。このクルマの弱点はわかっているので、それを2024年型マシンで改善できれば、ケビンの予選一発の速さも取り戻せると信じています。

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