この記事をまとめると
■「LSD」はクルマの内輪差を吸収するための装置
単に4輪で駆動するだけじゃない! クルマやメーカーでまったく違う「4WD」の中身とは
■「LSD」には大きくわけて「機械式」「トルセン式」「ビスカス式」の3種類が存在する
■サーキットや雪道をよく走る人は機械式やトルセン式などを導入するのがオススメだ
LSDってなんのために使うの?
みなさんはLSDという言葉を聞いて何を思いますか?
クルマに興味が薄い人は、ニュースや映画などでたまに聞く、マフィアなどが扱う白いおクスリでしょうか。クルマに興味があっても、モータースポーツや走りの追求にそれほど興味がない人にとっては、例と同じか、「なにそれ?」と知らないパターンがそれなりに占めていると思います。
しかしこのLSDは、意外と身近なクルマにも装着されている、けっして特殊な存在ではないパーツなんです。
ここではそのLSDがどういう役目のパーツなのか? ふつうのクルマではどのように活用されているのかを掘り下げてみようと思います。
■LSDの役割
LSDというのは「リミテッド・スリップ・デファレンシャル(ギヤ)」の略で、直訳では「滑りを制限する差動装置」となります。
デフ=デファレンシャル(ギヤ)=差動装置です。
トラックやダンプの後ろに付いたときに、車軸の真ん中に実のような丸いふくらみがあるのを見たことがあるでしょう。あの中に入っているのがデフで、公道を走る車両のほぼすべてに備わっている装置です。
その働きは、内輪差を吸収してくれることです。
内輪差とは、クルマがコーナーを曲がっているときに、内側の車輪と外側の車輪とで転がる長さ=回転する量が違う現象のことを言います。ふたつの車輪が単なる棒でつながっていると、転がる長さの長い外側の車輪の多い回転量に、転がる長さが短く回転量の少ない内側の車輪が付き合わされることになります。
結果として外側の車輪を引きずるような挙動になってしまい、車体は減速していきます。
これではよろしくないということで、その内輪差を上手いこと調整する装置として開発されたのがデフというわけです。通常はデフが機械的に働いて、常に内輪差を埋め合わせてくれているのでスムースな走行が実現できています。
しかし、ぬかるみや荒地などで駆動輪の片方の車輪が空転してしまうような状況に陥ってしまったときが問題です。内輪差を調整することが役目のデフは、エンジンからの動力をすべて空転している車輪に振り分けてしまうので、ぬかるみから脱出できない状態になってしまうんです。
サーキットなどで激しい走りを行ったときにも同じような状況が発生します。
コーナーの遠心力で外側にGが集中して内輪が浮いてしまうと、その内輪に駆動がすべて振り分けられてしまうので、コーナーを出るときの加速ができない状態になってしまいます。
その空転を制限して、加速できる状態にしてくれるのがLSDというわけです。
サーキットや雪道をよく走るヘビーユーザーにはオススメ
■LSDの仕組みをざっくり解説
LSDがデフの動きを制限する仕組みというのはある意味単純です。
デフのギヤとは別に、左右の車軸の中間に抵抗を生む機構を追加して、その抵抗の具合に応じてデフの差動を押さえ込むという構造になっています。
その機構にはいくつか種類があります。
・機械(多板クラッチ)式
古くからモータースポーツ用のLSDとして今に至るまで長く使われ続けている方式です。
ギヤ式のデフの外側に複数のクラッチ板を装備して、その圧着の摩擦でデフの差動調整を制限するという方式。メリットは駆動のトルクが強いほど圧着が強くなり、大きな駆動力として伝えられること。
ハイグリップな路面とタイヤで行われるサーキットでのレースや、泥の凸凹の地形を走破するクロスカントリー競技などにはベストマッチ。
欠点は常に差動制限が働いているので、車庫入れなどの小さな切り返しの際などに抵抗になって具合が良くないこと。
切り返しのときにバキバキ音が鳴っているシャコタン車には、100%このタイプのLSDが装着されています。
・トルセン(ヘリカル)式
ザックリ言ってしまうと、噛み合ったギヤ同士の摩擦力や、斜めに歯が切られたギヤがずれる力でギヤの端面が壁面に押し付けられる摩擦で差動に制限を掛ける方式です。
トルクの大きさに比例して差動が制限される度合いが大きくなるので、機械式と同様に大きなトルクが掛かるスポーツ走行には向いています。
欠点は、トルクがあまり掛からない、雪道やぬかるんだ泥の路面など低いμの状態では差動の制限が不十分で安定しづらいという点です。
・ビスカスカップリング式
粘度の高いシリコンオイルが封入されたケースのなかに、左右の車軸に繋がる複数のプレート(円盤)が交互に収まっている構造のLSD。
左右の車軸に繋がっているプレート同士は接触していないので、そのままではいっさい差動の制限はおこなわれませんが、満たされたシリコンオイルの抵抗によって回転の差が制限される仕組みになっています。
ゆっくりじわっと差動する場合はオイルの抵抗は小さいですが、差動の速度が速くなるほど抵抗が大きくなる特性の方式です。
回転感応型のため大きなトルクの伝達には向きませんが、回転差の調整には優れた特性を発揮するため、4輪駆動の前後駆動を調整するセンターデフとしていまも使われています。
■市販車にLSDは必要なの?
これはケースバイケースです。
雪が降らない地域で、ぬかるんだ路面もめったに通らない都市部に住んでいる人は、LSDは不要だと言っていいでしょう。
これが、サーキットのスポーツ走行や山道をハイペースに走るのが好きで、月に何度か走りに行くという場合はLSDの装着をオススメします。種類は機械式がいいでしょう。
また、ウインタースポーツが好きで、毎週のように雪山にいくという人や、雪の多い地域に住んでいるという人にも、LSDの装着をオススメしたいです。
慣れている人で除雪された道を走るのがほとんどという場合は、それほどLSDの恩恵を感じないというケースもあると思いますが、雪が積もった状態の道を頻繁に通る場合は、LSDを装着した方がスタックの心配は少なくなると思われます。
その場合、走り方や好みで分かれると思いますが、スタックを防止する目的なら機械式がベスト。
ただ、サーキットを走るような高イニシャルの設定だとほぼデフロック状態で逆に扱いづらいでしょうから、マイルドな設定の純正LSDや、市販の物を低イニシャルにして装着すると良いと思います。トルセン式やビスカスタイプは雪道でしっかり効かないという話もよく聞きますが、オープンデフよりはしっかり駆動が伝わると思いますので、装着がマイナスになることはないでしょう。
このようにLSDというのはれっきとしたチューニングパーツですので、向かない用途に装着してしまうと逆に不具合が表に出てしまいます。
例えばGR86のようなスポーツ車にLSDを装着すること自体に違和感はありませんが、ほぼほぼ都市部の街乗りしかしないようなら宝の持ち腐れ、というよりも、日常のちょっとした操作や燃費などにわずかな支障が出ている可能性があるので、むしろマイナスと言えます。
逆に、雪深いところでオープンデフで不自由なく走っていた人がLSDを導入したときに「なんでいままでコレを使わなかったんやぁ~」と嘆くシーンも十分あり得ます。
滑る路面だから、サーキットだから、必ずLSDが必要だとは限りませんが、用途を見直してLSDの効果を見極めて導入すれば、きっと走りの確実性が高められるでしょう。
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