日本資本に変わって何が変わる?
text:Takuo Yoshida(吉田拓生)
【画像】軽快さが魅力【ケータハム・セブン・シリーズ/ホンダS660を比較】 全178枚
editor:Taro Ueno(上野太朗)
1か月ほど前、AUTOCAR英国編集部が製作したケータハムの記事が出ていた。
それによればEV版のセブンを開発中であることや、モーガンとの契約など、なかなか威勢のいいトピックが並んでいた。
そこで筆者は旧知のジャスティン・ガーディナーに連絡を取り、ケータハムの詳しい現状を聞いてみることにした。
ジャスティンは660ccのスズキ・エンジンを搭載し一世を風靡したセブン160の発案者であり、つい先ごろケータハムを買収した日本のVTホールディングスの人間である。
「グッモーニン。今ボクはイギリスにひと月ほど滞在している。今ちょうどダートフォードのケータハム社に出勤したところ」
さっそく彼に質問を投げかけてみる。日本の資本になったことでケータハムはどう変わる?
「変わらないよ。というか今回ボクはケータハムの120人いる社員のみんなに『何も変わらない』と言いに来た感じなんだ」
「色々なうわさがあった。イギリス以外の国で作るとかね。でも日本のファンを含め、みんなイギリス製であることにもプライオリティを感じてくれているわけだから、それはない」
「でもまったく変わらないというわけじゃないかな。サプライヤーとの連携を改善している最中だから、うまくいけば今までより仕事がやりやすくなるはず」
EV 「まだまだ」先の話?
先の記事ではグラハム・マクドナルドCEOがEVセブンのプロトを試乗済であり、実車の発売は5年以内といっていた。
「それは……ちょっと盛っているかもね(笑)」
「モーターを積んだセブンはこれまでにもいろいろと作ったひとがいるから、彼はそれに乗ったことがあるということ。発売も5年では難しい」
「コンセプトカーなら今すぐにでも作れるけど、まだコンポーネンツが高い。イギリスでは2030年以降はICE(内燃機関)車両の新車販売ができなくなる。でもその頃には各社ともEVが出揃って、部品が安くなる。ウチが動くのは安くなってからだよ」
二駆のEVはリアにモーターを置くレイアウトが常套だが、EVセブンもそうなる?
「そういうEVセブンも見たことがあるけれど、それはしないと思う。モーターはフロントに縦置き。そうすることで車体の前後に重量物がうまく配分されてセブンらしいドライブフィールを再現できる」
「ミドシップみたいに重量物の中央に集めるとラップタイムは速くなるけど、ドライビングの楽しみはどうかな?」
「でもEV化よりも重要なことは、ケータハムは内燃機関にまだまだ可能性を感じているということだね。それは例えばシンセティック・フューエルのような解決策がこの先出てくるかもしれないし、世界を見渡せばまだまだガソリン車を販売できる市場もあるわけだからね」
市場は狭まる? でも可能性は広がる?
今後イギリスやヨーロッパではガソリン・エンジンのケータハムの販売が難しくなるが、広がる市場もあるという。
「今後はコンティニュエーションルールによって北米でも本格的に販売できるようになるし、東南アジアやインドも可能性はある。だからサプライヤーだって簡単にガソリン・エンジンの生産を終わらせたりはしないはず」
ちなみにケータハムが1年で生産するセブンは550台程度で、この数字は長年変わっていないという。また現在新車を頼むと1年から1年半待ちとなる。
「550台の中の80台くらいはレースカー。セブンのレースはフォーミュラ・フォードよりもコストが安いから、ステップアップを目指すドライバーにも人気がある」
「だからイギリスセブンに乗るなら、レースカーという選択肢もある。それにユーズドカーもたくさん出回っているわけだからね」
以前の記事には「モーガンと契約」とあったが、具体的にはどのようなことなのか?
「契約というより、モーガンとも他の小規模メーカーとも協力している、という意味だね。NVN(ニッチ・ビークル・ネットワーク)という小規模メーカーが加入している団体を通して政府と交渉したりしている。大きな自動車メーカーがやっているプラットフォームの共有みたいな話ではないよ(笑)」
自動車を取り巻く環境は刻一刻と変わってきているが、セブンは安泰。そして今後はEVも選択肢の1つとして加わる。
「周りのクルマが面白くなくなると、ケータハムのようなクルマがより重宝されることになる。困難な状況ではあるけれど、可能性は大いにあると思っているんだ」
創業以来、誰よりも軽く、楽しいクルマを作り続けてきたケータハム。
自分たちの長所をよく理解している彼らだけに、時代の変化にもちゃんと適応していけるに違いない。
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