発売前の過大評価や販売戦略でコケた日の目を見なかったクルマたち
発売前から大いに話題となって期待を集めたクルマはいくつもあった。そして大人気モデルになるクルマもあれば、その真逆もある。また、まったく売れないクルマもあれば、売れはしたけど期待ほどではなかったと評されるクルマも。売れたし、ファンもいるし、魅力的であることには違いないけれど、「あれ、もっと期待してたのに……」という名車になり損ねたクルマを独断と偏見で紹介していこう。
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名車になり損ねたクルマ01:トヨタ・アルテッツァ
まずその筆頭は1998年に発売されたトヨタ・アルテッツァ。発売前はものすごく期待されて登場した一台で、「プロ一年目から大活躍間違いなし」のルーキー選手のようなメディアの扱いから、自ずと胸を高鳴らせたクルマフリークも多かったはず。なによりトヨタが久しぶりに発売する比較的コンパクトな後輪駆動×MT仕様もあるラインアップだったので、『ハチロクの再来』や『新世代FRスポーツ』などと自動車雑誌の誌面を賑わせた。これで読者が期待しないほうが無理というわけだ。
そんななかで登場したアルテッツァだが、いかんせん比較されたクルマが悪かった。そのお相手はE46型BMW3シリーズで、Dセグメントの基準と言われたモデル。基準とは言ってみたが、じつはベンチマークとしたモデルなのだから、いきなりそれを超えるのは無理があるだろう。
アルテッツァは直4と直6エンジンを搭載したMT車の設定もあるFRの4ドアセダン(のちにステーションワゴンのジータも追加)なので、比較したくなるのは理解できる。だが、メルセデス・ベンツ、アウディ、BMWなどのドイツ勢のなかで、もっともポルシェに近いと言われるBMWを超えるのは、余程トヨタが本気にならないと無理な話である。
名車になり損ねたクルマ02:マツダRX-8
2003年に発売されたマツダRX-8も期待を裏切ったと言われているが、現在でもマツダはロータリーエンジンを生産しており、2012年のRX-8の生産終了後も補修用としてベアエンジンを製造している。こうした昔からのユーザーを大切にしている点は素晴らしく、RX-7用の部品も復刻するなど、いまも製造しているためにオーナーは安心して乗り続けることができるのだ。
そんなRX-8だが、期待を裏切る形となった決定打はやはりターボ仕様がなかったこと。もちろん環境対策の問題であるから仕方がないのだが、3ローター化するなどで対策はできなかったのだろうか? そしてもうひとつ残念に思うのは、RX-8以前に13B型のNAロータリーエンジンを日本では体験できなかったこと。
海外ではFC3S型で、13B型ロータリーのNA仕様が販売されていたため、その官能的な魅力を知る人がいたわけだが、日本では販売されず。もし、この日本でも13BのNAロータリーが伝承されていれば、RX-8はもっと評価されたクルマになれたのかもしれない。
名車になり損ねたクルマ03/04:トヨタ・ヴェロッサ&ブレビス
トヨタのヴェロッサ&ブレビスも不振に終わった一台だ。トヨタはバブル期に絶大な人気を誇ったマークII/チェイサー/クレスタの三車種の再編を行ったのだが、2000年代に入るとなぜかマークII/アルテッツア/ブレビス/ヴェロッサの4台体制に拡大。
その少し前となる1998年には、トヨタはスポーツ系のアルテッツァと5ナンバーサイズをわずかに上まわる小さな高級車のプログレを発売している。その後、2001年にイタリア語の造語の車名を持つ、ラテンテイストのスタイリングにMT仕様もあったヴェロッサを発売。時を同じくして、プログレの若者向けという立ち位置でブレビスもデビューする。結果的にマークII/アルテッツア/プログレ/ヴェロッサ/ブレビスという、性格の異なる4ドアセダン5台体制がユーザーを混乱に陥れ、その後、マークIIがマークXに車名を変更したことからも、戦略は失敗に終わったと言える。
クルマは決して安くない買い物だけにユーザーも購入に際して、さまざまなリサーチもするし、反面、第一印象が良ければ衝動買いもできてしまう商品だ。それだけに、似たようなサイズとスタイリングを並べて、『さぁ、いかが!?』と言われても、決定打がなければなかなか手は出しにくいというもの。その意味では名前を覚えてもらうのに時間がかかり過ぎてしまった。
とくにクルマに興味のないユーザーなら尚更で、クルマを買うときに比較検討するときに車名を初めて知る人も多い。歴史あるカローラやクラウンなら誰でも知っているから車名を聞けばどんなクルマかを理解できるが、新しい車名では難易度が高すぎる。
逆に名前が浸透したクルマがモデルチェンジで大きく形やコンセプトを変えたときも厄介で、これは極端な例え話だが、新型スポーツカーにトヨタがエスティマの名前を与えたらどうだろうか? つまりクルマのイメージにつながる車名を浸透させることが大切であるというわけだ。ちなみにプログレとプレビスの写真を見せられて、車名をテレコにならず正解することはできますか?
