“怪鳥復活”──。2019年のスーパーGT GT300クラスに向けて、最大のトピックスと言えたのが、かつて1996年のJGTC全日本GT選手権で圧倒的な強さを誇ったマクラーレン+チームゴウ/McLaren Customer Racing Japanの復活だった。過去にはル・マン24時間をも制したチーム、そしてカーボンモノコックをもつ最新鋭のGT3カーの参戦に、「速いに決まっている」とするライバルたちも多かった。
しかし、4月の第1戦岡山でのMcLaren 720Sの予選順位は、大いに期待された若手注目株のアレックス・パロウをもってしても最後尾の29番手。怪鳥の復帰戦はまさかのグリッドだった。それから7カ月。集団の最後尾にいたマシンは、最終戦ツインリンクもてぎの決勝をいちばん先頭──ポールポジションからスタートすることになった。しかもコースレコードタイムのおまけつきだ。
2019年デビューの“怪鳥”マクラーレン720S。「根本的な設計や構成が他のGT3と違う」と荒聖治/GT300マシンフォーカス
「今年の開幕戦、岡山では全力で走って最下位だったんです。スーパーフォーミュラでいつもポールポジションを争ってる、本当に“バカみたいに”速いアレックス選手が走ってもビリだったんですよ」とチームに尽くしてきた荒聖治は予選後の記者会見で振り返った。
「それが最終戦に来て、こうしていい位置で戦えるようになったということで、すごい進化ですよね。うれしいというより、驚いています」
そしてアタックを担ったパロウ自身も「僕たちにとってすごくいい一日になったね。岡山では本気でアタックしても最下位だったけれど、そのあとのレースを通じて進化できたのはすごいことだ」と笑顔をみせた。
特にこのツインリンクもてぎは、2月25~26日にマクラーレン・オートモーティブのテストカーを使って“シェイクダウン”を行った場所。チームにとって感慨もひとしおだったに違いない。
■復調を支えたセブンポストリグと土沼エンジニアのデータ“翻訳力”
いったい開幕戦からこの最終戦までの間、マクラーレンに何があったのだろうか。今回、性能調整面で開幕の頃に比べると、ややMcLaren 720Sは優遇されているとはいえ、「BoPによるパフォーマンスの変化は正直言ってほんのわずか。ゲインはそれほど大きくない」とパロウは言う。それよりも大きいのは、「日本のヨコハマタイヤに合わせた車体面のセッティングですね。周波数を合わせるというか、動きを合わせるというか(荒)」という車両側のセッティングが進んだことだ。
この改良が大きく進んだのは、第6戦オートポリスの前。チームはこのレースの前の期間を使って、マクラーレン720S GT3をセブンポストリグにかけたのだ。第4戦タイの前にD'station Vantage GT3もイギリス側でセブンポストリグを試し劇的にパフォーマンスが向上したが、これと同様の効果が得られ、大きくパフォーマンスアップ。オートポリスでは展開も味方し、見事表彰台を得ている。
ただセブンポストリグは、単にかければいいというものでもない。その試験で得たデータをきちんと“翻訳”し、どこをどう直せば良くなるのかの指示を出せるエンジニアが必要になる。そしてそれができる人物だったのが、チームの土沼広芳エンジニアだった。
こうしてパフォーマンスを上げたMcLaren 720Sだが、第7戦SUGOではスタート時のタイヤ選択で結果は残せず。しかし今回は、「手ごたえがあった」というのはMcLaren Customer Racing Japanの岡澤優監督。
「今回はBoPの面もありつつ、エンジン面でパワーの立ち上がりが自然になる改良を加えたんです。もてぎではそれが大きいですね」
■「やっとすべてがかみ合った」最終戦。「今年のすべてを出せるレースにしたい」
こうして“地に足をつける”パフォーマンスを得たMcLaren 720Sは、もてぎでもわずかなセット変更程度で持ち込まれ、公式練習から好パフォーマンスをみせた。そして、Q1を荒で、そしてQ2で爆発的な速さをもつパロウに託す戦略を採ったことで、今回のポールポジションに繋がった。
「今回は、確実にQ1を荒選手で通れると思っていたので、アレックスの速さをQ2に温存できると思っていました。今日が開幕戦だったら良かったですよね(笑)」と岡澤監督。パロウはスーパーフォーミュラでもポールを獲っており、もてぎを得意としているというからなおさらだ。
「いま、クルマのことをメカニックも分かっていますし、マクラーレン側とのコミュニケーションもいい感じです。そして実績があるドライバーがふたりいる。ようやくすべてがかみ合い、やっと“スーパーGTに参加”してライバルから茶々入れられるくらいになったと思います」
ちなみに今回、他車はすべてウエイトハンデはゼロだが、McLaren 720Sは一戦欠場しているので15kgを積んでのポール。荒とチームがベテランの知識と技で築き上げてきたクルマと、パロウの速さ、そして「こういうコースはもともと得意」というマクラーレンの特性がかみ合っての速さとなった。
「みんなが苦労してここまで来たので、やっとそれが報われましたね。でもここまで1年かかってしまいました。レースは戦略がまだ天候で分かりませんし、今のスーパーGTはそう簡単にはいかないですが、やっとすべてがかみ合った。今年のすべてを出せるレースにしたいですね」と岡澤監督は決勝に向けて語った。
最終戦にして“待ってました”の本来の主役の1台が登場したGT300クラス。チャンピオン争いとは別に、今季のニューカマーがどんな戦いを繰り広げるのか楽しみなところだ。
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