ホンダS600 オークションに出品
text:Kazuhide Ueno(上野和秀)
【画像】オークションで流札となったエスロク【詳細写真】 全11枚
photo:RM Sotheby’s
日本の自動車メーカーの中で、最初に世界的に名を轟かせたのがホンダである。
二輪車のロードレースでワールド・チャンピオンの座を勝ち取ると、当時取り組み始めた四輪車の存在を知らしめる一環としてレースにも進出。いきなり最高峰のF1グランプリに挑み、チャレンジ2シーズン目となる1965年のメキシコGPで初優勝を果たし、「ホンダ」の名を響き渡らせた。
ホンダ初の四輪車は、1963年に発売されたDOHC 4気筒エンジンを積む軽トラックのT360だった。
同じエンジンを積む2座スポーツカーのS360も計画されたが発売は中止となり、代わりに拡大版のS500が送り出されれる。排気量はわずか531ccながら二輪車のように回転でパワーを稼ぎ、44psを8000rpmで発揮する高回転型エンジンが積まれていた。
1964年になるとS500の発展型として、排気量を606ccまで拡大したS600が発表され、最高出力は57ps/8500rpmにまで高められる。
精密機械といえる精緻なDOHCエンジンと斬新なメカニズムで構築された、黎明期のホンダが送り出したマイクロ・スポーツカーのS600は、当時ドイツやアメリカに輸出され、F1グランプリでの活躍と相まって大きな反響を得た。
そのホンダS600が、コロナ禍でオンラインに舞台を移したRMサザビーズのオークションに姿を現した。
本場のオークションでどんな評価を得たのであろう?
オーストリアで登録 エンジン・リビルドも
ホンダS600が出品されたのは、エッセン・オークションに代わるオンライン・オークション「RMサザビーズ・ジ・ヨーロピアン・セール」。
このシャシーナンバーAS285 1009212を持つ左ハンドルのS600は、1966年に日本を旅立ち、1967年にオーストリアで登録され、後年スイス、ドイツへと移る。
1万2000台余り生産されたエスロクの中にあって、S800に切り替わる直前のS600最終グループは111台に過ぎないという。
2017年にスイスのエンスージアストが入手し、すぐにエンジンのリビルトがドイツのショップで行われた。ちなみに、その時に支払った費用は3685ユーロ(約44.6万円)にも及ぶ。
今回はオンライン・オークションということから、入札前に現車を見ることができないため、車両説明の画像もコンディションを見せる詳細なディテール写真を用意。ウェブの写真だけを見ていると、実物よりきれいに見えることが多いので、キズやへこみの部分まで細かく紹介された。
あわせてドイツとベルギーでの登録書類や、コンディションを詳細に記された車両評価書、エンジンのリビルト時の明細書がウェブで見られ、入札者はコンディションを多角的に知ることができるようになっている。
「ジ・ヨーロピアン・セール」に出品されたS600の予想落札額は、RMサザビーズによれば、3.5~5.0万ユーロ(約417~595万円)と発表されていた。
敗因は“並み”のコンディション
オンライン限定で開かれたオークションだったが、競売が始まっても入札は伸びなかった。
そして、締め切り時点になっても最低落札額に届かず流れてしまったのである。
そのワケを探ると、出品車両の程度に気になるところがあった。
写真を仔細に見てゆくと、使い込まれた状態であることが分かる。プアな塗装といい、メッキが痛んだバンパーといい、状態は“並み”だった。
評価書を見てゆくと、5段階中ほとんどの項目が3。ミント・コンディションが当たりまえになっているコレクターズ・オークションの世界では、しょぼいと言えた。
この状態で約417~595万円の予想落札額は、はっきり言って高かったのである。
日本のマーケットでS600は、並みのコンディションなら300~400万円で買え、過去にレストレーションが行われた個体で700~1000万円くらいで手に入る。
これまでの欧米での落札額と見比べても、このS600は中身と値段が釣り合っていないため流札になったのである。
なおRMサザビーズはこのS600を、3.5万ユーロ(約417万円)応談で引き続き販売している。
また10月に行われるオンラインの「RMサザビーズ・ジ・エルクハート・コレクション・オークション」にアメリカ仕様のS600が出品される予定なので、興味のある方はチェックしてみてはいかがだろうか。
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