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【1年違いのラリーチャンプ】タルボ・サンビーム・ロータスとアウディ・クワトロ 後編

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【1年違いのラリーチャンプ】タルボ・サンビーム・ロータスとアウディ・クワトロ 後編

四輪駆動による世界初の高性能モデル

執筆:Ben Barry(ベン・バリー)

【画像】ラリーチャンプ タルボ・サンビーム・ロータスとアウディUrクワトロ ランチア・デルタも 全72枚

撮影:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)

翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)


アウディUrクワトロのプロトタイプは、1977年11月にテストが行われた。フォルクスワーゲンの理事会員は、1978年にオーストリアのアルプス、トゥルラッハー・ヘーエ峠へ挑むクワトロを視察。すぐに開発プロジェクトへゴーサインが出た。

クワトロは当時のサルーン、アウディ80から派生したクーペをベースとしていたが、中身は別物。新設計の独立懸架式サスペンションを前後に備え、5気筒ターボエンジンを搭載。そして、キモの四輪駆動システムが組まれた。

デザイナーのマーティン・スミスは、クワトロと改名されたアウディ・クーペを目にすると、四輪駆動による世界初の高性能モデルとして手を加える。予算をかけずに選ばれた手段が、ブリスターフェンダーだった。

筋肉質に膨らんだホイールアーチで、全幅を41mm拡張。新デザインのバンパーも装着され、全長は55mm伸びている。

今回、サンビーム・ロータスと並んだUrクワトロは、英国アウディのヘリテイジ部門が保管する1981年式。スコットランドで売られたクルマだが、左ハンドルだ。右ハンドル車が登場したのは、1982年10月だった。

サンビームのインテリアは緊縮的な1970年代の英国を映すものだが、Urクワトロには1980年代の華やかさがある。ドアを開くと豪華でモダン。実用性も忘れていない。

当初の英国価格は1万4500ポンド。サンビーム・ロータスの倍だ。シートやドアパネルは、こちらもベロア張り。運転姿勢はサンビームより遥かに快適でスポーティ。座面は低く少し後ろに傾き、サイドサポートは高い。

即時的な身軽さと興奮が薄いクワトロ

ドライバーの前方では、先進的なメカニズムが搭載されている事実を隠さない。レザー巻きのステアリングホイールの中央には、ターボと誇らしげに刻印される。

シフトレバーの前方には、センターデフとリアデフのロック状態を示すインジケーターが付く。ハンドブレーキの下のノブを引っ張ると機能する。

パワーウインドウにカセットラジオ、ヒートシーターも装備。全長はサンビームより約600mm長く、空間も広々だ。

発進すると、より重くサスペンションはしなやか。リラックして運転したいと思える。ステアリングのレシオもゆったりしていて、シフトレバーの動きも重い。

しかし、サンビームと比べると強みも歴然。パワーをより確実に路面へ伝えてくれる。滑りやすい路面でアクセルペダルを踏み込んでも、乱れることはない。乗り心地は落ち着きがあり、ブレーキも強力だ。

アクセルレスポンスは、ターボが介在し少し鈍い。5気筒らしい、ゴロゴロとしたノイズが響く。3000rpmまで回すとブースト圧が上昇し、加速力が一段高まる。高回転域での感触は粒が荒い。

お借りした初期のUrクワトロの排気量は2144ccで、最高出力200psを発揮する。サンビーム・ロータスの152psと比べると高出力だが、1290kgもありる車重で勢いは中和されている。

アウディには即時的な身軽さと、興奮が薄い。四輪駆動に加えて、エンジンはフロントアクスルより前方に載る。サンビーム・ロータスの俊敏なコーナリングの後では、アンダーステア傾向のニュートラルな挙動が印象付けられる。

後輪駆動より30分早くフィニッシュ

とはいえ、5気筒ターボエンジンが縦置きされていることを考えれば、偉業ともいえる。フロントタイヤに、60%の荷重が掛かる。

1983年の世界ラリー選手権チャンピオン、ハンヌ・ミッコラはラリーカーの開発に関わった。1979年にクワトロへ初試乗した感想を、次のように残している。「プロトタイプは、ネガティブな印象でした」

