車両価格2000万円を大きく超えるランボルギーニ ウルスやベントレー ベンテイガなどはさすがに若干雲上すぎるとしても、1000万円超級ぐらいのポルシェ カイエンやメルセデスGクラス、あるいはマセラティ レヴァンテあたりのクルマ、つまり「ラグジュアリーなSUV」は今、ある種の男たちの欲望の中心近くに位置している。
それはそれで結構なことだが、なかにはこのように感じている方もいるだろう。「ああいった類のSUVって、なんだかオラついてる感じで好きになれない」と。
冒頭に挙げたウルスやカイエン、あるいはGクラスなどが「機械として非常に優秀なスペックと、大変なステータス性を有している」というのは疑いようのない事実だ。しかしそれと好みは別問題であり、「いいクルマなのはわかる。だがあまりにもギラギラとした“欲望ど真ん中感”が強いため、アレに乗るのは正直ちょっと気恥ずかしい」と感じるセンスも、世の中には存在しているわけだ。
この問題に特に正解はない。そのためギラギラのオラオラが大好きだという方は、そのままポルシェ カイエンでもランボルギーニ ウルスでも何でも、贅を尽くした最新世代のSUVを好みに応じてお求めになればいいだろう。
だが問題は「ああいったのは好きじゃない。かといって、ありがちで大衆的なクルマに乗る自分も許せない」という感覚の持ち主が、SUVに乗ってみたいと考えた場合だ。そういったケースでは今、何を選ぶのが正解なのだろうか?
決して唯一無二の正解ではなかろうが、筆者が提案したいのは「クラシックレンジ」との俗称で知られる英国製の絶版車、初代レンジローバーだ。
メーカー名を含めた正式車名は「ランドローバー レンジローバー」ということになるわけだが、長く、そして語呂もイマイチなため、以下はメーカー名を省略して単に「レンジローバー」と呼ばせていただく。
で、現在新車として販売されている4世代目のレンジローバーは、それこそギラギラ系の造形を持った「経済的成功者のシンボル」的SUVになってしまったわけだが、1970年から1996年まで販売された初代レンジローバーはまったく違う。もちろん、もしかしたら1970年代当時の民草は初代レンジローバーを「かなりのギラギラ系デザイン」と見た可能性も否定できない。だが少なくとも2018年現在の目線とセンスでもって眺める初代レンジローバーの造形は「清廉の極致」である。オラオラのオの字もない品の良さだけが、そこには残っているのだ。
クラシックレンジこと初代レンジローバーの歴史と横顔をざっとご説明しよう。その登場は1970年。当時英国に存在していた「ブリティッシュ・レイランド(British Leyland Motor Corporation)」という自動車メーカー傘下の1ブランドだったランドローバーから登場した、フルタイム4WD機構を備える多目的車で、当時はその言葉がなかったためそうは呼ばれていなかったが、今でいう「SUV」である。
開発のテーマは、ざっくり言うなら「圧倒的なオフロード性能を持ちながらも、普段は高級乗用車と変わらぬ快適性を有していること」だった。
この難題をブリティッシュ・レイランドの技術者たちは見事にクリアし、1970年にデビューした初代レンジローバーは「ラグジュアリーカーとエステートカー、パフォーマンスカー、クロスカントリーカーという4つの役割を1台で可能にする」という世界で初めての自動車となった。
今でこそそういったクロスオーバー車は多数存在しているが、当時は走破性に優れる4WD車といえば米国のジープ的なモノしかなかった時代だ。そんな時代にいきなり登場した初代レンジローバーは「砂漠のロールスロイス」と呼ばれ、英国王室や各国セレブリティに愛用されつつ、同時に過酷なパリ・ダカール・ラリーで複数回優勝するなど“実戦”でもその能力を証明した。
そんな初代レンジローバーに、シンプルなれど美しい造形とインテリアとを備える「高貴なる戦闘車両」に、今あえて乗るのだ。なかなか素敵な選択だとは思わないか?
だが、ちょっとクルマに詳しい方は「初代レンジってものすごく壊れるらしい」という噂も耳にしているだろう。そしてクルマにぜんぜん詳しくない方も、1970年代から1990年代にかけて生産されたクルマであることを知れば「……そんな古い時代の(元)高級車を買ったら何かと大変なんじゃないの?」と不安に思うはずだ。
一面の事実は、おっしゃるとおりである。
現在、流通しているクラシックレンジの年式は1990年代前半から半ばにかけてが中心。要するに四半世紀前の、しかもやや複雑な四輪駆動システムを備えた、高価な部品がふんだんに使われている元高級車ということだ。一般的にそういったクルマの整備にはどえらい手間とカネがかかるもので、そしてクラシックレンジは実際、何かと壊れやすいクルマ(というかデリケートなクルマ)でもあった。そのため、今から15年ほど前は「クラシックレンジ? おしゃれだけど、正直やめといたほうがいいと思うよ」というのが、ちょっと自動車に詳しい人間に共通する見解だった。
だが時代は変わった。というか、流れた。
ある程度の時が流れると、一般的なクルマというのは鉄くずになって土に還っていくものだが、ある種のクルマはまったく別の運命をたどる。マニアや専門店などの手によって愛され続け、固有の弱点に対する対応策が発明され続け、そしてレストレーション(修復)され続けた結果、「乗ろうと思えば全然普通に乗れるクルマ」に生まれ変わって第2、第3の誕生を果たすのだ。
1960年代製のポルシェ911などがその良い例であり、そして初代レンジローバーも今やそういったクルマのひとつとなっている。つまり昔のクラシックレンジはさておき「今のクラシックレンジ」は、その気になれば全然普通に乗れるのである。
もちろん条件はある。そこらへんで売っているボロい中古車を単に安値で買っても、ドツボにハマるだけだろう。まずはおおむね300万円前後の値札が付いているキレイめな個体を買わねばならない。
そしてそれも単なる「ベース車」だ。そこから(目安として)30万円から50万円ほどの予算をかけて「蛇の道は蛇」的な専門店にて各部の部品交換や整備を行う必要は確実にある。それで初めて「普通に乗れるクラシックレンジ」が出来上がるのだ。
そこから先は青天井の世界だ。そのまま、つまり車両300万円+整備代50万円ぐらいで終わらせるのも悪くないし、さらに数十万円、あるいは数百万円をかけて徹底的なレストアを追求するのも素敵であろう。実際、そのような金額を初代レンジローバーに投入しているユーザーはたくさんいる。
どちらの道を選ぶかはご自由だ。というか、「そもそもクラシックレンジなんて買わない」という選択だって大いに考えられるだろう。
だが、ギラついたラグジュアリーSUVばかりが幅を利かす世の中に、ぽつねんとたたずむクラシックレンジのシンプルなれど高貴な姿を見るとき、筆者個人はいつだってそれを手に入れたい欲望を抑えるのに苦労しているのだ。
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