スポーツカーに求めるものは、とにかくファン・トゥ・ドライブであることだろう。ポルシェの中でも718シリーズは、鋭い俊敏性を実現するスポーツカーに最適なミッドシップエンジンレイアウトを採用。スパイダーに至っては軽量化に特化し、さらに特別な存在に仕立てられているのはいうまでもない。そんなスパイダーとガチに勝負するなら……、このクルマしかいない!
これぞまさしくピュアスポーツカー
【比較試乗】「ポルシェ718ケイマン GT4 vs アルピーヌA110S」2台が示すベクトルの違いは? 究極のミッドシップスポーツに宿るDNAを鑑定!
様々なメーカーが様々なスポーツカーを提案しているが、もっとも古典的なスポーツカーの定義は「乗用車の終わるところに始まり、レーシングカーの始まるところに終わるクルマ」というものだ。0→100km/h加速2秒代を叩きだすテスラのような爆速EVサルーンが登場している昨今、速さだけがスポーツカーの価値ではないことに多くの人が気づき始めているはずだ。だからこそ乗用車とレーシングカーの狭間というきわめてニッチな場所にいるクルマこそがスポーツカーであるという古典的主張の説得力が増している。絶対的な速さではなく、その存在そのもの、あるいはドライバーとの関係性がいかにプリミティブであるか。スポーツカーのキモはそこにあるのだよと。
そんな文脈で考えた場合、エリーゼほどスポーツカーらしいクルマはなかなかない。FRP製の小さなドアを開けると、剥き出しのアルミ製バスタブフレームが姿を現す。最近のモデルはドア開口部を最大10mm広げて乗降性を改善したそうだが、幅30cm近くはあろうかというサイドシルを跨いで乗り込むのは依然として骨の折れる作業だ。スイッチやトリム類は必要最小限。車検証に記載されるウェイトは940kg。これほどまでにストリップダウンしての940kgであることを考えるとマツダ・ロードスターの990kgは大したもんだなと感じるが、それでも現代のクルマにとって1トン切りは勲章ものである。
しかし、こいつの真の魅力は数字とは別のところにある。乗ったのはトヨタ製1.8Lスーパーチャージャーエンジンを搭載する「スポーツ220II」だが、とにかくすべての操作系がダイレクトに満ちている。とくにノンパワーアシストのステアリングは、コーナリングに伴うタイヤのたわみや微少なスリップアングルの増減を一切のフィルターを介さずリアルに伝えてくる。タイヤからスキール音は聞こえてくるがABSは作動しないという、もっとも美味しい状態を簡単にキープできるブレーキにも惚れ惚れした。しかしエリーゼの楽しさはまだほんの序の口。ワインディングロードでは、掌に収まるハイパワーと痛快なサウンド、クイックなステアリングギアレシオによるドーピングとは一線を画すクルマ本来の特性による自然なヒラヒラ感が強烈な操る歓びをもたらしてくれる。ふと気付くと日常の雑事はすべて忘れドライビングに集中していた。この没入感こそがエリーゼの魅力だ。
毎日の足にも充分使えるスパイダー
エリーゼに対抗するポルシェとなれば718スパイダーしかあるまい。911ターボのフラット6をベースに新開発した4L自然吸気ユニットを搭載しつつ、数ステップの手動操作を必要とする軽量ソフトトップを採用することで重量増を最小限に抑えた特別なボクスターだ。ストラップ式のインナードアオープナーなどによってスパルタンな演出を加えているものの、エリーゼから乗り換えるとインテリアの雰囲気はまるでラグジャリーだ。ドライブフィールも同様で、シートの座り心地もサスペンションのタッチもきわめて上質。エリーゼも多少の我慢さえすれば毎日の通勤に使えなくもないだけの快適性を備えているが、718スパイダーは十分に毎日の足として使える。ハード方向に振ったサスペンションと超ハイグリップ志向の20インチタイヤを組み合わせているにもかかわらずのこの快適性はちょっとすごい。
しかしそこで終わらないのが718スパイダーだ。エリーゼより約500kg重いこともありさすがに軽快感では及ばないものの、鋭い切れ味と安定性を巧みに同居させたハンドリングの完成度は文句なしに高い。それ以上に圧巻だったのが4L自然吸気フラット6の超絶レスポンスだ。先日他誌に書いたタイカンのレビューで、不覚にもアクセル操作に対するタイムラグの一切ない加速を「電気モーターでしか味わえない」と表現してしまったが、あれは間違いだった。内燃機関でもゼロタイムラグが実現できることをこのフラット6は見事に証明している。レスポンスのよさゆえコーナリング中に不用意にアクセルを踏むとクルマが暴れてしまうほど。過剰な動きは電子制御が抑え込んでくれるが、スムースに走らせるためには繊細なアクセルワークが求められる。
こうした取っつきにくさはある意味レーシングカー的であり、718スパイダーが古典的な定義におけるスポーツカーの条件を満たしていることの証左だ。が、それは積極的に低いギアを選択したときの話であって、1-2段高めのギアを選んでやれば剥き出しの野性味は影を潜め、きわめてスムーズかつ洗練されたキャラクターが前面に出てくる。このあたりは、低回転域ではラフな印象を伝えてくる991前期の自然吸気(回せば回すほど粒が揃ってくるのが魅力でもある)との大きな違いだ。
全域で燃焼の粒がきれいに揃っていること、高周波系のメカニカルノイズが抑えられていること、内部フリクションが小さそうな軽快な回り方をすること、この3点が最新世代のフラット6の特徴となる。欲をいえばもう少し「きつく組まれた感」を出して欲しかった気もするが燃費燃費のこのご時世では贅沢は言えまい。むしろこのご時世に8000rpmまで回る超絶レスポンスのショートストローク型4L自然吸気を出してきたことには大きな拍手を送りたいし、なによりパフォーマンスと刺激と扱いやすさの両立という進化の王道を高度に具現化している点において、間違いなくポルシェらしいエンジンである。
生産開始から25年目の今年、ついにその幕を閉じるエリーゼは、走る楽しさを追求するためだけに存在するピュアなドライビングマシンだ。一方の718スパイダーは高い刺激性と洗練度を兼ね備えたモダンスポーツの最高峰である。似て非なるこの2台。あなたならどちらを選ぶ?
【Specification】PORSCHE 718 SPYDER
■全長×全幅×全高=4430×1825×1260mm
■ホイールベース=2485mm
■車両重量=1450kg
■エンジン種類/排気量=水平対向6DOHC24V/3995cc
■最高出力=420ps(309kW)/7600rpm
■最大トルク=430Nm(43.6kg-m)/5000-6800rpm
■トランスミッション=6速MT
■サスペンション=(前後)ストラット
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤサイズ=(前)245/35ZR20、(後)295/30ZR20
■車両本体価格(税込)=12,710,000円
お問い合わせ
ポルシェジャパン 0120-846-911
【Specification】LOTUS ELISE SPORT 220II
■全長×全幅×全高=3800×1720×1130mm
■ホイールベース=2300mm
■車両重量=924kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+SC/1798cc
■最高出力=220ps(162kW)/6800rpm
■最大トルク=250Nm(25.4kg-m)/4600rpm
■トランスミッション=6速MT
■サスペンション=(前後)Wウイッシュボーン
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤサイズ=(前)195/50R16、(後)225/45R17
■車両本体価格(税込)=6,820,000円
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みんなのコメント
ストイックで野生的なピュアスポーツの定義なら、圧倒的にロータスエリーゼに軍配だろうね。