■雨のレースを予感させる当日の朝……
『もてぎロードレース選手権(通称:もてロー)第3戦』当日。7月下旬にもかかわらず、明けぬ梅雨空が雨を降らせていました。当然、ツインリンクもてぎの路面は完全に濡れたウエット状態。「ああ、ウエットレースなのか……」と、一抹どころか、猛烈な不安が胸中を駆け巡ります。なにしろ筆者(伊藤英里)は、この日がもてロー初参戦なのです。
「走る棺桶」を操るレーシングドライバーのほとんどがライダー転身組
もてローはツインリンクもてぎで開催されるロードレース選手権です。そのクラス分けは多岐にわたり、今回エントリーしたのは「NEO STANDARD G310R」というクラスです。チームメイトは、同じくもてロー初参戦の加山ゆきこさん。普段はBMWのスーパースポーツバイク「S1000RR」でバイクライフを楽しんでいます。
「NEO STANDARD」クラスは250ccクラスのバイクで争われ、さらに車両によってクラス分けがなされています。車両規則はストックカテゴリーに近いST250(S/T)クラスに順ずるところが多く、バイアスタイヤの装着が義務付けられています。
また『エントラントポイントシステム』が導入されているのも特徴のひとつです。いわゆるチーム戦で、チームに対してポイントが付与されます。レースでは1回のピットインが義務付けられ、16周の周回数を最大2名のライダーで走ることも可能としており、さらに年間を通してエントリーする場合は、複数名のライダーで参戦できます。比較的、参戦のハードルが低いクラスだと言えるでしょう。
そんな「NEO STANDARD」クラスのスポーツ走行と予選は、ウエット路面で実施されました。午前中のスポーツ走行では濡れた路面に足をすくわれ転倒が発生……! 緊張感が走りましたがライダーに大きな怪我もなく、ブレーキペダル側のステップ付近にダメージを負ったバイクは、メカニックさんやヘルパーさんのおかげであっという間に修復されました。
もてローは予選も決勝も1日で行なわれます。合間には受付やレースを走るための車検、ブリーフィングなどなど、ビギナーには慌ただしさを感じる流れです。気持ちだけ急く中パドックを歩いていると、仮眠をしたり、テントの下で昼食をとる人の姿もありました。どこか和やかに見える雰囲気の下、バイクの奏でるエキゾーストノートが雨空に響きます。
「これからレースをするんだ」
なぜかそのときに強く感じたそれは、不思議な高揚感でした。
■終わってすぐ、次のレースに思いを馳せている
迎えた決勝レース。スタートはほぼドライの路面状況となり、チームメイトの加山さんにお任せ。41台中、40番グリッドからのスタートです。
「決勝レースはドライで走れるかもしれませんね」と、同じクラスに参戦するライダーと言葉を交わしたのが数時間前のこと。上昇していく気温が、あっという間に路面状況を変えていました。
しかし「ドライになってよかったな~」などと浮かれていたのもつかの間「雨だ!」という声が上がりました。ふとコースを見ると、雨粒が落ちてきたことを知らせるレッドクロスの旗が振られています。一瞬の落胆。しかし「やるしかない」と、それを見て腹が決まった、と言ってもいいかもしれません。
加山さんとバトンタッチしてコースインすると、雨粒がバイザーを叩いては流れていきます。後続車に何度も抜かれるなか、ただひたすら、自分を抜き去ったライダーがコーナーに入っていく様子を目で追う、その繰り返しです。
最終的にわたしたちのチームは37位、転倒もなく、最後まで完走することができました。
帰路の道中、気がつけば「次のレースでは……」と考えている自分に気付きます。むくむくと胸中に湧き上がるいくつもの思い……。
初めてのもてロー参戦は雨のレースでしたが、楽しくて、同時にちょっとだけ悔しさを感じたりもして……。どうやら、レース参戦の虜になってしまったようです。
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