所変われば品変わるというが、クルマの販売も国によってやり方が変わってくる。Amazonのようなネット販売が誕生した北米は、日本のように生活圏の近くに販売店があるとは限らないという環境が背景にある。
そして自動車の販売も最近はネットを使うのが主流になっているという。
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今回は海外のディーラー事情に詳しい小林敦志氏に北米のディーラー事情をレポートしてもらった。
文:小林敦志/写真:小林敦志、FORD、写真AC、足成
【画像ギャラリー】ショールームからセールスマンがいなくなる!? 北米自動車ディーラーの現状をウォッチング!!
■アメリカの新常識!? チャットで商談してオンラインでクルマ購入
リーマンショックの前は週末になるとディーラーの周囲に露店が並び、ちょっとしたお祭りのようだった。カタログ集めをしている日本人観光客の姿を見かけたりもしたものだ
南カリフォルニアあたりでは、一定区域内にディーラーが集中して出店している、“オートモール”というものがある。ロサンゼルス国際空港に近いセリトス市に、セリトス市が誘致した“セリトスオートスクエア”というオートモールがあり、ここは先駆け的存在ともいえる歴史の古いオートスクエアとなる。
空港に近いからなのか、ここを訪れる日本人観光客も多く、カタログ集めなどをしているとも聞く(いまはペーパーレス化が進んだりして、簡単にもらえるような環境にないディーラーが多い)。
筆者はリーマンショック直前あたりから、セリトスオートスクエアを含む南カリフォルニアに点在するいくつかのオートモールを定点観測するようにしている。
日本と同じく週末は各ディーラーともにフェアを行っており、定点観測をはじめたころは店先にホットドッグなどの軽食を提供する露店のようなものを設けたりして、お祭りムード満点であった。
しかし、リーマンショック後は世の中が不況になったこともあり、露店のようなものも見かけなくなり、訪れる客も少なめで閑古鳥が鳴くようになった。
ただトランプ政権になるとアメリカ経済も上向き、新車販売台数も前年比でプラスが続くようになり、ディーラーの多くがショールームの建て替えを行うなど設備投資も積極的に行うようになった。
しかし、新車販売台数は業界関係者が不思議がるほど毎年前年比でプラスになっているのに、ディーラーに新車が欲しくて訪れる客が目に見えて増えているようには見えず、かえって年々寂しさが増しているようにすら見える。
この状況を不思議に思っているところへ、現地の事情通から「チャットを使ったオンラインで新車を買うひとが増えてきています」という話を聞いた。
■今までの常識を覆す車販売方法 注文と契約はチャット、納車はデリバリーで
アメリカではほとんどのディーラーが大量の在庫を抱え、消費者はその在庫車のなかからお気に入りのクルマを選び、その日のうちに乗って帰ることが可能だ。自動車大国らしい豪快な話である
アメリカの新車ディーラーのWebサイトを開くと、チャット専属のセールスマンから「何かご用命はありますか」みたいなメッセージが入ってくる。そして、このチャットを通じて商談を進め、契約締結までチャットで済ますことが可能とのこと。
さらに、購入した新車についても自宅までのデリバリーサービスがあるというから、ディーラーを一度も訪れなくとも新車購入が可能となっているとのことである。
そもそもアメリカでは、ほとんどのディーラーが大量の在庫を抱え、消費者はその在庫車のなかからお気に入りのクルマを選び、条件が合えば契約を結び、その日のうちに乗って帰ることが可能となっている。
日本で例えれば、ホームセンターや専売店に出かけ自転車を購入し、そのまま乗って帰るケースを連想してもらえればわかりやすいだろう。
ナンバープレートそのものは、後日郵送されてくるので、しばらくの間はナンバープレートなしで乗ることができ、そのようなクルマをフリーウェイで見かけると、「買ったばかりだな」と一目でわかったのである(※1)。
※1/カリフォルニア州でしか確認していないが、本ナンバープレートが届くまでの仮プレートのようなものを現在はつけるようになっている。
店頭にある在庫車そのものを買いにいくのが基本スタイルなので、購入希望車を試乗するのも大事な作業のひとつとなっている。大昔のアメリカ車は個々で品質にかなりバラつきがあったこともあり、購入するクルマそのものを契約前に試乗して状態をチェックすることが大事だった。
