この記事をまとめると
■群サイの雪道でFRスポーツ『BRZ』を思いきり試乗
【試乗】GR86もBRZもMTもATも全部乗ったぞ! 「速く」「扱いやすく」進化した走りを詳細リポート
■同乗しアドバイスしてくれるのは全日本ラリードライバーの新井大輝選手
■スバルだからこその雪道走破性
FRで群サイの雪道を走る!
スバルとトヨタが共同開発した『BRZ/GR86』は、数少ないFRスポーツとして世界的に人気が高く、多くのクルマ愛好家の注目を集めている。今回その『BRZ』に雪道のクローズドコースで試乗するという稀有な機会が得られた。場所は「群馬サイクルスポーツセンター」だ。
群馬県みなかみ町に位置する群馬サイクルスポーツセンター(通称:群サイ)は、ラリーのスペシャルステージとして活用されることもあり、またスバルはラリー車の開発ステージとしても活用していることでも知られる。本来は自転車用のクローズドサイクリングコースとして誕生しているのだが、現在はクローズドされたワインディングコースとして、4輪の走行会などが盛んに行われていることでも知られる。また、新型車両のテストステージとしても多く活用され、最近もスバルの電気自動車『ソルテラ』による雪道試乗会なども行われたところだ。
そんな群サイで、今回はFRスポーツのBRZで思いきり走っていいというのである。試乗に供されたのはBRZのSタイプ、6速マニュアルトランスミッション車とオートマチックトランスミッション車の2種だ。もちろん選択したのは6速マニュアルトランスミッション車のほうだ。
まずコースインスペクションとして、全日本ラリードライバーの新井大輝選手が助手席に同乗し、雪の郡サイならではの注意点などを案内してくれた。彼はスバルの契約ドライバーとして全日本ラリーを中心に戦っており、また実父が同じくスバルワークスラリードライバーで現在も活躍中の新井敏弘選手であることでも有名だ。
新井選手はこの群サイのコースを熟知しており、圧雪路におけるポイントを的確にアドバイスしてくれる。陽の当たっている部分ではアスファルトが露出していたり、北側の斜面のところでは深い轍が凍って固くなってステアリングを取られたり、またバンプのあるところではフロア下を擦ってしまったりと、群サイを知り尽くしているからこその多くの有効なアドバイスをしてくれた。
400ccアップの排気量がコントロール性に確実に効く!
いよいよ自らのペースで思いっきり走らせる。スタートダッシュ力こそ四輪駆動車には敵わないと言えども、二輪駆動のFRながらBRZはそこそこの加速ダッシュを発揮してくれる。
ひとつには装着されている横浜タイヤの「アイスガードIG70」がいいトラクション性能を発揮していることもあるが、標準装備されるトルセンのLSDデフが駆動輪左右に均等な駆動力をかけ、加速時の重心移動も相まって、しっかりとしたトラクションが確保できているのである。車速が乗ってしまえばそこから先はFRらしく自由自在なハンドリングを楽しめる。
減速時にあまりハードなブレーキングをするとフロントブレーキを中心にABSが介入してステリングが効かなくなるが、その辺はエンジンブレーキを多用して操舵応答を失わなければ、ノーズは思っている以上にすんなりとインを向くようになる。一旦ノーズがインを向いて車体にヨーモーメントが発生すると、リヤがそれに呼応するようにスライド。そこから先はパワースライドコントロールが可能になる。
このパワースライド領域においては、2.4リッターとなった新型エンジンの低速トルクが力強く、またスロットルレスポンスに優れ、トルクピックアップが素早く行われることで駆動力コントロールが行いやすい。また、トルセンデフが左右両輪の駆動力を逃すことなくパワーコントロールがダイレクトに行われるので、それも含めてスライドコントロールがしやすくなっているのだ。
パワースライドを始める少し前にカウンターステアを当て始めるが、そのカウンター量はスライド量に合わせて適切にドライバーがコントロールする。もちろんこうしたドライビング技術を駆使するにはトラクションコントロールを完全にオフにしなければならない。
BRZの場合「トラック」モードという、ある程度スライドを許容するスポーツモードを装備しているが、雪道ではそれをさらに超える領域でのスライドコントロールが必要になるため、トラクションコントロールを完全にオフにする必要がある。シフトレバーの手前左側にあるトラクションコントロールのスイッチを長押しすると、VSCやトラクションコントロールを完全にオフにすることが可能だ。
