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42年で地球27周分を走った一般オーナーのメルセデス! 意外な整備の中身とは

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42年で地球27周分を走った一般オーナーのメルセデス! 意外な整備の中身とは

1978年式ワンオーナー「W123型300D」の詳細

 今回紹介するメルセデス・ベンツ・ディーゼル乗用車は、以前の記事でもご紹介した1978年式の「300D/W123」。2002年9月に100万kmを走破し、いまも現役で活躍している(ディーゼル規制適用外の地域で車庫を所有)車両だ。2020年12月18日時点の総走行距離は1,117,442km。じつに地球を27周分の距離である。

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 前回に続いて、オーナーに取材した300Dの購入動機や111万km走破の秘訣など、気になる42年間の主な一般整備記録について紹介したい。

1978年式300Dの購入動機

 前回の記事と重複する部分があるが、まずは車両の購入経緯や当時の状況などを改めてお伝えしたい。オーナーは八木唯良サン。関西で外食事業、物販事業、卸・外商事業や文化事業(カルチャー教室)など、多岐にわたり店舗展開する「阿み彦グループ」の代表者。創業は1814年と、200年以上も続く老舗の7代目当主である。

 八木サンがメルセデス・ベンツのディーゼル乗用車300D/W123を新車購入したのは、1978年11月。今から42年も前のことだ。それまではメルセデス・ベンツ280SEL/W108に乗っていたが、渋滞時や夏にオーバーヒート気味ということもあり、次期購入車の条件は冷却系がしっかりしており、しかも毎日仕事で使うので燃費が良いディーゼルエンジン搭載車という希望のもと、300D/W123に決定する。当時のこの300Dのヤナセ大阪店頭渡し現金価格は573万円(昭和53年3月3日当時)。ちなみに当時のトヨタ・クラウン2600ロイヤルサルーン(最上級)は約260万円。この300Dに決定された前提には、安全で長距離を運転しても疲れなく、しかも耐久性のあるメルセデス・ベンツが絶対条件だった。

 もちろん、こちらの車両は新車購入当時から乗り続けているワンオーナーである(若い頃はオースチンやヒルマン・ミンクスに乗っていた)。購入後すぐ、ドイツへ行った際にメルセデスのタクシーに乗るドライバーと話したところ「耐久性があるメルセデス・ベンツのディーゼルが一番」と言われたことは、いまも大きな自信となっているそうだ。

 補足になるが、そのタクシードライバーの言葉をもう少し詳しく説明すると次のようなことである。海外から戻られた方はよく「ドイツのタクシーはみんなベンツのディーゼルだ」と言う。いわゆる彼等は一流のプロ。車に「生活と命」が掛かっている。それならば「燃費が良く維持費が少なくて済み、なおかつ経済的で耐久性が高く、そして安全な車」を当然選ぶ。いわばプロの厳しい目で選んだ“ホンモノ”なのである。

111万km走破の秘訣

 日本中が好景気の頃、八木サンは毎日仕事で使用され、関西のみならず東京にも店舗があるため、大阪府茨木市から東京まで毎週のように高速を往復。またたく間に走行距離が伸びた。普段は関西の各店舗を回ったり、家族旅行にも使用している。

 燃費については実走行で平均11km/Lくらいとのこと。特にここまで乗り続けるのには、特別な手間と費用を掛けているのだろうと質問すると、即答で「できるだけ毎日乗ること。乗らない日でもエンジンをかける。あとはこまめにオイル量をチェック。気になる箇所は一般整備として、半年に1回はヤナセで診てもらい、調子の良くない部品は早めに交換している。高速道路では無駄にスピードを出さず80km/h巡航。人間の体温でいえば、いつも36.5度を維持するようにしている」とのこと。さらに「この車はアタリが良かったことが一番。またエンジンもミッションも交換もせず今日まで乗り続けています。毎日エンジンをかけて最低でも1kmくらいは走っている。人間のジョギングと同じです」と語ってくれた。

 42年も経過した取材時でもボディは綺麗で艶もあり、室内のシートは擦り切れもなく、ダッシュボードはヒビ割れもせず、よく手入れされていた。ハンドルを握る時は必ず柔らかく手に馴染む鹿革の手袋をされるのでハンドルは全く擦り切れていない。シートはいまもスターマーク入りのレース半カバーで覆われていた。車両は常時、シャッター付きのガレージ内に保管されており、1年に1回はボディコーティングを施工。また自分でこまめに洗車するための道具一式を揃えてあるのが目に付いた。ご自宅が駅近くにあり「電車の鉄粉が飛んでくるからね」と言われ、納得。

