ブレーキを使ってクルマの姿勢を安定させる装置
横滑り防止装置というのが日本語の名前です。トヨタではVSC (Vehicle Stability Control)、日産とスバルはVDC (Vehicle Dynamics Control)、ホンダはVSA (Vehicle Stability Assist)、マツダはDSC (Dynamic Stability Control)と呼んだりしていますが、全部同じ装置です。
クルマの走行状態を安定化させるシステムで、具体的にいえば4つのブレーキをそれぞれ別々にコントロールすることで実現します。つまりドライバーにはできない離れ業であり、それによって安全性を高める効果があります。
そのバラバラの名称を統一化することを目指して、日本ではESC (Electric Stability Control)という名前が推奨されています。一般のユーザーが混乱しないように、できれば名前は同じほうが望ましいことでしょう。さらに同じメーカーでもユニットのサプライヤーが異なると名称も変わる場合もあるので、さらに複雑です。この名称については日本だけでなく、世界中で自動車メーカーがオリジナルの名称を付けてしまっています。ちなみにこのユニットを開発したボッシュではESP (Electric Stability Program)という名前になっています。
具体的なメカニズムについては、各ホイールの回転センサーとステアリングセンサー、そしてGセンサーとABSユニットというのが基本的な構成になります。ホイールの回転センサーの回転差と、Gセンサーからのデータによって、クルマの進行方向を判定します。その情報とステアリングセンサーからのポジション情報が一致しない場合に、クルマが横滑りをしていると判断して、エンジンの出力を絞り、ブレーキをかけます。そのときのブレーキは4つのタイヤを別個に制御することで、クルマの動きを制御することが可能になります。
このなかではホイールの回転センサーとABSユニットは、元々ABSで採用されてきたものです。問題はGセンサーで、そのコストが高価だったために、なかなか普及するのは難しかったのです。
安全面で絶大な効果を発揮するため国産新型は装着を義務化
日本では2012年10月以降に発売・フルモデルチェンジしたモデルには装着が義務化されています。継続生産のモデルと軽自動車の新型モデルについては2014年10月以降、軽自動車の継続生産モデルは2018年10月から義務化されます。
ESCの事故抑制効果については疑いようもありません。コーナーを曲がる時だけでなく、何かを避けなければならない様な急ハンドル時、あるいはミニバンなどの背の高いクルマの横転防止に、極めて有効です。メルセデスが初代Aクラス(1997年)の横転防止のために採用したことでも知られています。
法令によって装着が義務化されるということは、一定の基準を満たす必要があります。実際にステアリングを切って、クルマが横滑りをし、それを収束させる、というテストが設定されています。ところが運動性能が低くなってしまうミニバンなどでは、ステアリングを切って横滑りを発生させることができず、テストをクリアできないという事態もあったようです。
ESCユニットを搭載してきたものの、そのままではESCを搭載しているという表示もできず、当然自動車保険の割引の対象にもなりません。現状ではクルマのセッティングを変更することで、テストはクリアしているようです。
というように、ESCによってクルマのセッティングも変化してきています。例えば前輪駆動車ではアンダーステアコントロールという制御が組み込まれていて、アンダーステアが強く出そうになるとリヤの片側のブレーキを作動させてアンダーステアを軽減するものもあります。
また後輪駆動車ではアンチスピンコントロールという制御があって、ドライバーの操作でスピンが発生が予測される場合に少しずつESCを作動させます。そして、こうした機能はじつはESCをキャンセルしても無効にならないのが普通です。クルマの運動性能の一部として組み込まれている、というのがその理由です。
そういう意味も含めて、ESCをキャンセルするというのは全く必要ありません。ESC作動を前提にクルマの運動性能をシャープにしている場合もあるので、キャンセルすると過敏な特性が顔を出すというモデルもあります。雪道などの低μ路で発進が困難な場合以外、キャンセルするべきではありません。
※ESC作動イメージ図(スバル/ダイハツ)
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