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世界トップクラスの設備。新世代ハードと独自改良を重ねたドライブシミュレーション技術【ホンダのレース開発最前線/HRC内部公開3】

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世界トップクラスの設備。新世代ハードと独自改良を重ねたドライブシミュレーション技術【ホンダのレース開発最前線/HRC内部公開3】

 今年4月にホンダF1を始めとした四輪開発部門がHRC(株式会社ホンダ・レーシング)に今年の4月の意向して2輪モータースポーツ部門と統一されて約5カ月経った8月頭、これまで秘匿とされた研究開発拠点HRC Sakuraがメディアに公開された。F1パワーユニット(PU)の研究開発に製造組立、そして国内四輪モータースポーツの最高峰、スーパーGT500クラスのNSX-GTの開発の一部が明らかに。HRCの内部を、全4回に渡ってお届けする。第1回のF1エンジンPU組立、第2回のRVベンチとミッションルームに続いて、第3回は世界でもトップクラスに入るという最新のドライブシミュレーション室、DIL(Driver In the Loop Simulator)について。

 このシミュレーション室は、現在ではF1ではなく、スーパーGTに参戦しているGT500クラス車両、スーパーフォーミュラや市販車のシビックのタイプRの開発などに使用されることが多く、そのなかでもスーパーGTがメインになっている。

レース現場への最後の砦、エンジンベンチと現場をつなぐF1ミッションルーム【ホンダのレース開発最前線/HRC内部公開2】

 スーパーGT500クラスではご存知の方も多いが、共通モノコックなど共通パーツを多く使用し、外観のデザインなどはそれぞれのメーカーの車両に由来している。今年のGT500クラスでホンダはNSX-GT タイプSをデビューさせたが、そのタイプSの開発にはこのシミュレーション室が多いに活用されたことになる。

 HRC Sakuraで使用されるシミュレーターのハードウエアはAnsible motion Delta3 と呼ばれる最新機器で、昨年2021年10月にリニューアルされた2代目になる。航空機のフライトシミュレーターから転換されたレースでのドライブシミュレーター開発、セットアップ作業は、F1のマクラーレンチームが最初にはじめたと言われ、レース業界から市販自動車の開発へと広がっていった。

 そのマクラーレンが2007~2008年あたりに使い始め、ホンダも2013年からレースでのシミュレーターシステムを構築し、初代のシステムは2021年まで稼働し、2021年の2代目に受け継がれている。この2代目のドライブシミュレーターのハードウェアは世界でも、現役のF1チームを含めても世界トップクラスの最新技術が詰め込まれていると言われており、そのハード面に加え、ソフト面ではホンダが独自のシステムを構築して2013年から改良を重ねて使用しつづけ、レース車両の開発に活かされている。

 HRC Sakuraのドライブシミュレーター、DILでの役割としては、まずは開発の最初の段階で仮想のクルマを作成し、ターゲットの走行タイムを定めるところでDILが使用される。そして、開発が進んで実車が完成してテスト走行をする前の段階で、再びDILを利用するという、開発初期とシェイクダウン前、テスト走行前のセッティング確認というふたつの段階での性能開発作業がおもな使用となる。

 このHRC SakuraのDILがすごいのは、写真をご覧になってもわかるような、左右斜め後ろまでコクピットを覆う巨大なスクリーンに加え、ステアリング、そしてシートにも高周波で振動を伝えて実車に近い感覚を再現している点になる。ドライバーはステアリングでフロントのグリップを感知し、シートの振動や感覚でリヤグリップを感知する。大きなスクリーンによる視覚、そして細かな高周波振動、そして、前庭感覚と呼ばれる三半規管(角速度、身体の傾きを感じる器官)、耳石器(加速度や重力、G、身体の傾きを感じる器官)の人間の器官を考慮した動きをシミュレーターに取り入れている点。

 実際にコクピットで乗り込むことはできなかったが、テストドライバーが鈴鹿サーキットを走行したデモランでは、ステアリングの操作に合わせたスクリーンの変化やコクピットの傾き、そしてコーナリングで縁石に乗ったときの振動音など、まさにリアルというか、テーマパークにある巨大なアトラクションを見ているような迫力で稼働していた。

 実際、このシミュレーターを使用して最新のCIVIC タイプRが開発され、鈴鹿サーキットでFF最速となる2分23秒120のラップタイムが今年の4月、伊沢拓也のドライブで記録された。その伊沢はこのHRC Sakuraのシミュレーションで開発を重ね、実際の1周の走行データはシミュレーターのデータとほぼ同じだったという逸話が残っている。

 その伊沢に後日聞いたところによると「タイムを目的として走る『シミュレーター走り』でシミュレーション上のタイムを出すことはできるのですけど、それは実際にできる走り方ではありません。ですので、タイムを出すというよりも実際の走りをいかにシミュレーターで出来るかが大事なんです」と、リアルとシミュレーターの開発の心得を語った。

 HRC SakuraのDILで気になるスーパーGTでの使用方法についてだが、今回の取材では「詳細についてはお答えできません」とのこと。GT500クラスではレース後とに開発されるタイヤのマッチングが大きな要素になっているが、タイヤデータの違いやレースウイーク前にどのように使用されているかは、今回の取材では明らかにされなかった。

 伝え聞くところによると、レースウイーク前にGT500に参戦している5チームのドライバー、エンジニアが日別にHRC Sakuraを訪れてセットアップの変更や確認、タイヤによる違いなどをシミュレートし、そのほかにもテスト前に開発ドライバーが担当しているというが、あくまでウワサであり定かではない。F1でもテスト走行が少ない現在、シミュレーション技術が勝敗を左右し、レースウイーク中もサーキットの現場からのデータで、リアルタイムでシミュレーターでも走行を行っているというが、スーパーGTでそこまで取り組まれているのかは未知のままだ。

 今後もますます重要度を増すドライブシミュレーター、HRC Sakuraが国内有数の施設を備えているだけでなく、世界的に見てもトップクラスにあることは間違いないようだ。

【第4回:世界最先端、100パーセントモデルでテスト可能な風洞施設に潜入編につづく】

株式会社ホンダ・レーシング(HRC)
1982年9月に設立され、2輪のモータースポーツ活動を中心に数々の実績を重ね、今年2022年の4月に四輪部門HRD Sakuraも移行し、ホンダのモータースポーツ活動が集約された。レッドブル、アルファタウリに供給しているF1パワーユニットはHRCとしてレッドブル・パワートレインズに支援。F1は今季からPU開発が凍結され、製造と供給をHRCが担っている。国内ではスーパーGTのエンジン、車体開発、そしてスーパーフォーミュラのエンジン、そして将来的な車体開発、ドライバー育成を受けもつ。今年で40周年を迎える。


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