2018年3月1日に発売されたエクリプスクロスは、三菱にとって久々の新型車だった。これ以前の新型車は2014年2月のeKスペースだから、4年ぶりの国内投入になる。
それだけに三菱や三菱ファンにとって、エクリプスクロスに対する期待は大きい。今回改めて一般公道で試乗して、エクリプスクロスの実力をしっかりと見極め、もし足りないものがあるのであればそれを指摘したい。
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文:渡辺陽一郎 写真:池之平昌信
■引き締まったボディと顔
エクリプスクロスの全長は4405mmだからアウトアランダーに比べて290mm短いが、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は2670mmだから同じ数値になる。そのためにエクリプスクロスは前後のオーバーハング(ボディがホイールから前後に張り出した部分)が短く、引き締まり感が伴う。
三菱4年ぶりの新型車、エクリプスクロス。ホイールベースはアウトランダーやRVRと同じ2670mm
また全幅は1805mmだからアウトランダーとほぼ同じだ。バンパーの厚みを強調したフロントマスクによって存在感が強く、外観を見る限りアウトランダーに比べてあまり小さな印象は受けない。
車内に乗り込むと、インパネなどの内装は上質だ。特にシートが注目され、背もたれが肩まわりまでしっかりと支える。腰のサポート製も優れ、座り心地が適度に柔軟だから、乗員の体がシートにスッポリ収まった印象になる。
三菱が「クーペSUV」と称しているように、フォルムは絞られているが、後席の居住性はしっかり確保
後席は前席ほど快適ではなく、サポート性も下がるが、アウトランダーに比べると座り心地が少し柔軟だ。
そして全長が4405mmのSUVとしてはホイールベースが長いので、後席のスペースも広い。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先には、握りコブシ2つ分の余裕がある。アウトランダーの2つ半よりは少し狭いが、後席に座る乗員の足が前席の下に収まりやすいので、4名乗車時も快適だ。
荷室の床面積は広い。リヤゲートを寝かせたから背の高い荷物は積みにくいが、実用的には十分な容量がある。
またリヤゲートを寝かせたことでヒンジが前寄りに装着され、ミニバンやワゴンに比べると、開閉時に後方へ張り出しにくい。縦列駐車をしているような状態でも、リヤゲートを開閉できる。
■気になったのは、ノイズとCVT
市街地の試乗では、視界や取りまわし性も重要だ。前方視界は良く、ボンネットも視野に入るからボディの先端位置や車幅が分かりやすい。
斜め後方の視界は、ほかの多くのSUVと同じように見にくい。サイドウインドーの下端が後ろに向けて持ち上がり、ボディ後端のピラー(柱)も太いからだ。注目されるのはリヤゲートの形状で、リヤウインドーを二分割して、真後ろの視界はある程度確保した。
特徴的なリアフォルムで、個性は強い。視認性は他のSUVと同程度といったところ
いずれにしろ、購入するなら縦列駐車や車庫入れを行って、取りまわし性は確認したい。最小回転半径は5.4mだから、小回り性能はSUVの平均水準だ。
エンジンは直列4気筒1.5Lターボを搭載する。動力性能はターボを装着しない2.4Lのノーマルエンジンと同等だ。実用回転域の駆動力が高く運転がしやすい。4000回転を超えると回転の上昇が活発になって加速性能も相応に優れる。
走行性能は「さすが三菱」といえる感じで、グイグイ曲がっていく。ただしCVTのステップ変速は気になった
気になったのはノイズで、2000~3000回転付近で軽くアクセルペダルを踏み増すと、少しゴロゴロとした粗い音が響く。
トランスミッションはCVT(無段変速AT)だが、8速の疑似変速機能を組み込み、なおかつステップシフト制御も採用した。フル加速する時は、有段ATのようにエンジン回転数を上下させながら車速を高めていく。
この制御はあまり意味がない。CVTは無段変速とあって、高効率な回転域を保って速度を高められることに価値があるからだ。パドルシフトで8速の疑似変速が行えるのだから、通常のステップ変速は不要で、回転数は一定に保ちながら最強の加速力を発揮させるべきだ。
■「安定感」と「活発な走り」を実現させたところが三菱
走行安定性は数あるSUVの中でも優れた部類に入る。プラットフォームは、先に述べたとおりホイールベースの数値まで含めてアウトランダーやRVRと共通だが、安定性や操舵感はエクリプスクロスが最も優れる。構造用接着剤などを使ってボディ剛性を高め、足まわりを改めてチューニングした効果が大きい。
