全国で健康増進法改正、また受動喫煙防止条例が施行されてからというもの、原則屋内は禁煙という状況は愛煙家には実に厳しい環境となったことだろう。筆者は遠い昔にタバコを止めたのでまったく問題ないが、昨今のタバコ価格の高さと喫煙環境の乏しさは、ちょっと可哀想に思えるほどだ。
そんな愛煙家にとってはクルマの室内は、ゆっくりタバコが吸える数少ない空間と言えるのではないだろうか。家族や同僚の理解が必要だろうが、リラックスできる個室という魅力もクルマにはある。
シガーライターソケットを標準装備するようになるのは1970年代頃になってからだが、それ以前から汎用のカーアクセサリーとしてシガーライターは広く使われてきた。そして当初から、それは電源として別のアクセサリー用に使われるために重宝したのだ。
そんなシガーライターだが、前述のとおり喫煙家が少数派になっても、標準装備しているクルマもまだまだ多い。それはタバコを吸うために装備しているのではなく、スマホを充電したりさまざまなアクセサリーを利用するための装備に役割が変化してきたからだ。
一見シガーライターだと思われがちな装備でも、実は最近はアクセサリーソケットという名で、ソケットだけが装備されているクルマが増えているのだ。
今回はそんなアクセサリーソケットにフォーカスを当て、なぜAC100Vのコンセントが採用されないのか、その事情について考察していきたい。
文/高根英幸
写真/Adobe Stock(chihana@Adobe Stock)、編集部
【画像ギャラリー】めっちゃ便利! AC100Vコンセントを標準装備している現行車
■最近のクルマに採用されているのはアクセサリーソケット
厳密に言うと、シガーライターソケットとアクセサリーソケットは仕様が異なる。
シガーライターソケットは内部で発熱するシガーラーターの熱に耐えられるように鉄板で覆われているのに対して、アクセサリーソケットは電流を供給するためだけのモノなので、内部が耐熱構造になっていないモノもある。物理的にはシガーライターを差し込んで使うことはできても、ソケットが破損してしまい危険なので、タバコを吸うために使うならオプションのシガーライターを選択しなくてはダメなのだ。
しかし読者、とりわけオーナードライバーの中にはこんなことを思っている方も多いのではないだろうか。「アクセサリーソケットじゃなくて、コンセントを付けてくれよ!」と。最近は5V電圧のUSBソケットを装備しているクルマも多い(といっても電流が少なく、スマホなどの充電用には役に立たないモノも多いのだが)、コンセントは一部のクルマにしかオプションでも用意されていない。
現在一般的なのが、このアクセサリーソケットだ。携帯電話の充電や、AV機器の給電に使用しているという人が多いだろう(chihana@Adobe Stock)
もちろん、この状況にも理由はある。アクセサリーソケットとUSBは直流だが、コンセントは交流の電流を供給する電源だ。これが最大の違いであり、車内にコンセントの導入が進まない理由なのである。
基本的にクルマは直流電源で動いている。唯一の例外はエンジンが駆動する発電機で、オルタネータは交流発電機だ。1960年代くらいまでのクルマは直流の発電機、ダイナモを採用していたが、これは低回転では発電量が少なく、一定以上の回転数でなければ電圧も低いのでバッテリーを充電する能力が低いという弱点があった。
またハイブリッド車やEVのモーターも交流で、インバーターにより電圧と周波数を変化させて加速力や回転数を制御している。
それならクルマの電流をすべて交流にしてしまえばいいのでは? 「コンセントが使いたい」と思うドライバーは、そう思うかも知れない。直流と交流は、同じ電流でもまったく性質が異なり、それぞれにメリットデメリットが存在するのだ。
小学校で習う電気の仕組みは、基本的に直流だ。プラスとマイナスの電極があり、そこから流れる電流の勢い(電圧:V)と量(電流:A)によって電力(W)が決まる。直流電流は川の流れのように、電子を一方方向(マイナスからプラスへ)流している。
それに対して交流は一定の周期でプラスとマイナスが入れ替わる、電気を押し引きして動かしているというイメージ。海岸に打ち寄せる波のようなものだと思って欲しい。何で2種類の電流が使われているかと言えば、それはそれぞれにメリットが存在するからだ。
■動かすのは直流、伝えるのは交流が向いている
基本的に電気製品は直流で動いている。電子部品は直流電流で作動するため、コンセントにプラグを挿して利用する家電も内部は直流に変換されているのだ。例外として回転体であるモーターは、プラスとマイナスが入れ替わる交流のほうが効率がいいため、冷蔵庫やエアコンなどの出力が大きめなモーターは交流モーターを採用している。
コンセントが交流なのは、発電所からの送電が交流のほうが効率がいいから。送電によるロスは割合としては小さくても、全体で見れば膨大な量になるため、交流を採用している(直流送電もメリットがあり、最近は見直されている)。
コンセントがあればな、と思っている人は、クルマの電流が直流であり、そこからコンセント用に交流に変換した電流を、ACアダプターなどにより再び直流に変換しているという無駄に気付いてほしい。
例えばクルマの中でスマホを充電するなら、アクセサリーソケットからUSBに変換するDC-DCインバーターも販売されているから、それを使ったほうが圧倒的に効率がいいのだ。
インバーターで変換する電気の波形には、一般家庭用の電気と同じキレイな波形の正弦波と、ブロック状の直線的な波形、矩形波の2種類がある。家電をバッチリ使うなら正弦波のインバーターを購入したい(kudoh@Adobe Stock)
もちろん使いやすさを考えて、コンセントをオプションで用意している車種も存在する。トヨタの「ハイエース」や「プロボックス」、日産「キャラバン」などの営業車、SUVなど多目的に使うクルマには増えているが、まだまだ少ないのが現状だ。ハイブリッド車の中には大電流(1500W)の交流を供給できる車種もある。災害時の停電などでは重宝したため、心配であればクルマ選びにそうした要素も含めるといい。
ハイブリッド車やEVが増えたことで、AC100V電源/1500Wアクセサリーソケットが装備されている車両が増えてきている。オプションで装着できるクルマもある
クルマに交流電源のコンセントがなかなか導入されないのは、交流に変換するインバーターのコストと内蔵するスペース、それに重量増などがネックになっている。300Wくらいのインバーターとなると結構な大きさ重さになり、発熱もするため、置き場所を考える必要がある。
そもそも供給する電流が少ないUSB-Aではなく、よりインテリジェントで大きな電流(といっても100Wだが)を供給できるUSB-Cを搭載してくれれば、使い勝手はさらに高まるハズだが、まだ普及には時間が掛かりそうだ。
現状の最適解としては、クルマに150W前後のインバーターを搭載しておくことだ。これが何かと役立つことも多い。キャンピングカーなどはオルタネーターを強化してサブバッテリーなども搭載して大きなインバーターを搭載するが、車中泊用に大きなインバーターを搭載するのは、バッテリーや発電機などの負担も考えて行うようにしたい。
【画像ギャラリー】HV、PHEV、EVが増えて装着車増! AC100Vコンセントを標準装備している最新モデル
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