英国老舗ブランドの真価と進化
ドイツ、イタリア、フランス、アメリカ、日本とスポーツカーを作っている国は数多くあれど、「ブリティッシュスポーツカー」という響きに、ときめいてしまうのはなぜだろう。老舗の高級車メーカーからF1コンストラクター、果てはバックヤードビルダーまで、クルマ作りのノウハウは千差万別。ここでは、そんな英国を代表する5台のスポーツカーをご紹介。それぞれのブランドが育んできた英国流スポーツカーの仕立て方を紐解いていく。
【国内試乗】「マクラーレン600LTクーペ」超絶のエアロダイナミクス
スポーツカーとスポーティカーの違い
スポーツカーの原稿を書く度にいつも考えていることがある。もちろん今回も、こうしてキーボードをパタパタと叩きながら頭の片隅ではいつもの自問自答を繰り返している。
「スポーツカースポーツカー言うけど、具体的にどういうクルマがスポーツカーなのか?」
スポーツカーを名乗るにあたり、どこかの誰かが決めた定義のようなものはこの世に存在せず、最低何馬力以上は必要とかゼロヨン何秒以下とか、基準となる数値やデータもない。マツダ・ロードスターのようにわずか132ps/152Nmしかなくても自他共に認めるスポーツカーもあれば、レンジローバースポーツSVRのように575ps/700Nmもあってもスポーツカーとは呼ばれないモデルもある。ポルシェ・パナメーラやカイエンはポルシェがスポーツカーだと明言するからスポーツカーなのか、メルセデスAMG GT 4ドア・クーペはどうか等々。ボディタイプやパワースペックだけで、スポーツカーか否かを判断するのは難しい。
いっぽうで「気持ちがいいハンドリング」なんて表現がスポーツカーにはよく使われる。これもかなり曖昧な描写であり、アルファ・ロメオ・ジュリアやゴルフGTIなどは心高ぶる操縦性を有しているものの、スポーツカーの範疇には入らない。「スポーティ」という不分明な言葉はこういうクルマを分類するために自然発生的に生まれ、我々は明確な基準もないままに「スポーツカー」と「スポーティカー」を無意識のうちに識別している。
英国製スポーツカーに対峙する歓び
そんなことを考えながらも、ひょっとしたらスポーツカーに対するなんらかの解が得られるかもしれないと、淡い期待をしつつ対峙したのはイギリス製スポーツカーの面々である。中でも、もっとも歴史が浅いのに一躍スポーツカーブランドとして世界に名を馳せたのがマクラーレンで、今回は600LTスパイダーを連れ出した。
600LTスパイダーは570などと同じ〝スポーツシリーズ〟に属し、「LT」はロングテールを意味する。570よりもリアだけで47mm、全長で74mm長いボディは、主にダウンフォースの向上を目的に設計され、パーツの約25%を専用とすることで100kg近い軽量化に成功し、上方排気のエキゾーストシステムも車重の軽減に大きく貢献している。
軽量化とダウンフォースの向上、加えて減衰力とバネレートが高められた専用のサスペンション設定からも想像が付くように、600LTスパイダーは720の〝スーパーシリーズ〟にかなり近い〝スポーツシリーズ〟である。バネ上のピッチやロール方向の動きをほとんど感じさせず、ステアリングの動きにシビアに反応し、曲がるというよりもその場で回転するような旋回特性が特徴的だ。スロットルペダルを踏めば圧倒的加速力が瞬時に得られるし、ブレーキペダルに踏み換えればそれを安定的かつ速やかに抑え込む。こういう一連の〝コール&レスポンス〟は、乗用車開発の延長線上にあるスポーツカーではなく、レーシングカーをスポーツカーにコンバートするという発想だと思った。マクラーレンという若いメーカーの出自が商品に現れている。
マクラーレン・オートモーティブ社の設立は2009年だが、今回もっとも歴史が古いのは1913年創業のアストンマーティンである。DBSスーパーレッジェーラは、GTシリーズ(DB11)とリアルスポーツカーシリーズ(ヴァンテージ)とはまた別のスーパーGTシリーズに所属。今回の5台の中では最強の725psを5.2LのV12ツインターボが発生する。リアトランスアクスル形式を採用し、8速ATのギアボックスを後方配置する後輪駆動である。”スーパーレッジェーラ”はイタリア語で”超軽”〟を意味するがその言葉通り、ルーフをCFRP製に、ドアをアルミ製にするなどの軽量化が図られて、V12を搭載していながら1.6トン台の車両重量を達成している。
