もくじ
ー 先代からキープコンセプトのスタイリング
ー 最新JLR流のエレガントさ
ー 見た目はイヴォーク、乗ればレンジローバー
ー 番外編:JLRのビジネス 今後の見通し
ー 大胆な経営ビジョンに対する投資
試乗 ヴェゼル・ツーリング・ホンダセンシング(1.5ℓターボ) 価格/スペックを評価
先代からキープコンセプトのスタイリング
自動車デザインとして最高傑作のひとつに数えられる、初代のレンジローバー・イヴォークのコンセプトカーが登場したのは2008年。ショールームに実際に並んだのは2011年だったが、初代の路線を外れることなく、2代目となるモデルが登場した。実際にクルマを見れば、先代とのつながりは明確に感じ取れるはず。
1年半に渡る開発期間を経て、クルマの素性が問われるウェールズの一般道に挑む時がやってきた。ジャガー・ランドローバー社(JLR)で技術部門を担当するマイク・クロスも、準備は整っていると自信を見せる。2019年型のイヴォークは、ディティールの多くがより現代風にデザインし直されているが、デザインのカギとなる要素に、大きな変更はない。
しっかりと肉付けされたフロント・ホイールアーチに、抑揚の豊かなリア周り。車両後方に行くに連れて上昇していくベルトラインと、反対になだらかに傾斜するルーフライン。極めて短いリアのオーバーハングと、大径ホイール。デザイナーは、斜め後方からのドラマチックなスタイリングのために、車両後方の空間に妥協を強いていることを認めている。
後方の視界は、リアカメラがサポートしてくれるが、前方手前の視界も前評判どおり、カメラ映像を合成して、ボンネットが透明になったかのような映像を映し出す、「シースルーボンネット」機能のおかげで、非常に良い。しかし、AUTOCARの興味はもっと別のところにもある。
最新JLR流のエレガントさ
今回イヴォークを持ち込んだのは、英国中西部のウェルシュプール。路面環境の変化にも富み、走行スピードも高く保てる、クルマにとってはチャレンジングな道が広がる。特に道幅が広い箇所ではスピードが出せるだけでなく、急に狭くなり岩に囲まれたコーナーが表れるなど振り幅が大きく、マイク・クロスもお気に入りのエリアだという。
クルマにはもちろん、落ち着きがありつつ、正確性の高いステアリング性能が求められてくる。しかもバーミンガム郊外のJLRの本部から数時間は離れているから、長距離でも疲れない洗練性と優れた航続距離も必要となる。
今回の試乗車は、イヴォークの中でもハイグレードなHSEダイナミック。エンジンは300psを発生するツインターボ・ガソリンで、望外にズムーズなZF社製の9速ATを介して、四輪を駆動する。クロスはこの道で、素早く先行車両を追い越すのに不足のない、豊かなトルクを披露してくれた。
インテリアデザインは、デザイナーのトップ、ジェリー・マガバーンが手がけた、エレガントでシンプルな雰囲気にまとまっている。ダッシュボード・フェイシアの造形はクリーンで、シートはJLRの最新カラー&トリムの流れに合わせて、スウェーデンのテキスタイルメーカー、クヴァドラ社のクロスが張られている。レザー張りよりもわたしには素敵に思える。
見た目はイヴォーク、乗ればレンジローバー
2代目イヴォークのフロアパンも新しくなっており、ボディ剛性は17%向上。全長と車重の数字はそのままながら、ホイールベースは20mm延長され、後部座席の足元の空間にあてがわれた。またサスペンションの設定を見直したほか、ロードノイズを低減するなど、ドイツ勢のライバルモデルを意識した改善を得ている。
風切り音やメカニカルノイズを軽減する機能的な面でも、ボディには手が加えられており、300psを発生する4気筒エンジンの音は、深くアクセルを踏み込んだ時以外、ほとんど聞こえなくなった。アスファルトの剥がれた道を超えた時ですら、車内は非常に静かに保たれ、価格が倍も違うレンジローバーに乗っているかのようだ。