 現在のクルマではなく、あえて手間のかかるこの300Dを所有する八木サンのこだわり。見えないところまで徹底的に仕上げてあり、そういう意味のオーバーエンジニアリングだとかオーバークオリティに惚れ込んでおられると言える。この1978年式300Dの技術的特徴については、記事の最後で紹介するので、詳細はそちらを参考にしてほしい。

輸入車と国産車のメンテナンスに対する考え方

 一般的にメルセデス・ベンツに代表される輸入車と国産車では、メンテナンスに対する考え方に違いがあると言える。輸入車はクルマのメンテナンスに関して「ユーザーが責任を持つのは当然」という考えが前提になっており、きちんとメンテナンスすることで、クルマは調子良く走り続けられるだろう。

 言い方を変えるとメルセデス・ベンツをはじめとする輸入車は、購入した後の定期的なメンテナンスが不可欠である。メンテナンスの手を抜いたり、安易に費用をケチったり省略すると、後になって確実に後悔すると思ったほうが良いだろう。しっかりメンテナンスをすることで、トータルのメンテナンス費用が安く上がるのがヨーロッパ車の特徴で、メルセデス・ベンツはその典型であると言える。

 その良い例が、ここで紹介する八木サンの1978年式300Dである。ワンオーナーで42年間に111万km走破した先述の秘訣が物語っている。この八木サンの「いたわりの運転テクニック」を読者の皆様にも再認識して頂きたいと思う。特にディーゼルエンジンは電気系統の部品がないので、故障率も少ないのが大きな特徴である。

 このような輸入車の考えに対して国産車は、ユーザーが少々手抜きをしても簡単なことでは不調に陥らないようなクルマ造りをしていると言える。もちろん、国産車だって定期的なメンテナンスが必要なのは確かだが、日本の自動車メーカーが「安くて壊れないクルマ造り」を徹底してきた結果、日本人はクルマのメンテナンスに対する意識が希薄になってしまったのかもしれない。

42年間の一般整備費は?

 さて、1978年式300Dの気になる整備費用はいくらぐらいなのだろうか。八木サンがその都度、一般整備を依頼されているヤナセ茨木支店サービス記録では、42年間の一般整備総費用として約876万円となっている。もちろん燃料費やヤナセ茨木支店以外で実施されたメンテナンス費用を除いており、またその他の費用は不明で定かではない。

 八木サン同席のもと最初にこの金額を聞いた時はかなりの一般整備費用だと思ったが、維持してきた期間に対する一般整備費用(ヤナセ茨木支店のみ)を計算してみると、1ヶ月あたり約1万7380円となる。意外と一般整備費用はかかっていないことに改めて納得した次第だ。

 八木サン曰く「普通の消耗部品は別にして、今まで大きな修理といえばエアコンのコンプレッサーを2回交換した程度」とのこと。また、サービス記録ではブレーキキャリパーのオーバーホールとブレーキマスターシリンダーの交換も実施されていた。特に記録を見てみると、一般的な整備、エンジンオイル&フィルター交換は半年に1度は実施され、夏前にはエアコンのチェック・ガス補充などで入庫点検。冬前にはタイヤや足まわりなどの必要なチェックで入庫点検と、なるほど、自分で如何にこまめにチェックして乗られ、事前の予防整備をされていることがよく解る。特筆は八木サン曰く「これまでエンジンもミッションも交換もせず今日まで乗り続けている」とのこと。メルセデス・ベンツのディーゼルエンジンの耐久性の高さを再認識した次第である。

修理しながら乗り続けられるメルセデス・ベンツ

 ところで「ヤングクラシック・メルセデス・ベンツ」と呼ばれるようなクルマでも、年数を経つとトラブルが発生してもおかしくない。主な原因は日本とドイツの環境(温度)の差である。日本は気温や湿度が高い気候の影響はもちろんだが、それよりもエンジンルーム内のこもる熱の問題が大きいと言える。日本の慢性的な渋滞や信号に何度も止められること、いわゆる「ストップ&ゴー」の繰り返しなどで、エンジンルーム内の排熱が追い付かない。そして、この熱の影響は短期間では症状が出にくい。エンジンルーム内で熱に弱いのは、ゴムを使ったパーツ。ゴムパーツはもともと消耗品だが、これが熱にさらされるとライフライクルが短くなり、日本の使用環境では長期間耐えられず、そこがウィークポントだ。問題は「危険なのはいつか?」という点である。