700ps強のパワーを後ろ2輪だけでまかなうのだから、トラクションコントロールをはじめとする電子デバイスが積極的に介入してくるのかと思いきやさにあらず。むしろ控え目なくらいで、スロットルペダルを必要以上に踏み込んでしまうと後輪は簡単にスピンする。それでもペダルのコントロール性が高いので、ドライバーが適切な入力をすれば官能的なサウンドを奏でながら胸の空くような加速感が味わえる。旋回時には機械式LSDとブレーキを使ったトルクベクタリングが作用するものの、制御されている感覚には乏しく、ドライバー自らがマルチシリンダーのスポーツカーを支配下に置いていることが実感できるのである。
スポーツカーに電子デバイスは必要なのか
アストンマーティンの次に古い歴史を持つベントレーは今年で100周年を迎えた。コンチネンタルGTをスポーツカーと呼ぶかどうかは意見が分かれるかもしれないが、635ps/900NmのパワースペックはDBSスーパーレッジェーラに次ぐ数値で、最高速は333km/hと公表されている。いっぽうで室内は贅を極めたしつらえになっていて、手に汗握りながら峠道を攻めたい気持ちをいさめる煌びやかな雰囲気が漂う。
言葉が少し悪いかもしれないけれど、コンチネンタルGTの乗り味は「気持ち悪いくらい気持ちがいい」。遠くのほうで控え目に存在感をアピールするW12ツインターボは、2トンを超えるボディをあっという間にびっくりするような速度まで運ぶ。クルマの雰囲気に呑まれて運転は自然とゆったりした操作になるものの、ターンインは素早く旋回速度も速度計の表示を疑うほど速い。それでいてソフトでフラットな乗り心地と静寂に包まれた室内は極楽至極なのだ。試乗当日は時折ゲリラ雷雨に見舞われたが、路面状況などお構いなしにまったく変わらぬ盤石な走りに終始する。アクティブアンチロールバーや3チャンバーエアサスペンションや駆動力可変式4WDシステムなどの電子デバイスを総動員して、この安泰な走りをサポートしてくれていたおかげである。
ジャガーのFタイプは2013年に発売されたスポーツカーで、クーペとコンバーチブルのボディを持つ。エンジンは2L直4/3L V6/5L V8から選べるが、今回はベーシックな直4を積む”P300”のRダイナミック仕様にお出ましいただいた。
Fタイプはなんといってもそのプロポーションが特徴だ。全幅は1900mmを超えているのに、全長は4500mmを切っている。極端に左右に広く前後の短いボディはしかし、スポーツカーの操縦性の観点からすれば決して悪くない。短いホイールベースは回頭性に、広いトレッドは4輪の接地性に、それぞれ有効に働くからだ。そのターンイン時の挙動は曲がるというよりも横にスッと移動する感じで、ステアリングゲインが高く、操舵初期から直ちに応答する。Fタイプの中ではもっとも非力なエンジンであってもコンパクトなボディを動かすには十分で、スロットルレスポンスが想像以上にいいから、すこぶる快活な印象が強い。デビュー当時は1925mmの全幅に閉口したが、DBSやコンチネンタルGTのほうがさらに幅広く、いまとなっては当初ほど気にならなくなってしまった。
そしてしんがりに控えるのはロータスである。”ピュアスポーツ”カーならエリーゼだが、日本の道路環境ではエリーゼの本領が発揮できる舞台(山やサーキットなど)に辿り着く前に体力的に少々疲れてしまう。道中の高速道路でも、もちろん行った先でも楽しめるのがこのエヴォーラだ。
エンジンを横置きにしたミッドシップレイアウトで、3.5LのV6はトヨタのアルファード/ヴェルファイアと同じユニットを共有する。「ミッドシップなのに横置きで重心が高く、トヨタのつまらないエンジンか」という憂鬱は運転してすぐにどこかへ吹き飛んでしまう。路面にピタリと張り付くような接地感は重心の高さをまったく意識しないし、軽量フライホイールやスーパーチャージャーなどで改良されたエンジンは、トヨタ製であることが忘却の彼方へ消え失せるくらい気持ちよく回り、レスポンスのいいパワーデリバリーを果たしてくれる。
エヴォーラだけがMTだったが、このクルマを英国製スポーツカーのトップに選んだのはそれが理由ではない。右手をステアリング、左手をシフトレバー、そして両足をペダルに乗せ、クルマの声に耳を傾けながらコミュニケーションを取り、クルマの限界と自分の運転スキルの限界をさぐりつつ走らせていくと、やがてクルマとドライバーが完全に同化する一瞬が訪れ、それがとてつもなく気持ちいいからだ。念のために付け加えておくと、エヴォーラが装備する電子デバイスはESPしかない。
英国製スポーツカーはドライバー依存度がおおむね高い。その分リスクも覚悟しなくてはならないが、スポーツカーとはそもそもそういうものではないだろうか。
アストンマーティンDBSスーパーレッジェーラ
【Specification】ASTON MARTIN DBS SUPERLEGGERA
■全長×全幅×全高=4712×1942×1280mm
■ホイールベース=2805mm
■車両重量=1693kg
