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【津川哲夫の幻の2020F1メカ私的コラム】メルセデスのDAS、FRICから思いを馳せるウイリアムズFW14Bのあのシステム

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【津川哲夫の幻の2020F1メカ私的コラム】メルセデスのDAS、FRICから思いを馳せるウイリアムズFW14Bのあのシステム

 近代F1、ハイブリッドターボになってハイテクの進化が著しい……たしかにパワーユニットとその制御は、もはや素人では理解ができないところまで進んでしまっている。それもパワーユニット(PU)は4つの巨大自動車会社からの供給で、サービスもメンテナンスのサプライヤー任せだから、チームのテクノロジーは極狭いエリアでしか発揮できなくなっている。

 もちろん、車体やエアロはまだまだ研究開発の余地は残されているが、現行技術規則は、かなり厳しい制限で開発を締めつけていて、自由奔放な新規システム等の出現は極めて難しくなってしまった。

【津川哲夫の幻の2020F1メカ私的解説】F1の今後を見据えて。槍玉に挙がるプライベーターのクローンマシン批判への苦言

 最近ではメルセデスが規則ギリギリのエッジに乗ってDAS(デュアル・アクシス・ステアリング/2軸ステアリング)システムなどを披露はしたが、まだまだ小技の域を出ない。

 数年前のFRIC(フロント・アンド・リヤ・インタラクティブ・コントロールが語源と言われる合法的アクティブサスペンションシステム)は、サスペンションへの入力を利用して前後のライドハイトをアナログで制御する優れものだった。だが、これも全てのチームが開発をはじめたことと、グレーゾーンでの電子制御開発が異常に進み過ぎたことで禁止の憂き目に遭っている。

 このFRICも優れた新規ハイテクアイテムと言うよりは、遠い昔の生産車のサスペンションシステムにその概念は存在していた。

 たとえ立派なアイデアがあったとしても、その具現化は現状の規則内では極めて難しく、近代F1での凄まじい進歩などは、巨額の開発費を無尽蔵につぎ込める大自動車会社、つまりワークスだけが実現できる状況になってしまった。

 しかし、F1本来の姿は新しい技術へのチャレンジ、進歩への飽くなき探求、自由な発想での開発進歩が持ち味であったはずだ。
 
 1990年代に、そんなプライベーターでの発想と開発が功を奏し、わずかな期間ではあったがF1技術の真骨頂を見せたときがあった。それが1992年、そして1993年のF1フィールドを凌駕したアクティブ・サスペンションの登場だ。

 アクティブ・サスペンションとは、油圧とハイテク・電子制御を駆使してマシンの動きを事前にキャッチし、その走行状況に対して車高や振動、ロールや荷重移動、そしてサスペンション・ジオメトリーまでを巧みに制御するシステムだ。いち早く最良のエアロが発揮できる車体姿勢もすることで、それまでは到達することができなかったコーナリングスピードや加減速を産み出し、当時はそれまで人間の考えていたF1走行の限界を大きく超える部分に持ち上げてしまった。

 写真はその時に頂点に立ち、ワールドチャンピオンを獲得したウィリアムスFW14B。もちろんナイジェル・マンセルのマシンだ。

 たしかに今風に考えれば、アクチュエーターもアキュムレーターも、並べられたムーグバルブも、まるで戦車か戦闘車輌のような出で立ちだが、この優れたシステムは、あの忌まわしい1994年以降のF1マシンのサスペンションのあり方に実に大きな影響を与え、それ以前とは比較にならないほど、いわゆるパッシブサスペンションが近代化するために実に大きな役割を果たした。
 
 アクティブ・サスペンション(ウィリアムスではこれをセミ・アクティブと呼んでいる)で得られた最大のものは安定したエアロダイナミクスだが、これは現在のF1サスペンションでもパッシブで追求され続けている事案だ。そして現在ではそのパッシブで、当時のアクティブ並、いやそれ以上かもしれない性能を得ているのだ。

 当時のアクティブ・サスペンションへの考え方はその後のサスペンションをパッシブの完成域に持ち上げ、アクティブ・サスペンションの制御概念は現在では一般自動車にも広く使われている。

 いちプライベートF1チームが数人のスタッフだけで構想を練り、研究・開発を続け産み出されたアクティブ・サスペンション。その構想と概念は現在の自動車文化に多大な影響を与えているのだ。

 まだ自由な発想を独自の研究・開発で具現化できた時代……もしかすると現在のF1が一番必要なのは、人工的に造られた追い越しシーンではなく、エンジニアやチームが新たなアイディアを必死に探し、それらの具現化に注ぐ情熱……なのではないだろうか……。


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