現在の自動車税制が導入され、1990年を転換点に3ナンバー車が急増した。国内外問わず自動車業界の主流となっている。そのいっぽうで、国内ユーザーは日本の道路事情に合う5ナンバー車、特に軽自動車を好む傾向が多い。
そこで、本稿では日本の3ナンバー車、5ナンバー車の立ち位置について解説していく。日本の自動車メーカーはもっと「日本のニーズ」を考えたクルマを考えるべきではないだろうか?
国内市場は「5ナンバー車が最良」!? 今、当たり前の3ナンバー車の立ち位置とは?
文/渡辺陽一郎、写真/TOYOTA、DAIHATSU、HONDA、NISSAN
■税金の改定がきっかけ? 3ナンバー車が急増した原因はふたつあった!
1990年頃までの日本車では、5ナンバー車が圧倒的に多かったが、それ以降は3ナンバー車が急増した。この背景には2つの理由があった。
ひとつ目は自動車税制の改訂だ。1989年に現在の自動車税制が導入されるまでは、3ナンバー車は税金が高額だった。自動車税は5ナンバー車であれば2Lが3万9500円だが、3ナンバー車になると一気に8万1500円まで跳ね上がった。
また。旧自動車税制ではクルマの小売価格に物品税が含まれていた。卸値に課税され、その税率は小型乗用車は18.5%だが、3ナンバーサイズの普通乗用車は23%だ。3ナンバー車は、物品税のために価格も割高であった。
これらの税制が消費税の導入と併せて1989年に改訂され、自動車税は排気量に応じた段階的な課税に改められた。全幅が1700mmを超える3ナンバー車でも、エンジン排気量が2L以下なら、税額は5ナンバー車と同じになった。
物品税は廃止され、3ナンバー車の価格が税額のために割高になることもなく、購入しやすくなった。その結果、3ナンバー車が増え始めた。
3ナンバー車が増えたふたつ目の理由は、メーカーの開発方針が変化したことだ。自動車税制における3ナンバー車の不利が撤廃されると、各メーカーともに、海外向けに開発された3ナンバー車を国内市場へ流用するようになった。
もはや税額のために国内向けの5ナンバー車を開発する必要はなく、日本のユーザーも、大きな3ナンバー車を提供すれば喜ぶと考えた。
ところがユーザーの受け止め方は違った。ボディを3ナンバーサイズに拡大したことで、日本の道路環境では運転しにくく感じることも多い。また以前の5ナンバー車は、日本の好みや用途に合わせて開発されたが、海外向けの3ナンバー車を使うと、デザインや使い勝手で違和感が生じることもある。
つまり、日本のユーザーから見ると、税制改訂に基づく3ナンバー車の不利を撤廃したことで、日本車に悪い影響が生じてきた。国内で売られる日本車が海外指向を強めて、日本のユーザーから離れ始めた。
そのために国内販売台数は、1990年に778万台のピークを迎えると、翌年からは3ナンバー車の増加とともに売れゆきを下げ始めた。1995年には687万台、2000年は596万台、2005年は585万台、2010年は496万台、2020年はコロナ禍の影響もあって456万台まで下がった。
■3ナンバー車の増加は海外市場重視? 2022年現在までの国内販売を振り返る
今になって国内販売を振り返ると、5ナンバー車が多かった時代には自動車市場全体も活性化していたが、1990年を転換点にして3ナンバー車が増え始めると、売れゆきも急減して2020年の国内販売台数は1990年の59%に留まる。
そのいっぽうで日本のメーカーは、1990年頃から海外販売比率を急速に拡大させた。トヨタの場合、1980年から1990年頃までは、生産総数の50%を海外と国内でほぼ均等に分け合っていた。
それが1995年には海外比率が55%に増えて、2000年には60%を超えた。2005年には70%を上回り、2010年には80%に達している。トヨタにかぎらず、今の日本メーカーの多くは生産総数の80%以上を海外で売る。
以上のように1990年代に3ナンバー車が増え始めたのを切っ掛けに、国内の売れゆきが下がり、日本メーカーが海外市場へ力を入れるようになった。今の国内は、日本のメーカーにとって20%以下のオマケの市場だ。
2022年度上半期新車販売台数で首位になったN-BOX(写真はN-BOXカスタム)
しかし、日本のユーザーは今でも5ナンバー車を購入する傾向が強い。まずは軽自動車の販売比率が高い。2022年1~9月の場合、国内で新車として売られたクルマの38%を軽自動車が占めた。国内販売ランキングの上位にも、N-BOX、スペーシア、タントといった軽自動車が並ぶ。
小型/普通車でも5ナンバー車が人気だ。5ナンバーサイズのコンパクトカーは、軽自動車の次に販売の好調なカテゴリーで、国内の販売シェアは約25%を占める。従って軽自動車とコンパクトカーを合計すれば、国内市場全体の60%を超える。
小型/普通車の販売ランキングも、上位にはルーミー、ノート、フリード、ライズ、フィット、ヤリスなどの5ナンバー車が並ぶ。ヤリスの登録台数には、3ナンバーサイズのヤリスクロスやGRヤリスも含まれるが、約半数は5ナンバー車のヤリスだ。
このように5ナンバー車の人気が根強い背景にある理由は、税金や燃料代が安い、運転しやすいといった実用性だけではない。前述のとおり、車両のコンセプトや作り込み、デザインや使い勝手も大きな影響を与えている。
■日本自動車メーカーはもっと「日本のニーズ」を考えたクルマを!!
タントのミラクルオープンドアは、左側の中央に装置されたピラー(柱)をスライドドアに内蔵させ、ベビーカー、荷物を乗せやすい。日本のユーザーに特化したクルマとなっている
最もわかりやすいのは軽自動車で、日本のユーザーの生活を見据えて開発される。例えばタントは、左側の中央に装着されたピラー(柱)をスライドドアに内蔵させ、前後のドアを両方ともに開くと開口幅が1490mmに達する。
雨天時などは、ベビーカーを抱えた状態で車内に乗り込める。運転席には540mmのロングスライド機能も用意され、親が子供をベビーカーに座らせたあと、降車せずに運転席へ移動できる。このような導線に配慮したクルマ作りは、海外を重視した「日本はオマケ」の3ナンバー車には絶対に見られない。
また、フィットのようなコンパクトカーは海外でも売られるが、3ナンバーサイズのセダンに比べて国内販売比率が高い。従って日本のユーザーを意識した開発も行われている。フィットの開発者は「日本のニーズを考えたシートアレンジは、海外のお客様にも好評だ」という。
海外のユーザーが日本車を買うときに、自国のクルマとは違う個性を求めるのは当然で、フィットのシートアレンジも、欧州車とは違う日本車の凝った機能として注目されるわけだ。
一番大切なことは「誰に向けてクルマを造るか」だ。ノア&ヴォクシーのように、日本のユーザーを見据えて開発すれば、3ナンバー車でも優れた商品に仕上がって売れゆきも伸ばせる。問題なのは3ナンバー車が「日本でも買える海外向けの商品」に多いことだ。
クラウンは以前から3ナンバー車だったが、日本向けに開発されていた。それが今後は、伝統的な車名を存続させるために、海外でも販売できるクルマ造りを行う。車種も増やしてクラウンをシリーズ化する。「日本でも買える海外向けの商品」に陥る危うさが感じられ、万一そうなれば、クラウンを残した価値も薄れてしまう。
日本のユーザーに向けて開発するからこそ、クラウンの価値がある。クラウンは「日本車とは何か」を問い掛けている。それは軽自動車や5ナンバー車を改めて考えることにも通じる。
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