可愛ければイイってものでもない?
英国「グッドウッド」で開催される自動車イベントといえば、世界最大級のクルマのお祭り「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」や、クラシックカーによるサーキットイベントの「グッドウッド・リバイバル」が有名です。さらに近年は、原則としてクラブメンバーのみがエントリーできる、よりエクスクルーシヴなレースイベント「メンバーズミーティング」も開催されており、その時期には名門「ボナムズ・オークション」社が公式オークションを開催することになっています。2024年4月14日に開催されたオークションでは、ジャガー「Dタイプ」をモチーフとして今から60年近く昔に製作された超絶キュートなジュニアカーが出品され、話題を呼びました。
24Kゴールドとスワロフスキー仕立てのジャガー「Eタイプ」が220万円! 子ども向けのペダルカーにしては高額? それともお買い得?
ジャガーDタイプのル・マン優勝マシン風ジュニアカー
近年の「チルドレンズ・カー」/「ジュニアカー」は、モデルとなる本物のクルマの再現度や作り込みの精巧さなど、子ども用のおもちゃの領域をはるかに凌駕し、コレクターズアイテム、ないしはアート作品のレベルに達したものも少なくない。
でも、1910~20年代からペダルカーとして始まったこの種の子ども向け自動車は、かなりデフォルメされたスタイリングと、より玩具に近いつくりが、長らく一般的だったようだ。このほどボナムズ・オークションに出品された可愛らしいジュニアカーも、エンジン付きで自走可能なものとはいえ、その時代の常識の範囲内にあるものと言える。
これは1960年代に、バーミンガムに本拠を置く「ワトソニアン&グラスファイバー(Watsonian and Glass Fibre Ltd)」社が「チーター・カブ(Cheetah Cub:チーターの子ども)」という商品名で製作・販売していたとされる、ジャガー「Dタイプ」および「XKSS」をモチーフとした子ども用自動車。当時は、特定の自動車ディーラーを介してのみ販売され、オーナーの中には元F1世界王者であるジャッキー・スチュワート卿のようなセレブリティも多数存在したといわれている。
ボディカラーや仕様の選択肢は幾つか存在したようだが、今回の出品車は1955年のル・マン24時間レースで優勝したマイク・ホーソーン/アイヴァー・ビューブ組のワークスカー「774 RW」のカラーリングを模したもの。専用のスチール製チューブラーフレームに、ブリティッシュ・レーシング・グリーンにペイントされたファイバーグラス製モールド・ボディ、オールド・イングリッシュ・ホワイトのホイールを組み合わせる。
空冷単気筒2ストローク・74ccのエンジンは、チェーンを介して左後輪を駆動するクラッチに連結され、シンプルなアクセルペダルとブレーキペダルを持つ。
アンティークよりも現代のリアル志向の方が人気?
そのほかにも当時モノのピフコ社製ホーン、エンジンへのアクセスを容易とするヒンジ付きトランクリッド、レザーのトランクストラップ、ビニールレザーのクッションシート、オリジナルのスピードメーターデカール、「ジャガー」、「BRDC」にくわえて「ユニオンジャック」のデカールなどでリアリティを向上させている。
さらに、レース中はつねに蝶ネクタイを着用していたという史実で有名な、「パピヨン」ことホーソーンにあやかって、青と白のドット模様の蝶ネクタイがダッシュボードに置かれるという、ちょっと粋な計らいも施されていた。
現存する希少なチーター・カブであるこのジュニアカーについて、ボナムズ社が製作した公式ウェブカタログでは「リトルビッグマンに好適」という謳い文句とともに、4000~5000英ポンドという、昨今のジュニアカー/チルドレンズ・カー流行りを思えば少々控えめなエスティメート(推定落札価格)が設定されていた。
ところが当日の競売では予測以上にビッド(入札)が伸びず、終わってみれば2816ポンド、日本円に換算すれば約54万3000円という、売り手側にとってはかなり厳しい落札価格で競売人のハンマーが鳴らされることになった。
円安の続く現在の為替レートから、われわれ日本人には結構な高値にも感じられるかもしれないものの、これまでAMWで紹介してきたジュニアカーの相場価格と比べると、かなり安価であるのは間違いないところである。
これはあくまで筆者個人の感想に過ぎないものの、21世紀におけるジュニアカー・コレクターの間では、可愛い「ピリオドもの」アンティークよりも現代のリアル志向のものが勝る……、ということと思われるのだ。
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