2009年2月、ボルボC30、S40、V50の3モデルに、新開発のDCT(パワーシフト)を採用した新グレード「2.0e」をが追加設定された。それまでラインアップされていた2.4Lの「Aktiv」に代わるエントリーモデルにMotor Magazine誌も注目。C30 2.0e パワーシフトをメインに試乗テストを行っている。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年4月号より)
2L 直4 DOHCと新開発のDCT(パワーシフト)を組み合わせた「2.0e」
初めてデュアルクラッチ式トランスミッション(以下、DCT)のクルマに乗ったのは、5年あまり前のことだった。そのとき受けた衝撃は今でも鮮明に覚えている。タイムラグなしにスパスパとシフトチェンジするフィーリングは、未だかつて味わったことのないもので、1kmも走らないうちに感嘆の声を上げていた。クルマはアウディA3の3.2 FSIクワトロだったが、その後このトランスミッションはゴルフへも移植、さらに成長、成熟していることは、改めて言うまでもないだろう。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
実は今回、ボルボC30のパワーシフト(DCT)に乗って、5年前と同等レベルの衝撃を受けた。なぜならこのパワーシフトのフィーリングが、あまりにもトルコン式ATに近かったからだ。それは「言われなければわからない」というレベルではなく、「言われても疑ってしまう」ほどだ。
さて、このパワーシフトと名付けられたDCTは、ボルボとゲトラグの共同開発によるもので、ギアは6速、湿式のデュアルクラッチを持つ。現在、フォルクスワーゲンは、より伝達効率に優れる乾式デュアルクラッチのDSGも用意しているが、パワーシフトは効率と滑らかさを両立するために、湿式を採用したようだ。
トルコン式ATに近いフィーリングというのは微低速で顕著だ。停止状態からブレーキペダルを離すと、トルコン式ATと同じように滑らかにクリープする。そして、アクセルペダルを踏むと、まったくギクシャクすることなく加速を始める。このアクセルペダルを踏み込んだ瞬間が、これまで世界のメーカーから登場した、どのDCTよりも、明らかに滑らかなのだ。
微低速での滑らかさ、扱いやすさというのは実に大切なことだ。狭い駐車場の出し入れや10cmレベルの移動など、これまでのDCTでは例外なく神経を使わされたものだが、パワーシフトならばその点、まったく心配がいらない。あまり運転が得意ではない方でも問題ないだろう。
どんな状況でも扱いやすいパワーシフトに文句なし
走り出すと、この滑らかさが微低速だけでないことがすぐにわかる。アクセルペダルを強めに踏み込んで、2速から3速へシフトアップするような状況でも、実にシームレスだ。その他、いろいろな状況で試してみたが、パワーシフトの滑らかさについては、文句のつけようがなかった。
ただ、それは言い方を変えれば、他社の多くのDCTが持っているスポーティなフィーリングは少ないということだ。その点はあまり期待しない方がいい。もちろん、トルコン式ATに比べて約8%燃費がいい(ボルボ社内値)ので、フィーリングがどうであれ、ユーザーには大いにメリットがあることは言うまでもない。
さて、パワーシフトに組み合わされたエンジンも日本初導入となるものだ。可変吸気システムを持つ2L 直4 DOHCで、燃費志向といえるタイプだ。しかし、最高出力は従来からある2.4L 直5 DOHCの140psを上回る145psを発揮する。ただ、最大トルクは排気量が少ないため18.9kgmと2.4Lの22.4kgmよりかなり少ない。このトルクがもう少し太ければ、パワーシフトとの組み合わせで、余裕のあるゴージャスな走りになることが予想されるだけに残念ではある。
トランスミッションとエンジンが、「滑らか系」であるのに対して、足まわりは「しっかり系」だ。シャキッと軽やかという印象は少ないのだが、コーナーではけっこう踏ん張る。「このパワートレーンと足まわりのバランスはどうだろう」と、いろいろ考えながら走っていると、「同じ組み合わせのV50にも乗ってみたい」と思い立った。
C30、V50、S40は同じシャシコンポーネンツを使った兄弟車だが、C30だけ足まわりが少々硬い設定になっているからだ。予想は的中した。V50とこのパワートレーンはぴったりだ。バランスがいい。「滑らか系」のパワートレーンには「ゆったり系」の足まわりがよく合う。前後の重量バランスも影響しているのだろう。C30は前:後=63:37であるのに対し、V50は後ろが重いので59:41だ。そもそも飛ばすことなど考えないV50の性格に、このパワートレーンはよくマッチしている。
実は試乗車はこの3台のうち、どれを選んでも良かった。DCT搭載と聞いて、「ならばスポーティな性格のC30で試すのが順当」と考えたのだが、それは今までの常識にとらわれていたからだったようだ。
ボルボのパワーシフト、現時点で世界一滑らかなDCTにはステーションワゴンがよく合う。と言うか、最新の技術をどこに合わせるかと考えた場合、メインとなる車種、ボルボならワゴンに合わせるのは、冷静になってみれば当然のことのように思う。甘かったと反省。
ところで、大きなニュースがもうひとつ。それは車両価格だ。かなり思い切ったバーゲンプライスが付いている。(文:Motor Magazine編集部 荒川雅之/写真:赤松 孝)
ボルボ C30 2.0e パワーシフト 主要諸元
●全長×全幅×全高:4250×1780×1430mm
●ホイールベース:2640mm
●車両重量:1380kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1998cc
●最高出力:107kW(145ps)/6000rpm
●最大トルク:185Nm/4500rpm
●トランスミッション:6速DCT(パワーシフト)
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・55L
●10・15モード燃費:11.6km/L
●タイヤサイズ:205/55R16
●車両価格:279万円(2009年当時)
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みんなのコメント
すぐに壊れるし、費用は乗せ換えくらいかかるし。
ボルボもすぐにトルコンの8ATに戻したからね。
どこのメーカーでも、DCT採用してる車両は選ばないことにしている。