10年経たずに終了するのは本田宗一郎の時代からの伝統
2020年10月2日、ホンダが2021年をもってF1参戦を終了すると発表しました。第4期F1活動は7年で終了することが決まったわけです。
これについて、「中途半端で投げ出すなんて」、「本田宗一郎が生きていたら絶対に許さない」といった批判が散見されますが、10年経たずにF1参戦活動を終了するのは本田宗一郎が社長を務めていた時代からの伝統といえます。
簡単に整理すると、ホンダのF1参戦活動期間は次のようになっています。
第1期:1964年~1968年(コンストラクター)
第2期:1983年~1992年(エンジンサプライヤー)
第3期:2000年~2008年(エンジンサプライヤー/コンストラクター)
第4期:2015年~2021年(パワーユニットサプライヤー)
本田宗一郎が社長だった時代の第1期の活動は5年間で、フル参戦したのは4シーズンしかありません。もっとも長い第2期でも10シーズンしかないのです。ホンダのF1活動は5~10年で途切れるというのは伝統だといえます。
第1期F1参戦の撤退理由も“大気汚染対策”だった
さらに、本田宗一郎社長時代の第1期F1参戦の撤退理由は「大気汚染対策エンジンの開発」というものでした。実際、1972年には実現不可能といわれるほど厳しい条件をクリアする環境対応エンジンである「CVCC」を発表しています。その発表を見届けるかのように1973年に本田宗一郎は社長を退任。F1活動を終了することで、そのリソースを環境エンジンの開発に注いだというわけです。
その意味では、今回の参戦終了の理由として「2050年カーボンニュートラルの実現」のための技術開発に注力するためと掲げたのは、宗一郎社長時代にも通じるのかもしれません。F1参戦終了について「本田宗一郎が生きていたら絶対に許さない」かどうかは、本人でなければわかりませんが、少なくとも表向きの理由としては、ホンダらしい判断といえます。むしろ本田宗一郎が怒るとしたらF1参戦終了よりもカーボンニュートラルを実現できなかったときではないでしょうか。
自動車メーカーの「カーボンニュートラル」とは何か?
カーボンニュートラルというのは、生産から廃棄までのトータルな行程で、CO2の排出量を実質ゼロにするというものです。たとえば生産時にCO2が発生したとしても、なんらかの方法でCO2を吸収することなどにより、トータルでプラスマイナスゼロになればカーボンニュートラルです。ですから本気で目指すのであれば、ゼロエミッションビークルの開発は当然として、CCS(C02の回収・貯留技術)やCCUS(回収したCO2の利用技術)も必要となります。
さらに大気などから回収したCO2を利用して化学品を作ったり、燃料を生み出したりする「カーボン(炭素)リサイクル」もカーボンニュートラルの実現には必要といえます。もしCO2回収によって得た炭素と水素から合成燃料を生み出すことができれば、カーボンニュートラルなエンジンという未来もあり得る話です。
いずれにしても、自動車メーカーが単独でチャレンジするにはあまりにもハードルが高いテーマがカーボンニュートラルです。ホンダはGMとの提携を深めていますが、両社のリソースを合わせたとしても、実現は簡単ではないはずです。
F1に参戦しているだけ(勝負権がない状態)といえる規模まで縮小すれば、参戦を続けながらカーボンニュートラルの実現は可能かもしれません。しかし、第1期の参戦終了というインパクトのある決断がCVCCエンジンを生み出したとすれば、今回の参戦終了はホンダがカーボンニュートラル実現に向けて背水の陣を敷いた覚悟ともとれ、絶対に成し遂げるべきコミットメントとして位置づけたのかもしれません。
文:山本晋也(自動車コミュニケータ・コラムニスト)
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みんなのコメント
撤退するといえば大々的に報じる
ホンダが嫌いなのは解ったからもう辞めろよ