さすがにアメリカンブランド車でも個々で大きく品質差が出るようなことがなくなったが、今でもその習慣が続いているのである。
■乗っている車で社会的ステイタスがわかる!? 借金も社会的信用になる
背伸びして高いクルマを買おうとしても、満額の融資が必ず受けられるわけではない。アメリカでは乗っているクルマで社会的ステイタスがわかるとされている
そのような新車購入スタイルが基本なのだが、新車代金の支払い方法がローンやリースが主流(※2)となると、その与信結果が出るまで数時間もディーラーのショールームで待たされることになり、「歯医者と新車ディーラーはあまり行きたくない」というようなことを言われるようになった。
※2/マネーロンダリングを防ぐ意味もあり、小切手以外での一括購入は原則できない。
ちなみにアメリカでは、欲しいクルマを買うために満額の融資が必ずしも受けられるわけでもない。
つまり、お気に入りのモデルを購入するために300万円必要であっても、与信ではクレジットカード利用から不動産ローンまで、そのひとの借り入れ状況や返済状況がすべて審査されることになるので、結果的にそのひとの身の丈にあった融資しか受けることができない。
収入相応の新車(新車が買えればまだいいほう)しか買えないので、背伸びして高いクルマを買おうとしても、融資額が不足してしまうのである。そのようなことから、アメリカでは乗っているクルマでそのひとの社会的ステイタスがわかるものともされている。
返済に問題がなくても、借り入れ履歴が少なければ希望融資がなかなか通らないことにもなる。“いくら借金しているか”も社会的信用をはかるポイントとなっているのである。
チャットを使った、いわゆるリモート商談では与信にかかる時間も別のことに使えるといった利便性もあるようである。
アメリカでの新車購入商談の特徴は、“いくら値引かせる”ではなく、“いくらまでディーラー利益を上乗せさせることを許すか”というのが交渉のポイントとなっている。
■ショールームでの商談風景は過去のものとなる? 将来的にはセールスマンのAI化も
ローンやリース主流となると、その与信結果が出るまで数時間もショールームで待たされることになる。リモート商談ではその時間を別のことに使えるという利便性もある
実はWeb上で、新車の販売原価というものが複数のサイトで公開されているのである。誰でもアクセス可能なものであり、ここで公開されている販売原価をベースに、例えば“500ドルまでならディーラー利益の上乗せOK”といった交渉を進めることになるのだ。
さらに、一部のディーラーが専門業者に対して、本来ならメーカーとの秘匿事項となる取引条件(販売原価など)を公開し、これら集まった秘匿情報をもとに新車見積りの比較検討ができるサイトも開設されている。
ここで比較検討して納得したクルマが決まったら、情報公開したディーラーのサイトへ移動して購入できるようになっているとのことである。
代替えで新車購入を検討していても、いわゆる下取り車は個人間売買が発達しているので、そちらを使って処分しているようである。
「実車はチェックしないのか?」という疑問もあるかもしれない。これについては、アメリカでは年間を通じて各州でローカルなモーターショーが開催されており、その会場では試乗コーナーも充実している。モーターショーで実車チェックを行い、購入ではオンラインを活用しているようである。
そのため、近年ではモーターショー会場のブースに、可能な限り市販車を展示するメーカーも目立っている。
チャット商談はいまのところ、現場のセールスマンから選抜した専属要員に担当させている。事実、最近はショールームに行っても昔ほどセールスマンは見かけなくなった。
前出の事情通によると「今はベースとなるビッグデータ収集中といったところでしょう。人間同士のやりとりを情報として貯めこみ、近い将来にはAIがチャット商談の窓口になりそうです」と語ってくれた。
日本とは異なり、セールスマンは歩合給比率がかなり高いこともあり、セールスマンのAI化による人件費の抑制効果はかなり高まるともいえよう。
クライスラーやジープなどを扱うカリフォルニア州トーランスにあるディーラー「スコットロビンソン」のホームページ。自動的にチャット画面が開き、商談が可能だ
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