 国産車なら10万kmがひとつの目安で、それまでは大きな故障はなくても10万kmの大台を超えると“あちこち壊れはじめる可能性がある”というのが一般的な認識だろう。一方、ヤングクラシックメルセデス・ベンツでは10万kmどころか5万kmも走行すれば、いろんな消耗部品が限界を超えてしまうと言われている。しかし、これをきちんと交換してやれば、さすがに新車並とまでは言えないがメルセデス・ベンツの上質なドライブフィールを維持することが可能だ。それがメルセデス・ベンツたる所以である。

 余裕を持って壊れる前に交換できるならベストだし、危険が近い事を知っておけば、いざというときに解決策を見つけやすい。ヤングメルセデス・ベンツといえども機械であり、原因を知り、適切な処置をすれば、何度でも蘇る。それこそが、堅牢で安全なボディを持つヤングクラシック・メルセデス・ベンツの美徳であると言える。

【あとがき】

 1978年の車両購入時、八木さんはヤナセ担当者より「メルセデス・ベンツのディーゼルは一生ものですよ」と言われたという。今回の取材にあたり、ヤナセ茨木支店サービス工場に来場された際「事実そのとおりになってきたね」と、笑顔で語っていただいたのがとても印象的でした。ご多忙中にもかかわらず快く取材に応じて頂き、しかも貴重なお話をして頂いた八木唯良さまに心よりお礼申し上げます。

W123シリーズ(1975~1985年)とは

 1976年1月、スリムで軽快なスタイルのコンパクトシリーズの2代目、W123型が登場した。セダンに続き1977年にはクーペ、ステーションワゴンがラインナップ(日本では240D/300D/300TD、230、280E/CEが導入)。Sクラス/W116のコンポーネンツを受け継いで設計されたのが、このW123シリーズだ。

 ガラリと変わったスタイルは比較的若い層を狙ったもの。ラジエーターグリルをいっそう横広にし、スマートになったスタイルは、後に多くのデザイン賞を一手にさらった。ヘッドライトは、4気筒、5気筒モデルが丸型4灯式、6気筒モデルは横広の角型。省資源時代の先駆者として特に注目度が高かった240D、300Dは、優れた経済性を誇る5人乗りディーゼルセダンだ。

 その独自の予燃焼室式ディーゼルエンジンは低燃費、静粛性、始動性においても優れた成果を得ている。もちろん、メルセデス・ベンツの基本理念「安全を考え、走る機能を考え、バランスのとれた車体設計」は不変。4気筒の240D(65HP)に新しいディーゼルイメージをもたらした5気筒の300D(80HP)は、卓越したコンポーネンツで仕上られたハイレベルな一台だ。

300Dディーゼルエンジンの技術的特徴

◆メルセデス・ベンツ独自の予燃焼室(ボールピン付き) 当時のメルセデス・ベンツ乗用車ディーゼルエンジンは独自の予燃焼室方式を採用。他のディーゼルエンジン乗用車の大部分は過流室式エンジンであり、そちらのほうが燃費は若干良いが、スムーズな走行、始動性やノイズレベルに関してはメルセデス・ベンツの方が優れている。加えてエンジンノイズを減少し、スムーズな回転に役立っているのは予燃焼室に備えられた特許のボールピン。このボールピンは高価で耐熱性の高いニモニック(Nimonic=ニッケル・モリブデン合金)で造られているので、アイドリング時のディーゼルノックを防ぎ、スムースな回転に役立つ。

◆モリブデン加工のピストンリング モリブデンは高価だが、ピストンリングのコーティング用材料に最適。その理由は硬質で耐久性と耐熱性(シリンダー内の燃焼温度は約2000℃)があり、多孔質表面なのでオイルの持続性が良いためエンジンの寿命が長く、オイル消費が少なくて済む。

