レクサスが投入する新型「LBX」に、トヨタの“本気”を見た! 高級車市場に新たな風を吹き込むコンパクトSUVについて、塩見智が思いを記す。
プレミアムカーには前例の少ないBセグメント
新型レクサスTXの成功は約束された!──トヨタのブランド戦略を考える
レクサスが今年秋に発売するコンパクトクロスオーバーのLBXをイタリア・ミラノでお披露目した。
内容を確認するにつけ、これはライバル、すなわち海外のプレミアムブランド勢に対してレクサスが放った一撃として過去最大級のものになるのではないか? と、直感した。
それは市場に対しても言える。素敵なものが欲しいが、それがどういうものかはよくわからない、成熟した自動車ユーザーのおぼろげな物欲にぶっ刺さるのではないだろうか。
LBXにはトヨタが開発したコンパクトカー用プラットフォームのGA-Bが用いられる。サイズは全長4190mm、全幅1825mm、全高1560mm、ホイールベース2580mm。ベースであるトヨタの「ヤリス・クロス」とほぼおなじだ。
つまりレクサスはプレミアムカーには前例の少ないBセグメントへ打って出ることになる。これまでに多くの自動車メーカーが挑んできたものの、決定版と言える存在は生まれなかった、あるいは定着しなかったプレミアムコンパクト、小さな高級車の分野を切り拓こうとしているのだ。
かつてビッグサイズとビッグパワーが幅を利かせた高級車だが、時代の求めに応じ、徐々にコンパクト化した。大きいのは大きいままなのでサイズが多岐にわたるようになったというべきか。
現在はBMWミニシリーズやメルセデスベンツAクラスをはじめとするモデル群に代表されるエンジン横置きのCセグメントが、プレミアムカーの一応の下限として形成されている。レクサス自身も過去に「CT」をラインアップし、現在は「UX」というCセグモデルをラインアップする。
そこへBセグメントのクロスオーバーモデルであるLBXを投入しようとしている。アウディ「A1」やDSオートモビルの「DS 3(クロスバック)」など、Bセグメントにもプレミアムモデルがないないわけではないが、存在感のあるモデルに成長したとまでは言えない。他ブランドの追従も少ない。カテゴリーとしては定着するに至っていない。
サイズによるヒエラルキーを感じさせないレクサスはなぜそこへ打って出たのか?
コンパクトカーをつくらせたら1番うまいという自負が、コンパクトカー激戦区の日本生まれのブランドであるレクサス……を、含むトヨタにあるからではないだろうか。自分たちの得意なサイズで未開拓の地を耕そうとしているに違いない。
LBXをヒットさせ、フォロワーを生み、後年「Bセグプレミアムというジャンルを確立したのはレクサスだった」と、人々の記憶に刻むことができれば、単にいちモデルのヒットにとどまらず、ブランドの存在感を確実に増すことができるだろう。
実際、サイズこそコンパクトだが、前後にレクサスの最新の主要なモデルが採用するデザインを採用してクラスレスな印象を与え、「ソニックカッパー」をはじめ他のモデルが採用するボディカラーを設定し、大画面ヘッドアップディスプレイとステアリングスイッチによって、視線を移動することなく多くの操作を可能とする手綱コンセプトの運転環境を導入するなど、LBXの装備内容はほかのレクサスモデルに比べ見劣りしない。サイズによるヒエラルキーを感じさせない、まさに“小さな高級車”だ。
くわえてレクサスが「Bespoke Build」と呼ぶ、シート表皮、シートベルトおよびステッチのカラー、インテリア全体の配色構成、加飾パーツの追加など、さまざまな項目を33万通りから自由に選ぶことができるオーダーメイドシステムの導入も意欲的だ。
過去にランチアが導入した全112色のボディカラーや豊富な内装から選べるカレイドスという販売手法を思い出す
が、33万通りには及ばない。Bespoke Buildとは別に「COOL」「RELAX」「ELEGANT」「ACTIVE」「URBAN」というレクサスが提案する5つのインテリアコンセプトに基づいた仕様も設定され、実際の販売の中心はこちらになるのだろうが、33万通りもの選択肢を設定することによるコスト増、ひいては販売価格アップを厭わないところにプレミアムを感じさせる。
トヨタの決意表明なによりもLBXが挑戦的、もっと言えば挑発的だと感じさせるのは、ブランド初のプレミアムコンパクトクロスオーバーのパワートレーンとして、BEVではなくHEVを採用した点だ。1.5リッター直3エンジンとモーターのシリーズパラレルハイブリッドを採用、前輪、もしくは四輪を駆動する。ハイブリッドバッテリーに素早い電力の出入力(出し入れ)が可能なバイポーラ型ニッケル水素を採用する。
世界の自動車業界はBEVの拡大こそがカーボンニュートラリティーに最も効果的だという派閥と、国や地域の実情に応じた多様な方法でそれを追求するほうが効果的だとする派閥とに分かれる。「2035年以降、内燃機関を搭載した乗用車の販売を禁止する」案を掲げていた欧州委員会が「同年以降もe-Fuelに限って内燃機関搭載車を認める」と、方針を転換するなど、世界中の利害関係者が参加しての綱引きは激しく続いている。
いち早くHEVを実用化し、2000万台以上を販売して普及させたトヨタはもちろん後者だ。今年4月に就任した佐藤恒治社長は「マルチパスウェイ」をキーワードに今すぐに可能なソリューションを投入し、カーボンニュートラルを目指す旨を表明している。
販売規模が大きくなることが予想されるコンパクトなLBXがBEVではなくHEVを採用するのは、しかもトヨタの中でも「35年に100%BEV化を果たす」と表明しているレクサスの、さらにモデルチェンジ車ではなく新型車にHEVを採用するのが実に象徴的だ。「俺たちのやり方でCO2を減らしてやるよ」という決意表明、売られたけんかを買っているようにも見え、痛快だ。トヨタはこういう風に対立の構図を浮き彫りにされることを歓迎しないだろうが、私にはそう見えた。
日本メーカーは、もっと言えば日本人は、これまで世界から"確立されたカテゴリーにより良いモノを投じて受け入れられるのは得意だが、新たなカテゴリーやコンセプト自体を生み出すのは苦手”と、見られてきた。
しかし今秋、レクサスがこれまでプレミアムが本格的に開墾してこなかったコンパクトカテゴリーに、自らが現時点で最適と考えるパワートレーンを搭載した新型車を投入することで、世界に「こういうのでいいんだよ」と、言わしめ、従来からあった“世界の日本観”が常に正しいわけではないということを見せつけるかもしれない。
日本人としてそれが見たいし、シンプルにこのカッコ良さなら可能なんじゃないかと思う。
文・塩見智 編集・稲垣邦康(GQ)
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みんなのコメント
欧州ではセグメント関係なくアウトバーンを安全にそれなりの速度で走れるような車になっている
果たしてトヨタのGA-Bでそれが出来ているのかがポイント
ヤリクロの単なる高級板ではやっぱレクサスだわと言われて終わり