名車になり損ねたクルマ05:ダイハツ・キャスト
前項のヴェロッサやプレビスにも通じるのが2015年発売のダイハツ・キャスト。この比較的新しいトール系の軽自動車は、SUVテイストの「アクティバ」、レトロ・テイストの「スタイル」、走りが売りの「スポーツ」の三つの個性で登場した。トヨタでもOEM販売(ピクシス・ジョイ)されたことから、意欲作であったと思われる。
ところが車名の浸透は難しくて時間がかかる。それなのにキャストは3つの個性を持っていたからユーザーは混乱。自分の欲しいキャストは他社の何と比較すれば良いのかわからなくなるのは必然で、クルマに興味のない方が増えた時代、人気の軽自動車を少しでも安く、そして満足度の高いクルマを選びたいユーザーには不親切な構成であった。
これが、何を出してもそれなりに売れたバブル期であれば違ったかもしれない。だが、もちろん他人よりも良いクルマが欲しいけれど、低価格が必須でクルマ選びに時間や手間暇をかけるのは面倒くさいという人の多い時代では、キャラクターの確立は難しい。結果アクティバの後継はタフトが担うこととなり、スポーツも消滅。スタイルのみが生き残った。
名車になり損ねたクルマ06:ホンダCR-Z
ホンダCR-Zというクルマがあった。それよりも前にホンダはプリウスに対抗するべく燃費を重視した初代インサイトを1999年に発売し、NSX並みのアルミ合金ボディで優れた燃費を誇った。3ドアのハッチバックのスタイリングに樹脂製フェンダーの採用など、かつてのCR-Xを想起する作り込みでホンダの技術の見本市と言えるモデルであった。また、5速MT車を設定したことも『CR-Xの再来』と一部で評されたクルマであった。実際にサーキットで走らせてみると、燃費とスポーティな走りのバランスは素晴らしく、販売台数こそ少なかったもののインパクトを残したと言える。
そして空白期間を経て、2009年に5ドアハッチバックで登場したのが2代目インサイトだ。こちらは実用性と燃費最優先という形でデビューして、現在でも街なかでたまに見かけることがある。ただ、残念だったのが、初代インサイトほどのトピックはなく、いかんせん普通のハイブリッドカーであった。そこでホンダが2010年に発売したのが、初代インサイトの再来とも呼べるスポーツ仕立てのCR-Zだ。
パワーユニットは1.5L i-VTECエンジンとホンダのハイブリッドシステム「IMA」を搭載。スポーティな6速MTと湿式多版クラッチが用いられたパドルによる7段変速が可能なCVTの設定もあって、走りと燃費の両立が図られていた。電子デバイスもあり、さらには燃費の採点機能などゲーム要素もあって、クルマとしては非常に秀逸であった。
車名のCRもカー・ルネッサンスが元だというのであれば、新世代のハイブリッドは外れていないと思う。昔のCR-Xのファンからすれば、あのキレッキレの走りがないのは納得がいかないという声もあったが、新時代のハイブリッドスポーツとしてCR-Zのファンとすれば、過去の切れ味鋭すぎるCR-Xと比較されるのは酷というもの。結局のところ、もう少しだけ走りの小気味良さがあれば、また違ったのかもしれない。
とはいえ2017年まで生産が続いたのだから、ハイブリッドカーにスポーツカーテイストを与えたことはホンダらしく、十分に役目を果たしてくれたとも言える。ハイブリッドカーの時代が来てもMT車があるというだけで喜ぶファンは喜んだし、これからもハイブリッドカーにMTが搭載されて、生き延びてほしい。