■エンジン種類/排気量=V12DOHC48V+ツインターボ/5204cc
■最高出力=725ps(532kw)/6500rpm
■最大トルク=900Nm(91.8kg-m)/1800-5000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=265/35R21:305/30R21
■車両本体価格(税込)=35,030,000円(9月26日現在)
お問い合わせ
アストンマーティン ジャパン リミテッド 03-5797-7281
マクラーレン600LTスパイダー
【Specification】McLAREN 600LT SPIDER
■全長×全幅×全高=4604×2045×1196mm
■ホイールベース=2670mm
■車両重量=1309kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/3799cc
■最高出力=600ps(441kw)/7500rpm
■最大トルク=620Nm(63.2kg-m)/5500-6500rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:Wウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=225/35R19:285/35ZR20
■車両本体価格(税込)=32,268,000円(9月26日現在)
お問い合わせ
マクラーレン東京 03-6438-1963/マクラーレン麻布 03-3446-0555/マクラーレン名古屋 052-528-5855/マクラーレン大阪 06-6121-8821/マクラーレン福岡 092-611-8899
ベントレー・コンチネンタルGT
【Specification】BENTLEY CONTINENTAL GT
■全長×全幅×全高=4880×1965×1405mm
■ホイールベース=2850mm
■車両重量=2260kg
■エンジン種類/排気量=W12DOHC48V+ツインターボ/5950cc
■最高出力=635ps(466kw)/6000rpm
■最大トルク=900Nm(91.8kg-m)/1350-4500rpm
■トランスミッション=8速DCT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=265/40 ZR21:305/35 ZR21
■車両本体価格(税込)=25,812,000円(9月26日現在)
お問い合わせ
ベントレーモーターズジャパン 0120-97-7797
ジャガーFタイプ・コンバーチブル
【Specification】JAGUAR F-TYPE R-DYNAMIC CONVERTIBLE P300
■全長×全幅×全高=4480×1925×1310mm
■ホイールベース=2620mm
■車両重量=1670kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1995cc
■最高出力=300ps(221kw)/5500rpm
■最大トルク=400Nm(40.8kg-m)/1500-2000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:Wウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/45ZR18:275/40ZR18
■車両本体価格(税込)=10,440,000円(9月26日現在)
お問い合わせ
ジャガー・ランドローバー・ジャパン 0120-050-689
ロータス・エヴォーラ
【Specification】LOTUS EVORA GT 410 SPORT
■全長×全幅×全高=4390×1850×1240mm
■ホイールベース=2575mm
■車両重量=1320kg
■エンジン種類/排気量=V6DOHC24V+スーパーチャージャー/3456cc
■最高出力=416ps(306kw)/7000rpm
■最大トルク=420Nm(42.8kg-m)/3500rpm
■トランスミッション=6速MT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:Wウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=235/35ZR19:285/30ZR20
■車両本体価格(税込)=14,688,000円(9月26日現在)
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