◆ピストンリングキャリア 高い燃焼温度や圧力によってアッパー・ピストンリング溝に多量の熱や機械的応力がかかる。このことが、アルミニュームピストンのリング溝を膨張させるため、燃焼ガスが吹き抜け、エンジンオイルおよび燃料消費の増加に結びつき、出力低下の原因となる。従ってメルセデス・ベンツディーゼルエンジンには、高品質の合金の鉄材料で造られるリングキャリアが装着されている。その結果、長く使用した後でも、エンジンのパワーロスがほとんどなく、またオイル消費が少なくて済む。

◆ロートキャップ ロートキャップは、バルブのストローク毎にバルブを少しずつ回転させる機構。これによってバルブシートとバルブディスクの焼き付きを防止し、バルブの長寿命を実現。メンテナンス頻度も少なくしている。

◆バイシャフトバルブ バルブシートは耐熱性の高いNimonicで造られている。これによってバルブディスクに穴が空いたり、焼き付きが発生するのを防止。長いサービスライフだけでなく、バルブのシーリング効果を常に保持する。

◆ソジウム入りエキゾーストバルブ バルブシートにかかる高い熱応力を減少するため、エキゾーストバルブにソジウムが封入されている。ソジウムは作動温度で液体になり、バルブディスクからクーラーステムに熱を急速に移動させ分配する。

◆30°バルブシートアングル バルブにかかる熱や応力はバルブシートアングルを小さく、即ち45°の代わりに30°にすることで減少させることができる。このアングルによりバルブディスクとバルブシート間の接触面積が大きくなり、熱伝導が改良され、閉じたバルブの力は大きな範囲に分配できる。

◆特殊なインジェクションノズル 燃焼及びエンジン回転をスムーズにするために、メルセデス・ベンツディーゼルエンジンには特殊なインジェクションノズルが取り付けられている。ごく少量の細かい霧状の燃料が噴射できるように最初ほんのわずかだけノズルが開く。続いてノズルが完全に開き、主噴射が行われる。このため、燃焼室の圧力は徐々に上昇し、完全燃焼するので、エンジンは大変スムーズに回転する。

◆オイルクーラー 高温負荷時でのエンジン・オイルの性能を防止するため、ラジエーターの脇に取り付けられているオイルクーラーを通って空冷される。この結果、エンジン部品の摩耗を少なくし、エンジンに冷却力を増し、エンジンライフを長くする。

◆クーリングシステム サーモスタットは冷却水のインレット側に取り付けられている。サーモスタットがこの位置にあるため、サーモスタットが開いた時に生じる温度変化はほとんどなく、一定の割合で温度は上昇し、ウォーミング・アップ中は閉じている。その上、通常の作動温度にまだ達していない時は、特にエンジンの冷却はゆっくり行なわれる。このため短距離走行でも温度が一定になる理由であり、強いてはエンジン耐久性を高めることにもなる。

◆エンジン・サスペンション 3つのエンジンマウントに加え、1本の小さなショックアブソーバーがエンジンから車室への振動を減らすために、ボディとフロントエンジンマウント間に取り付けられている。従って振動はガソリン車並みで、走り出してしまえばほとんど違いがわからないほどである。

【1978年式300D】主要諸元□全長/全幅/全高:4725/1785/1440mm□ホイールベース:2795mm□最小回転半径:5.6m□車両重量:1505kg□エンジン:SHOC 5気筒ディーゼル□排気量:2998cc□最大出力:80HP/4000rpm□最大トルク:17.5mkp/2400rpm□使用燃料:軽油□燃料タンク容量:65L

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みんなのコメント

50件
  • このディーゼルエンジンはトラック並に頑丈で、車体の方が先に臨終してしまうほど。
    走り方を見ても長距離トラックに近いから、エンジンへの負担は距離の割に軽そう。
  • まぁ100万キロは極端だとしても、現代なら20万弱程度までなら行ける車は多い
    (もちろん消耗品のメンテは必要だが)

    現代の車では、車そのものの品質より、乗り方のほうが劣化への影響度が高い
    減速不十分で段差を乗り越えたり、ハンドル操作が急ぎみ、ブレーキも割と強く踏むタイプの人は、気づかないうちに車を傷めつけてる

    誰が乗るか分からない業務車なんか、距離を乗ってなくても2年もすると、明らかにわかるほど劣化してる。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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