「クワトロはエスコートより大きく、エンジンは4000rpm以下で活気がなく、酷いものでした。コーナーを正確にターンするようになるまで、半年はかかっています」

「フロントにLSDを組むと、ナーバス過ぎました。そこでファーガソン社のオープンデフをトライ。これは滑らかで良く機能しました。そこからは急展開。開発に関わったピエヒは、すぐにアウディ・スポーツから回答が得られると自信を持っていました」

クワトロがラリーシーンを一変させる予兆は、ミッコラが1980年のポルトガル・ラリーにゲスト参戦した時。後輪駆動のマシンに対し、30分も早くフィニッシュしたのだ。

クワトロのチームは、ラリーの専門家ではなくアウディの従業員等で構成され、1981年はトラブルが続出。機械的な不具合も重なった。だが1982年にはマニュファクチャラーズ・タイトルを獲得。1984年にも掴んでいる。

その過程で、ラリーカーはロング・ホイールベースのグループ4マシンから、ショート・ホイールベースのグループBマシンへ進化。ワイルドなフロントスカートとリアウイングを身につけた、モンスターになった。

後輪駆動マシンを葬り去った四輪駆動

公道用のアウディUrクワトロも進化を重ね、後期型では1981年式よりシャープな体験を楽しめるようになっていた。1988年式のステアリングはより正確で、機敏な操縦性を得ていたと記憶している。

エンジンも途中で排気量が増やされ、2226ccに。小径のターボが組まれ、ブースト圧の立ち上がりも速くなっていた。

四輪駆動システムは、マニュアルで操作するセンターデフ・ロックに変わり、トルセン式のデフを獲得。75%のトルクをリアタイヤへ分配することも可能としていた。

筆者は冬のバイエルン地方で、後期型のUrクワトロを2日間運転した経験がある。日常的に乗れるクラシックとして、究極の1台だと感じたのを覚えている。

グリップ力に長け、動的性能も不足ない。見た目も特徴的でサウンドも素晴らしかった。実用性も高く、現代的な装備も付く。1989年から生産終了まで搭載された、20バルブ・ユニットなら完璧だ。

アウディUrクワトロは改良を続けながら、1991年まで製造が続いた。約1万1500台を世界中で販売している。

四輪駆動で一躍ラリー界のスターとなったアウディだが、1986年のグループBの終焉とともにクワトロの活動も終了。続いて華形となったグループAでは、ランチア・デルタ・インテグラーレやトヨタ・セリカGT-FOURなどが台頭した。

フォード・エスコートRS コスワースも含めて、四輪駆動とターボチャージャーの時代の始まりだった。サンビーム・ロータスを含む後輪駆動マシンを、アウディ・クワトロが葬り去ったのが分水嶺。まさに節目の2台といえるだろう。

タルボ・サンビームとアウディUrクワトロ 2台のスペック

タルボ・サンビーム・ロータス(1979~1981年/英国仕様)のスペック

英国価格:7130ポンド(新車時)/2万5000ポンド(375万円)以下(現在)
生産台数:2308台
全長:3830mm
全幅:1603mm
全高:1405mm
最高速度:196km/h
0-97km/h加速:6.6秒
燃費:10.7km/L
CO2排出量:−
車両重量:960kg
パワートレイン:直列4気筒2174cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:152ps/5750rpm
最大トルク:20.7kg-m/4500rpm
ギアボックス:5速マニュアル

アウディUrクワトロ(1980~1991年/英国仕様)のスペック

英国価格:2万4204ポンド(新車時)/5万ポンド(750万円)以下(現在)
生産台数:1万1452台
全長:4404mm
全幅:1780mm
全高:1346mm
最高速度:222km/h
0-97km/h加速:6.5秒
燃費:7.0km/L
CO2排出量:−
車両重量:1290kg
パワートレイン:直列5気筒2144ccターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:200ps/5500rpm
最大トルク:28.9kg-m/3500rpm
ギアボックス:5速マニュアル

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