F1アメリカGPでは、ハード→ミディアムと繋ぐ主流とは逆の戦略を採ったマシンが、決勝レースで大きくポジションを上げる結果となった。しかし続くメキシコシティGPでは、この”逆張り”の戦略が功を奏さず……ハードタイヤでスタートしたマシンは軒並み下位に沈んだ。
ただ各車のレースペースを見ていくと、実はこの逆張り戦略にも成功の可能性があったことが見えてくる。
■F1分析|息を吹き返した第2スティントのノリス……一方で心配すぎるフェルスタッペンのペース
下馬評では、メキシコシティGPの決勝レースは2ストップが主流になる可能性が高いと言われていた。事実、タイヤサプライヤーのピレリもそう言及していた。
しかし実際に蓋を開けてみれば、2ストップ作戦を採ったのは後方からの追い上げのレースを強いられた、レッドブルのセルジオ・ペレスただひとりのみ(最終盤にファステストラップを狙うためにピットストップを行なったため、実際には3ストップ)だった。
そして1ストップ戦略でも、ミディアム→ハードという、ある意味正攻法のマシンが上位を占めた。結果だけを見れば、この戦略を採らなければ、上位進出は難しいというレースだったように見える。
中団勢のレースペース
グラフは、メキシコシティGPでの中団グループ各車のレースペース推移である。これを見ると、ミディアムとハードのパフォーマンス差がほとんどないように見える。
第1スティントは、ミディアムでスタートしたマシンも、ハードタイヤでスタートしたマシンも、ほぼペースが変わらなかった。このグラフの中で、ハードタイヤを履いてスタートしたのは、予選16番手のフランコ・コラピント(ウイリアムズ)と、予選12番手のリアム・ローソン(RB)のふたり。その他は、ミディアムタイヤで第1スティントを走った。
ただ、どのドライバーがハードタイヤで、どのドライバーがミディアムなのか、レース前半は見分けがつかないほど、ペースが同等である。ただ、デグラデーション(性能劣化)に関してはミディアムの方が大きかったようで、ミディアムタイヤ勢が前からいなくなった後のコラピントとローソンのペースは少し上がり、そのペースを維持したまま周回を重ねていることがよくわかる(グラフ赤丸)の部分。
これだけを見ればハードタイヤをスタートで使った方が良いように思える。しかし差は第2スティントにあった。
ミディアムでスタートしたドライバーたちは、ハードタイヤに交換すると、1~1.5秒ほどペースを上げた。そして、ハードで走り続けているドライバーたちとの差を開いていった。そしてフィニッシュまで、そのペースでラップを刻んでいった。
対するハードタイヤスタート勢は、20周ほど後でタイヤを交換。ミディアムに履き替えた。そして彼らも1~1.5秒ほどペースを上げることになった。
文章で読むと、どちらも優劣つけがたいように思える。しかし待った! 先にタイヤを交換したドライバー……つまりミディアムタイヤでスタートしたドライバーたちは、早くタイヤを変えた分……つまりグラフ上の青い四角で囲まれた分だけ、タイムを稼ぐことができているということになる。
本来ならばハードタイヤでスタートしたドライバーたちは、ミディアムに交換したことでもっとペースを上げる必要があった。緑の丸で示したコラピント程度までペースを上げ、それをフィニッシュまで維持することができれば、逆の選択をしたメリットが出てきたはずだ。
コラピントの前に立ちはだかったのは、同じハード→ミディアム組のローソンであった。
コラピントはローソンに抑えられたこと、そして接触してしまったこと、さらにその接触の責任を問われて10秒のタイム加算ペナルティを受けてしまったことで、入賞を逃す形となった。もしローソンをすぐに攻略できていれば、実に優れたペースで第2スティントを走れていたはずであり、10位に入ったピエール・ガスリー(アルピーヌ)まで攻略できていた可能性は十分にあるように思う。
そう考えれば、ハード→ミディアムという戦略は、あながち間違いではなく、”ただローソンがうまく抑え切っただけ”とも言えるように思う。
今回ローソンは、ペレスに対する振る舞いなど、あまりよくない場面で注目されている。しかしことこのレースペースに関して言えば、キーとなった人物だったと言えるだろう。
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