コーナーの手前でハンドルを切り込むと、アウトランダーなどに比べて、小さな舵角から正確に車両の向きを変える。カーブを曲がっている時の挙動も異なり、エクリプスクロスは全高が1685mmに達する背の高いボディでありながら、舵角に応じて車両を確実に内側へ回り込ませる。前輪が踏ん張り、旋回軌跡を拡大させにくい。
そうなると後輪の接地性が心配になるが、カーブを曲がっている最中にアクセルペダルを戻すような操作をしても、挙動を乱しにくい。相対的に後輪の接地が削がれても、挙動の変化が穏やかだから安定性は大きく損なわない。
「三菱らしさ」を求めるのであれば、やはり4WD仕様をお薦めしたい
この安心感と活発な走りをSUVで両立させたことが、三菱車の真髄、三菱らしさといえるだろう。エクリプスクロスは前述のように背が高いから、カーブを曲がる時には、低重心のセダンやクーペに比べるとボディが大きめに傾く。この挙動変化を穏やかに進めることで、エクリプスクロスはセダンやクーペとは違う運転の楽しさを身に付けた。
つまりエクリプスクロスは、背の高さ、高重心まで味方にして、走りを追求している。同じようなことはトヨタC-HR、マツダCX-8などにも当てはまり、新しいSUVに共通する醍醐味となっている。
乗り心地は少し硬いが、走行安定性を考えれば納得できるだろう。速度が上昇すると快適になるタイプだ。
■買うなら21万6000円高くとも4WD!
駆動方式は前輪駆動の2WDと4WDを用意するが、今時のSUVでは珍しく4WDの人気が高い。三菱のブランドイメージ、エクリプスクロスの外観に4WDが似合うこともあるが、S-AWCの採用も利いているだろう。4WDでカーブを曲がる時には、S-AWCの作動により、内側の前輪をブレーキングして車両を積極的に内側へ向けるといった制御が行われるからだ。
いい換えればエクリプスクロスの走りの良さは、S-AWCを備えた4WDでこそ満喫できる。従って購入する時も4WDを選びたい。4WDの価格は2WDに比べて21万6000円高いが、この価格差は割安だ。一般的には23~26万円前後だが、エクリプスクロスは低価格でS-AWCも備わるから、一層買い得になる。
■最もお買い得なグレードは「G」
グレードは3種類を用意するが、Gが最も割安だ。安価なMには車間距離を自動制御できるクルーズコントロールは装着されないが、Gになるとミリ波レーダーと併せてこの機能が備わり、高速道路を使った長距離移動時などはペダル操作が軽減される。
さらにこのミリ波レーダーは緊急自動ブレーキのセンサーとしても利用されるから、車両に対するブレーキの作動上限速度は、Mは時速80kmだがGであれば最高速度までカバーできる。Gの価格はMよりも17万3880円高いが、LEDヘッドライトやヘッドアップディスプレイなども加わるから、装備の充実と価格差のバランスは取れている。
このGに後側方車両検知警報など安全装備のオプションを5万4000円で加えるのがベストだ。オプションを含めた総額は、4WDでも297万6480円だから、300万円以下に収まる。
■三菱が復権するために必要な3つのポイント
エクリプスクロスを加えたことで、三菱はようやくブランドの回復に乗り出した。最も大切なことは、当たり前だが二度と信用を失墜する不祥事を起こさないことだ。
2つ目は2018年中に予定されるデリカD:5の大幅な改良など(型式は同じだから分類上はマイナーチェンジになる)、4WDモデルを着実に進化させて、プラグインハイブリッドや電気自動車にも力を入れることだ。この点については地道なことしか望めないが、淡々とでも続けることが大切だ。
エンジンは直噴MIVECのガソリン1.5Lターボ。150ps/24.5kgm、JC08モード燃費は14.0km/L、価格は「G」の4WDで2,922,480円
3つ目は国内の販売会社を販売現場の目線(これはユーザー目線とほぼ同じだ)でしっかりケアすること。三菱本体は日産との提携、アジア市場での堅調に支えられて生き残れるかも知れないが、販売会社は日本の市場がすべてだ。
特にメーカーの資本に頼らない地場のディーラーは、このままでは三菱から離れてしまう(私が地場の社長でも三菱車の販売は縮小する)。そうなれば三菱車を今でも愛用するユーザーに多大な迷惑をかけてしまう。
三菱が解決すべき課題は今でも多く残り、最も強く求められているのは、三菱を育て、愛してくれる日本のユーザーを何よりも大切にすることだ。
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