内臓が押し付けられるほどの鋭い加速
text:Lawrence Allan(ローレンス・アラン)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
「ダイナミクス・モードで、スピーカーからのサウンドを聞いてみてください」。アウディのサウンドエンジニア、ステファン・グセルが声をかける。
ドイツ・インゴルシュタットの自動車ブランド、アウディ初となる純EVのスポーツサルーンを運転する彼は、最もアグレッシブなドライブ・モードに切り替えた。アクセルペダルをフロアへ蹴り倒す。
合成されたサウンドに集中しようとするが、正直難しい。極めてパワフルな純EVは、猛烈な加速で筆者の内蔵を背もたれ側に偏らせる。少し苦しい。eトロンGTの、動的性能の高さを物語る。
新型コロナウイルスの世界的流行で、ロサンゼルス・モーターショーは中止。クルマの開発スピードに大きな影響はなかったらしいが、華々しい発表の舞台は、見送りが余儀なくされた。
そのかわり、ほぼ完成状態といえるeトロンの助手席試乗の機会が設けられた。残る作業は、細かいチューニングや補正だけだという。
4ドアのボディには、派手なカモフラージュ用のラッピングが貼られている。本来の姿は、完全には確認できない。アンベール・イベントは10月末。もう少しお預けだ。
アウディはドイツのテストコースへ、大勢のジャーナリストを招待した。スピーカーからの合成サウンドを、聞いてもらうように説明している。eトロンGTの開発で、重要な部分の1つなのだろう。
純EVの聴覚体験を拡張する
eトロンGTを運転するグセルは、ミュージシャンとエンジニアによる小さなチームの一員として、サウンド開発に取り組んできた。純EVの聴覚体験を拡張するべく、半年間を投じてきた。
純EVは、低速走行時は特に音がしない。安全を考慮し、歩行者へ自車の接近を知らせるために、何らかの音を発するようルール付けされている。単にドライバーの楽しみのため、だけではない。
欧州では明確に基準が決まっている。純EVはフロント側のスピーカーから、5km/hから19km/hの間で、音を出す必要がある。バックする際は、リア側のスピーカーから音を鳴らす。
北米では、停止状態でもシステムがオンなら音を発する必要がある。かといって、どの自動車メーカーも単調なブザー音などは選ばないようだ。
一緒に開発へ取り組んだ1人が、ミュージシャンのルディー・ハルブマイヤー。彼とのサウンド開発のプロセスを、グセルが説明してくれた。これだ、とひらめいた瞬間があったという。
卓上の扇風機の前へ、長さ3mの金属パイプをかざしたときに響いた音が、糸口だったらしい。「やりすぎない、ということが1つのチャレンジでした。SF映画などを見ればわかりますが、もっと特別で変わった音も作れたでしょう」
「しかし、純EVの出すサウンドは、毎日のように多くの人が聞かされる音。バランスが重要です」。独自の合成サウンド・ソフトウエアの開発にも苦労したと話す。完成したサウンドは、32種類ものオーディオトラックの組み合わせで構成されている。
車内で聞く音はアイデンティティの1つ
アウディeトロンGTは、プラットフォームをポルシェ・タイカンと共有する。しかしサウンドはオリジナル。別の開発チームが生み出している。シュツットガルトのノートは、盗み見しなかったらしい。
近年登場する純EVの中で、eトロンGTは最も積極的に聴覚体験へ向き合ったモデルになるかもしれない。停止状態でも、低周波の調和の取れたハミングが聞こえてくる。もちろん、直列6気筒エンジンのアイドリング音とは違う。
リア側のスピーカーからは、猫よけに使われるような、静かな高周波音が響いている。
運転席で聞こえる音は、さらに重要だ。「車内で聞く音は、クルマのアイデンティティの核にもなる部分。特にスポーツカーの場合は、サウンド面での充足感は重要な要素です」。と話すグセル。
彼の考え方には、筆者も同意する。主力車種となるような純EVなら、静けさも大事だろう。だがスポーツカーの場合、エンジンサウンドは高速走行時のシャシーバランスやステアリングフィールと同じくらい、個性を主張する部分だと思う。
純EVに載るのは、バッテリーと電気モーター。まったく異なるアプローチが必要なのだ。
グセルが筆者を助手席に乗せて、最も高効率なドライブ・モードでeトロンGTをスタートさせる。一番静かなモードだが、複数の音が折り重なった特長的な音が聞こえてくる。速度が増すと同時に、音程が上がっていく。
最速版のRSも同時に発表予定
コンフォート・モードにすると、リアドア側のスピーカーからも音が出る。低音が強調され、やや刺激も増える。ダイナミック・モードではさらに増し、アクセル操作に合わせて複数の周波数の音が折り重なって響く。
スピードメーターの数字が大きくなるほど、聴覚的に、ドライビング体験の感覚が広がる。ただしR8のV型10気筒や、RS3の5気筒ターボほど、背筋がゾクゾクするような刺激はない。
eトロンGTのサウンドは、単調になりがちな高性能EVの体験を広げてくれる。しかもこのクルマは、最速の純EVの1つにもなるだろう。
ドライブトレインの構成は、教えてもらえなかった。ちなみにeトロンGTコンセプトでは、ツイン・モーターで590psだった。最速版はトリプル・モーターになるらしい。タイカン・ターボを運転した経験と比べても、eトロンGTの加速は引けを取らない。
標準のeトロンGTに加えて、RS版も登場する。発表は通常のモデルと同じタイミングで、利益率の高い最速版はビジネスを強く牽引することになる。
今回は助手席での試乗だったが、タイカンとは異なり、eトロンGTはまだトラクション的な課題を抱えているようだった。タイトコーナーへの侵入が速すぎると、ひどいアンダーステアを出していた。高速コーナーでも、タイヤはいうことを聞いていないようだった。
グセルによれば、ダイナミクス面はまだ完全には仕上がっていないらしい。スタビリティ・コントロールの介入もなかったようだから、理解できる。今後に期待しよう。
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みんなのコメント
そりゃそうだ、先進技術は苦手なワーゲン・グループだもの。