クロスはイヴォークの優れたスムーズさを味わわせてくれたが、つまり走行している時間の大部分は、まるで滑走しているかのように感じられる。ドライビングモードがノーマルのままでも、クルマの設定はベストといえる完成度を得ている。ダンパーが硬くなるスポーツモードにすれば、シフトチェンジのタイミングが変わり、ステアリングはやや重くなるが、普通に走る限り選ぶ必要はなさそうだ。
試乗車には路面状況などに応じて自動的に減衰力が変化する、アダプティブダンパーが装備されていたことも理由にはあると思うが、クロスによれば、安価な通常のパッシブダンパーでも非常に良い乗り味を示してくれると話していた。
2代目になっても、イヴォークは紛れもなくイヴォークだった。スタイリングは特に、イヴォーク意外に見間違えることはないと思う。しかし、少なくとも助手席に座って目と耳で確かめた限り、このクルマは今まで以上にレンジローバー的なクルマになったとも感じた。
番外編:JLRのビジネス 今後の見通し
ジャガー・ランドローバー社(JLR)は、2018年第4四半期を含めた最終損益で、税引前で34億ポンド(4828億円)を超える赤字になることを発表した。原因としては、一時的ながら資産価値の大規模な下落によるものが大きいとしている。
その中でも、31億ポンド(4401億円)に及ぶ要因が、工場や不動産、生産設備、開発に関係する資産価値が大幅に減損したこと。特に、ディーゼルエンジンの開発をはじめとするインフラに大規模な投資をしたものの、ディーゼルモデルの需要の低迷によって、回収が難しくなっていることが大きい。この赤字は同社のバランスシートに影響を与えることは違いないが、キャッシュフロー自体に影響を及ぼすものではない。
これを除き、さらにJLRは2018年10月から12月期で、2億7300万ポンド(387億円)の税引前損失を計上している。同年7月から9月期の9000万ポンド(120億円)の損失と比べても拡大している。同社によれば、世界最大の自動車市場となった中国での業績不振によるものだとしており、欧州や米国でのやや好調な販売では、相殺することはできなかったようだ。
JLRの最高経営責任者であるラルフ・スペッツによれば、34億ポンド(4828億円)の赤字は一時的なもので、今後25億ポンド(3550億円)に及ぶ追加投資とコスト削減によって、経営を改善していくとしている。また、5億ポンド(710億円)のキャッシュフローの改善を行ったとしており、4500名に及ぶ人員削減などを含む、コスト削減計画も発表している。
大胆な経営ビジョンに対する投資
ジャガー・ランドローバー社(JLR)の赤字決算に関して、専門家のジェームス・アトウッドは以下のようにまとめている。
34億ポンド(4828億円)もの赤字に対しては、どんな理由を付けても、良い評価はできないだろう。この目を疑うような決算だけでなく、2018年第4四半期の売上高の減少も少なくない。ジャガー・ランドローバー社(JLR)が取り組まなければならない課題が明らかになったといえる。主な要因はディーゼルエンジンの開発に対する過剰な投資が、財政的な失策だったといえることで、早急に対応策に転じる必要がある。
一方で、第4四半期の2億7300万ポンド(387億円)の損失が、会社へ財政的な圧迫を強めてしまっている。中国市場での苦戦が代表的な原因ではあるものの、JLRの前年比で47.1%という減少率は、実は自動車業界の平均でみるとまだ良い方ではあった。
ただしフルEVのジャガーIペースは、中国を含めた、今後急成長するであろうEV市場を担える、販売を伸ばす可能性の高いモデルだといえる。そう考えると、今回の31億ポンド(4401億円)に及んだ資産価値の減損は、自社の評価を見直し、これから伸びる分野への体制を整えたとも受け取れる。大胆な経営ビジョンを実施する準備段階だとして、JLRをポジティブに捉えても良いのかもしれない。
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