伊藤真一さんがゴールドウイング(2020年型)をインプレッション! 実はこのモデル、登場時にも試乗しているんですよね。なぜ2回目の試乗をしたのか? それには深い理由があるそうで……。
語り:伊藤真一/まとめ:宮﨑健太郎/写真:松川 忍/モデル:大関さおり
伊藤真一 (いとう しんいち)
ホンダ「GB350 S」誕生! スタンダードモデルのGB350とともに詳細発表
1966年、宮城県生まれ。1988年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。写真のCBR1000RR-Rの開発ライダーも務めた。2020年から監督として「ケーヒン ホンダ ドリーム エス・アイ レーシング」を率いてJSB1000などに参戦。
ホンダ「ゴールドウイング DCT」試乗インプレ(伊藤真一)
DCTのフィーリングが良化した印象。これなら充分楽しめる!
ゴールドウイングをテストするのは、2018年にダブルウィッシュボーンサスペンションを初採用した以来ですね。そのときはトップケースを装備するゴールドウイングツアーのMT車とDCT車でしたが、今回はバガースタイルのゴールドウイングの、DCT版になります。なお2021年2月にはDCTのみのラインアップになるマイナーチェンジ版が発売されましたが、今回試乗したのは2020年モデルです。
2018年型は17年ぶりの全面刷新を受け、ホンダ初のダブルウィッシュボーンサスペンションを採用したのが最大の特徴ですが、乗り慣れたテレスコピックフォーク車とのハンドリングの操作感覚の違いなどに、色々戸惑いを覚えたりもしました。
今回試乗した2020年型ですが、走り出して最初に違いを感じたのは、セルフステアが普通に入るようになったことです。前回試乗したときはハンドルを直進に戻そうとするキャスターアクションが少なく、荷重移動させてバイクを曲げるというより、ハンドルを切ってコントロールという印象でした。
2020年型はダンパーの余計な動きがなくなり、ストロークの浅いところでも深いところでも、しっかりショックを吸収している感じです。Uターン時やコーナー中でも四輪車のようにブレーキを使えるのは、2018年型から変わらない、操舵と衝撃吸収の役割が分けられているダブルウィッシュボーンサスペンションの特徴ですが、2020年型は制動時にフロント側が突っ張る感覚が少なくなり、テレスコピックフォーク車に慣れた人にも、より自然な動きに感じられます。
また前回の試乗では、リンクを介するダブルウィッシュボーン特有のホイールの動き方から、コーナーで車体を倒し込んだときタイヤの接地点が後ろへずれてくる感じがありましたが、今回の試乗ではバンキングの感触もより自然なものに思えました。
それでいて乗り心地の良さといった走っていての快適さ、そしてスタビリティの高さは前の試乗時に感じたまま変わらず、路面からライダーに伝わるフィードバック感がさらに増しています。剛性の調整や精度の向上により、ハンドリングを熟成させていると想像しますが、とても素晴らしい仕上がりぶりだと思いました。
水平対向6気筒エンジンを低重心な位置に搭載するゴールドウイングは、ハンドリングをまとめ上げるのがとても難しいバイクです。一般的なスポーツバイクはある程度高い位置に重心を上げて、セルフステアを効かせて曲がるようにしますが、ゴールドウイングの6気筒をこれ以上重心上げて搭載すると、ピッチングが大き過ぎたり、コーナーで倒れ込んでからの戻りが遅れたり、いろいろ弊害が出るはずです。
またライダー込みで重量が400kgもありますから、摺動式のテレスコピックフォークでは制動時にかかる荷重により動きが渋くなります。ゴールドウイングはダブルウィッシュボーン式なので、テレスコピックフォークのような剛性に関する問題はないです。でもあれだけ重心が低いと、セルフステアとかフロント側の自然な動きを出すのが難しいです。
また重心が低いから、Uターンなどでスロットルを開けすぎると前輪がバッと滑ります。でも姿勢が大きく乱れることはなく、何事もなかったかのように収まります。車重の重さと重心のバランスが、とても良いのでしょう。もうちょっと重心が高ければタイヤにかかる面圧も上がると思いますが、現状でも破綻することなく、違和感なく走れるようにまとめ上げられていますから、これがちょうど良いバランスなのでしょう。
前回試乗したときはシフト操作が好きという自分の好みもあって、購入するならDCTよりもMTを選ぶかな、と思いました。MTが用意されるのはこの2020年型で最後になりますが、今回試乗した車両のDCTの出来栄えが良いので、これならMTがなくてもいいかな、と思いました。
前回試乗したときは、DCTの低速時の使い勝手に違和感を覚えたのですが、今回は違和感なかったです。また学習機能によりちょっと急加速した後は、シフトアップしなくなる。ハンドリング同様、DCTもより自然になった印象で扱いやすかったです。これならMTでせっせとシフト操作して走らなくても、DCT任せで楽しめると思いましたね。
6気筒エンジンを最大限に有効活用! ウォーキングモードも便利に使える!