BRZはリヤサスペンションのスタビライザーがボディ直付けとなっていること、そしてフロントのアップライトがアルミニウム合金性となっていることがGR86と異なるところだ。それが雪道の特性にあっているかどうかは、直接比較をしてみないとわからないのだが、少なくともBRZのセッティングは非常に雪道に適しているものといえた。
轍が深くまた凍結していて路面の硬い部分においては、前輪が轍に取られキックバッグ入力が大きく発生するが、そうした場面においてもステアリングに返ってくる反力は非常に小さく抑えられていて、しかし路面の状態はステアリングの手応えとして把握しやすい。こうした特性がアルミ合金の持っている柔軟さと関連していると考えることもできる。サーキット走行において、ハイグリップタイヤで路面からの反力が大きな場面も試したことがあるが、そうした場面でもBRZのフロントサスペンションはマイルドな手応えとして好印象だった。それがこうした路面変化の激しい雪道においても維持されているのは歓迎できることだ。オンロード・オフロード、両面で優れた特性であることが確認できたわけである。
リヤスタビライザーの取付点においてもこうした雪道でリヤサスペンションは非常にスムースに動き、その動きのなかにおいても両輪の接地性が高くパワーコントロールがしやすかった。リヤサスペンションはストローク感が感じられ、駆動力コントロールもしやすい。また、路面の凸凹などもうまく吸収してドライバーが大きく身体を揺らされることなく走破していけるのは、ドライブコントロールする上で好ましい特性といえる。
スバルが心血を注ぐクルマの信頼性はFRのBRZでも健在!
スポーツカーであるがゆえBRZのロードクリアランス(最低地上高)は130mmと決して高くない。そのため轍の深いところではフロアを擦りやすく、路面のうねりのあるところやバンプの大きなところでも同様にノーズやフロアを打ちやすい。
しかし、BRZに標準で装着されているフロアパネルはアンダーガード的な役割も果たしていて、そうした場面でもクルマにダメージ与えることなく、またフロアパネル自体も傷つかずにガード機能をしっかりと果たしていることがわかる。新井選手によれば、数日の走行テストにおいてもそういったトラブルは一切起こっておらず、耐久性や信頼性の面でも安心して雪道を攻めることができているという。
こうした雪道を含めた悪路でのさまざまな課題を知り尽くしているスバルだからこそ、FRスポーツとしても雪道走破性がしっかりと確保できていて、またそれを自信を持って試乗に供することができる。そんなスバルの姿勢は素晴らしいものだ。
FRスポーツを所有しているならば、やはりクルマをパワースライドさせドリフト走行を楽しむことは至上の楽しみであり喜びでもある。一般道においてはそうしたことが一切行えず、サーキットやジムカーナ場などでドライバーはそれを楽しむしかないが、乾燥舗装路はタイヤや車体へのダメージが大きく、車体への入力も大きいのであまり日常的に楽しむことができない。
しかし、雪道であればタイヤの偏摩耗も心配なく、また車体への入力も小さいのでダメージも少ない。群サイのようなクローズドコースが開放されれば非常に大きな賑わいを見せると期待される。群サイは、冬季は降雪により圧雪路となることが多く、そうした雪道の走行を楽しむモータースポーツファンで賑わうが、もっと全国的にこうした場所があると、BRZのようなFRスポーツでドリフトを楽しむことがより身近で可能になると言えるだろう。
群サイほどの長いコース(郡サイは最長で1周約6kmのコース設定をすることができる)でなくても200m四方程度の広場に積雪があれば、パイロンを置くなどしてジムカーナ的にパワースライドを楽しみながらスライドコントロールを学ぶことができる。冬の楽しみとしてウィンタースポーツがあるが、付随した広場でスノードライビングを楽しめる施設が、全国に冬の間だけでも展開できれば楽しみも増すだろう。そんなことを感じさせるBRZの雪上試乗会であった。
雪道のドライビングスキルを高めることは一般道の走行においても大いに役立ち、また雪道の走行特性(たとえばブレーキングで突っ込みすぎるとアンダーステアを誘発し反対車線に飛び出してしまいやすくなったり、パワーをかけ過ぎれば駆動力を失ってスピンしてしまったりする)というようなことも、安全な速度域で学べるということが有益なのである。ぜひこうした雪道でのドライビングを楽しむ機会をメーカーには作ってもらいたい。また、ユーザーは機会があればぜひ試してもらいたいと思う。ただし、一般道や人が出入りするような場所で、こうした走行を行うのは厳禁であるということは肝に銘じておいてもらいたい。
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