名車になり損ねたクルマ07:スズキ・クロスビー
2017年に発売されたスズキのクロスビーは、2014年にデビューしたハスラーのアニキ的存在の5ナンバーサイズのコンパクトなクロスオーバーSUVだ。ハスラーのデッカイ版ととらえることもできるが、ソリオやイグニスのメカニズムを用いた実用的なコンパクトSUVというのが正解。つまり、ガチライバルはダイハツ・ロッキー&トヨタ・ライズとなる。
エンジンはスイフトでお馴染みの1.0L直3ターボエンジンにハイブリッドを組み合わせて、4WDも設定されたほか安全装備も充実。6速ATはパドルシフトも備わり実力は高いものがある。ところがこのクロスビーはライバルたちよりも人気がない。
2022年1月の販売ランキングでは44位(月販950台)にいるが、2月の販売ランキングではダイハツ・ロッキーが28位(月販2025台)、姉妹車のトヨタ・ライズが4位(9903台)であるのに対して、クロスビーは50位以下。ジムニーシエラが31位にいるので、スズキ内で食い合っているのは間違いないが、5ナンバーサイズのSUVとしては寂しいところ。理由はあまりにも現行型の2代目ハスラーとの差別化ができなかったスタイリングだろう。SUVも大型化が進んで5ナンバーサイズが少ないのが現状。ライバルを増やす意味でも人気モデルとなってほしい。
名車になり損ねたクルマ08:日産シーマ(5代目)
最後は日産シーマだ。5代目シーマは2012年に復活を果たし、見た目からもわかるようにフーガのロングボディ仕様と言える。ハイブリッド専用としたほか、ホイールベースを150mm延長しただけと言うなかれ。7速ATとハイブリッドの組み合わせは自然なドライブフィールであり、後席の快適性は上々。ベースとなったフーガがドライバーズカーであったことに対して、シーマの後席の乗り心地や快適性はフーガとは別物だ。第一印象で「これはフーガではなくてシーマだ」とあらためて感じたものだ。
ところがこのシーマは販売終了が確定してしまった。残された期間は短いが、今から商談しても十分に終了までの期間が取られているので、近年、免許の返上などで後席にお年寄りを乗せる機会が増えた方にはぴったりの一台だと言っておきたい。せっかく初代のレストアで話題となったのに終了となってしまうのは惜しい。
そこで思うのは、初代シーマはドライバーズカーであったことだ。高級車でありながらも優れた動力性能と走り、そしてファンを虜にしたスタイリングがあってこその初代シーマだったはずだ。だが、現行モデルは優れた快適性を持つ後席優先のサルーンとなってしまった。
いまさら言っても仕方がないことだが、後席優先はシーマである必要はなかったのでは? と思ってしまう。セドリック&グロリアを併合してフーガが誕生しているので、名づけは難しかったと思うが、オーナーが運転席に座る高級車として「シーマ現象」という言葉まで作ったクルマだけに、クルマ自体がどれほど良くなっても、初代のイメージに引きずられてしまうのは仕方がない。先に紹介したモデル同様にシーマはクルマとしては魅力的だが、発売当初のイメージと乖離してしまったのがとても残念だ。
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みんなのコメント
RX-8はターボ無しで250psを出してまから、速い人は速かった。
雑誌の企画でツクバ混走した時に、最初にブレーキがフェードしたのはちょっと意外でした