スロットルバイワイヤシステムを採用し、ツアー、スポーツ、エコノ、レインと4種類のライディングモードを選べますが、スポーツは特にスロットル操作に対してツキすぎる…ちょっと早開きしすぎる感じがありました。
以前CBR600RRを取り上げたときも同じような話をしましたが、自分らのようなプロライダーは、すぐに全開にしてしまうので(笑)、そう感じてしまうのかもしれません。もっとゆっくりスロットル操作をする一般のライダーなら、これくらいのツキでも問題ないのだと思います。
モードの変更でDCT、トルクコントロール、ブレーキ特性も変化しますが、スポーツで峠を攻めるとちょっとフロント側のブレーキ力が足らないと感じてしまいました。あとスポーツモードで全開にすると結構ドーンと加速しますが、ハンドルグリップの材質と形状的に手の小さい人は手が外れちゃうかも、と思いました。
まぁ、ゴールドウイングで峠道を攻めた走りをしたときのことを、あれこれうるさく言うのは自分くらいかな、とも思いますけど(苦笑)。6気筒エンジンの排気音は十分消音されていますが、その音質はとても良いですね。
スタイリングに関しては、初期型を見たときからそのカッコ良さが気に入ってます。二輪のNSXみたいで、良いですよね。今回試乗したゴールドウイングは、ブラックメタリックに赤のカラーリングがちょっとワルっぽくて、それでいて高級感もある。これに乗って信号待ちしているとき、横にCBR1000RR-Rが並んでも「頑張ってね」って気持ちになれますね(笑)。
低速で前進・後退ができる、便利なウォーキングモードが装備されるゴールドウイングは、普段の足に使えるくらい使い勝手がよく、そして峠道や長距離ツーリングも楽しめるという万能さがありますから。
ゴールドウイングはフラッグシップとしての質感の高さがあって、ダブルウィッシュボーンと低重心な車体を高度にバランスさせた、とても良く出来たモデルだと思います。自分も普段の足に、所有してみたいと思わせる1台です。ひとつだけ欲を言えば、ヘルメットホルダーを使うのではなく、サドルバッグ内にヘルメットが収納できれば、最高なんですけどね…。
最大のポイント「ダブルウィッシュボーン」に変化が生まれた!
ホンダ初の二輪用ダブルウィッシュボーンを採用するのは、ゴールドウイングの大きな特徴です。リンクを使ったフロントサスペンションといえば、BMWのK1600などのデュオレバーがありますが、デュオレバーにはリンクによるレート感が作動時にある一方、ゴールドウイングのダブルウィッシュボーンはストン、と下がっていく印象です。
BMWの方がアームが長く感じて、ホンダは短いアームが速く動く感じですね。ダブルウィッシュボーンを初採用した2018年の初期型に比べると、フロント側のつっぱり感は少なくなって、操舵フィーリングがより自然になっています。初期型はハンドルを切って曲がる感覚でしたが、これならばテレスコピックフォークの車両から乗り換えても、覚える違和感は少ないでしょう。
改めてゴールドウイングを観察して、非常に面白いなと思ったのは、左右にサイドラジエターを配置している点です。サスペンションとエンジンの間が詰まるので、一般的なテレスコピックフォーク車ではその間におさまるラジエターを、サイド配置にしたのでしょう。1970年代末のGP用初期型NR500にはじまり、VTR1000系などホンダには長年のサイドラジエターに関するノウハウがありますからね。
現在はゴールドウイング系のみに採用されるホンダのダブルウィッシュボーンですが、技術面やコスト面など採用の難しさはあるでしょうが、この技術がゴールドウイング以外の、他のジャンルのモデルにも採用されることがあるのか…に興味がありますね。
ちょうどイイ「電動スクリーン」操作性の向上にも貢献!
「ゴールドウイングツアーに比べ小さめな電動スクリーンですが、風防効果は十分で視界の妨げにもならなくて良いですね。低い位置、高い位置ともに試しましたが、高い位置ですと風圧がちょうど良い抵抗になるのか、操安にプラスに働いている印象を受けました」と伊藤さんはその出来栄えを褒めてました。
ホンダ「ゴールドウイング DCT」足つき性・ライディングポジション
ゴールドウイングのシート高:745mm
ライダーの身長:179cm/パッセンジャーの身長:173cm
クルーザーらしく、非常にリラックスしたライディングポジションをゴールドウイングは乗り手に提供。シート高は745mmで、足着き性も良好。ただし2人乗りの快適性は、ゴールドウイングツアー系に比べると劣るのは致し方ないところ。
「座面は大きくて良いですけど、幅広のため足が開き気味になるのがツライです…。ゴールドウイングツアーの方が、やっぱりタンデムするには良いですね」と大関さんはコメント。ゴールドウイングは、ソロで使うのがメインの人向けなのかも?
ホンダ「ゴールドウイング DCT」主なスペックと価格
2020年型の諸元と価格
●全長×全幅×全高:2475×905×1340mm(スクリーン最上位置1445mm)
●ホイールベース:1695mm
●シート高:745mm
●車両重量:364kg
●エンジン形式:水冷4ストOHC4バルブ水平対向6気筒
●総排気量:1833cc
●ボア×ストローク:73.0×73.0mm
●圧縮比:10.5
●最高出力:126PS/5500rpm
●最大トルク:17.3kg-m/4500rpm
●燃料タンク容量:21L
●タイヤサイズ前・後:130/70R18・200/55R16
●税込価格:293万400円
[ アルバム : 【写真19枚】ホンダ「ゴールドウイング DCT」 はオリジナルサイトでご覧ください ]
語り:伊藤真一/まとめ:宮﨑健太郎/写真:松川 忍/モデル:大関さおり
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