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せっかくル・マンで勝ったのに……フェラーリの最新限定モデル名が『LM』ではない理由【大谷達也のモータースポーツ時評】

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せっかくル・マンで勝ったのに……フェラーリの最新限定モデル名が『LM』ではない理由【大谷達也のモータースポーツ時評】

 イタリア・マラネロで行なわれたフェラーリSF90XXの発表会に参加してきた。

 SF90XXは、別名『スペチアーレ』とも呼ばれるフェラーリの限定モデル。今回はクーペとコンバーティブルの両方が用意され、生産台数はそれぞれ799台と599台に設定されていたが、価格は優に1億円を越えるにもかかわらず、発表会の段階で計1398台のすべてが完売だったそうだ。

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 もっとも、フェラーリの限定モデルについていえば、これは毎度お馴染みの現象で驚くに値しない。なにしろ、フェラーリのスペチアーレは、購入して数年を経ると価格が大きく跳ね上がり、たとえそのクルマが気に入らなくて手放すことになっても、必ず儲かることが保証されたも同然のモデルであるからだ。

 ちなみに、そうしたフェラーリの限定モデルがどんな風に販売されるかを簡単に説明すると、これまでに何度も高価なフェラーリを購入したり、フェラーリ主催のサーキット・イベントに熱心に参加するファンをフェラーリ本社や各国のディーラーがピックアップ。そうした優良顧客に「近々発表される限定モデルを購入できますよ」と知らせると、彼らの多くはクルマの外観はもちろん、詳細なスペックさえ知らされていない段階で売買契約書にサインしてくれるそうだ。

 こうして限定モデルは発表前に完売になるのが通例となっているのだけれど、新製品を見ないまま契約した顧客は、発表前に行なわれるプレビューイベントに招待され、そこで自分が「買ったクルマ」がどんな姿をしているのかを、初めて目の当たりにすることになる。

■モデル名に一部のメディア関係者は落胆

 ちなみに、今回発表される限定モデルは「2019年に発表されたSF90ストラダーレの高性能版」というウワサが早くから流れていたが、肝心のモデル名がわからない。

 そうこうしているうちに、ル・マン24時間で総合優勝を果たしたフェラーリ499Pがマラネロをパレードしたという報道がオートスポーツwebなどで流れた。これを見たわれわれの間では、「マラネロでわざわざ499Pがパレードしたのは、次に発表される限定モデルがル・マン24時間をテーマにしているから。だとすれば、そのモデル名はル・マンの頭文字を用いた『SF90LM』に違いない」との憶測が飛び交い始めた。

 ちなみに、先に説明した優良顧客向けのプレビューが実際の発表会の1週間ほど前から行なわれていることも、われわれは事前にキャッチしていた。

 そんな期待を抱きながら参加したメディア向けの発表会で、前述のとおりモデル名はSF90XXであることが明かされる。なお、XXの名は、フェラーリがサーキット走行専用に開発した『XXモデル』を対象として顧客向けに行なわれる『XXプログラム』に因んだものである。

 まあ、SF90XXというモデル名も決して悪くはないが、勝手にSF90LMの名を期待していた一部のメディア関係者が落胆したのも事実。そこで発表会後の質疑応答では「せっかくル・マン24時間で優勝したのに、なぜLMの名を使わなかったのか?」という質問が飛び出すことになった。

 ここで、マーケティング/セールス担当役員のエンリコ・ガリエラは「ル・マンの名前を取り上げてくださり、ありがとうございました。なにしろ、いまでも私たちはル・マンという言葉を聞いただけで頬が緩んでしまうほど、あの勝利を喜んでいるのです」と前置きしたうえで、次のように語ったのである。

「今年のル・マンで勝ちたいとは思っていましたが、勝てる保証はどこにもありませんでした。いっぽうでニューモデルの発表は先に決まっていて、事前にモデル名を登録しなければいけません。そこで私たちはSF90LMではなく、SF90XXという名称を選んだのです」

■BoP変更の“フェラーリ陰謀説”は不自然

 私はフェラーリに招待されてル・マン24時間の現場にも出向いていたが、そこでフェラーリ関係者の予想を訊ねてみると、おおむね「優勝するに越したことはないけれど、初年度なので、表彰台に上れれば充分に満足」という回答が返ってきた。

 彼らの言葉からも、そしてガリレラのコメントからも、フェラーリが必ずしも今年のル・マン24時間での優勝を確信していたわけではないことは明らかである。

 にもかかわらず、直前でBoP(性能調整)が見直された影響で“フェラーリ陰謀説”のようなウワサがまことしやかに囁かれていることは、私の目にはとても不自然に映る。

 なるほど、ACO(フランス西部自動車クラブ)がBoPを直前に変更したのはルールに則ったことではなかったかもしれない。けれども、だからといってACOが「フェラーリを勝たせようとした」と捉えるのは、穿ったモノの見方のように思う。

 たしかに、ACOが『決勝レースでの接戦』を望んだことは事実だろう。けれども、ACOは100周年の記念すべきレースが接戦になって世界中を湧かせればそれで満足で、結果として誰が勝つかについては興味がなかったのではないか。そうでなければ、今年のように日曜日の午後まで接戦が続くような展開などにせず、フェラーリに対してもっと明らかに有利なBoPを設定していたことだろう。

 私がとあるメディアに「ル・マンには神様と悪魔が棲んでいて、その年、もっとも神様に愛されたチームが優勝する」という主旨の記事を寄稿したところ、ル・マンに詳しい知人から「まさにそのとおり。ACOは神様に仕える(神社でいうところの)社務所で、決してACO自身が神様ではない」との主旨の話を聞かせて私を笑わせてくれたものである。

 ところで、499Pに積まれていたV6エンジンはフェラーリ296GTBに搭載されているものがベース。その296GTBのGT3レーサーが今年のニュルブルクリンク24時間でドイツの強豪を蹴散らし、総合優勝を飾ったことは皆さんもご存じのとおりである。

 つまり、あのV6エンジンこそが、今年は24時間レースの神様から祝福されているという解釈も成り立つのである。

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みんなのコメント

7件
  • 記事が穿っている…
  • グリッケンハウスどころかLMP2にも負けたのにル・マン100周年記念車を出すメーカーがいたんですよ~
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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