■交通三悪、速度違反だけ罰則が軽い
「交通三悪(さんあく)をご存知ですか。言ってみてください」
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交通違反の刑事裁判で検察官、裁判官が被告人(違反者)にそう尋ねることがある。交通三悪とは無免許運転、飲酒運転、速度違反をいう。無免許と飲酒はどんどん厳罰化された。現在の罰則はこうだ。
酒酔い 5年以下の懲役または100万円以下の罰金
酒気帯び 3年以下の懲役または50万円以下の罰金
無免許 3年以下の懲役または50万円以下の罰金
行政処分の基礎点数、いわゆる違反点数は、酒気帯び運転については呼気1リットル中のアルコールが何mgかで異なる。こうだ。
酒酔い 35点
酒気帯び 0.25mg以上 25点
0.15mg以上0.25mg未満 13点
無免許 25点
累積点数も処分の前歴も一切なしでも、15点で免許取り消し処分(欠格1年)の基準に達する。25点なら欠格2年、35点は欠格3年だ。重い。ところが、である。交通三悪の3番目、速度違反の罰則はこうだ。
速度違反 6月(ろくげつ)以下の懲役または10万円以下の罰金
びっくりした? 誤記とかじゃない。速度違反の罰則だけ、どえらく軽いのである。違反点数は超過速度により異なる。大きく分けるとこうだ。
超過50キロ以上 12点
超過50キロ未満 1~6点
12点が最高点だ。累積点数も処分の前歴も一切なしだと、12点は免許停止90日。どんだけかっ飛ばして捕まっても、免停90日で済むんである。飲酒、無免許とはどえらい違いだ。
■厳罰化を持ち出すチャンスに「沈黙」
2021年2月、大分市内の県道を19歳の男が194キロでかっ飛ばし、重大死亡事故を起こした。制限速度は60キロ。超過134キロだ。
2019年8月、首都高速の湾岸線を52歳の男がポルシェでかっ飛ばし、2人死亡の重大事故を起こす事件があった。制限速度は80キロ。ポルシェの速度は、動画の記録から268キロと判明したそうだ。つまり超過188キロ!
どっちも、事故らずに速度違反で捕まれば、免停90日だ。飲酒、無免許に比べて軽すぎる。どっちの事件も大報道された。全国民の憎悪が速度違反に集中した。厳罰化を持ち出すチャンスではないか。なぜ警察庁は沈黙を守ったのか。
私の見立てをものすごく簡単にいえば…。警察庁は速度違反から新しいペナルティ「速度違反金」を徴収し、その取り締まりを民間委託すべく、表立っては2013年から動きだしたわけ。法案を国会へ出すときとか、ちょうど良いタイミングで、速度違反の厳罰化をがつんとかます予定だった。メリハリの効いた速度違反対策を、とか言って。
計画に必須のアイテムが可搬式オービスだ。外国製の超高性能な可搬式ではなく、国内の老舗メーカーの可搬式を、警察庁はゴリ押しした。ところがびっくり、国産の可搬式は、なんというか取り締まりに向かないことが明らかになったんだね。
だったら外国製の超高性能なやつでいけばいいのに、警察庁はあくまで国産にこだわった。ゴリ押しを続けた。不具合を全解決する“夢の新部品”の登場を待ったのだろう。だが夢は叶わず、ずるずると年月が過ぎた。厳罰化は先へ先へとのばされ続けた。私はそう見ている。
ムチャクチャな運転をする人たちが、厳罰化にびびって一斉におとなしくなる、とは考えにくい。しかし、大きく報道されれば「超過50キロ以上は25点。一発で欠格2年の免取りだってよ!」などと話題になり、いくらかの効果はあるんじゃないか。速度違反の厳罰化が早くに行われていれば、失われずにすんだ命もあったかも。残念で、悔しい。
文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。
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みんなのコメント
速度超過でコントロールできる対応は人により違う。
都合の良い解釈で惑わすのは愚かな考え。