■かつては、頑固一徹のメーカーだった
1970年生まれの私(筆者:中村友彦)が、2輪に本格的に目覚めたのは1980年代中盤です。そして当時と現在を比較して、最も変貌・成長を遂げたメーカーと言ったら、その筆頭に挙げたいのはBMW Motorrad(以下、BMW)です。
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もちろん、ドゥカティやハーレー・ダビッドンも相当に変わりましたし、トライアンフに至ってはゼロからの復活を遂げたのですが、かつてはベテランを主な対象とした頑固一徹のメーカーだったBMWが、現代のように老若男女から支持を集めるメーカーになるとは、若き日の私は夢にも思いませんでした。
ちなみに、1980年代中盤のBMWが販売したモデルが10機種前後だったのに対して、現在の同社のラインアップには約40種類のモデルが並んでいます。
パワーユニットに注目すると、1980年代はフラットツイン(水平対向2気筒)と縦置きクランクの直列4気筒、直列3気筒の3種類のみでしたが、現在はフラットツイン、並列2気筒、単気筒、並列4気筒、さらに並列6気筒、電動も存在します。
■社運を賭けた、バクチの成功
前述したように、かつてのBMWは頑固一徹にして伝統を重んじるメーカーでした。ただし私が2輪に目覚める前から、ユーザー層の拡大を意識した改革は行なわれています。
具体的な話をするなら、1960年代以前の同社はライバル勢の動向をほとんど気にせず、第1号車の1923年型「R32」をひたすら熟成……と言いたくなるスタンスで進化を遂げて来たのですが、1969年には北米市場での成功を念頭に置いた「R75/5」、1982年には既存の空冷フラットツインとはまったく異なるモデルとして、水冷直列4気筒と3気筒エンジンを搭載する、まったく新しい「K」シリーズを世に送り出しているのです。
とはいえ、BMWが本格的に変わり始めたのは、1993年に同社のフラットツイン史上最大の革命車となる、全面新設計の「R1100RS」を発売してからでしょう。誤解を恐れずに言うならこのモデルを契機にして、BMWは伝統を重んじる姿勢に決別し、革新的な技術を積極的に取り入れていくようになったのです。もっともその変化は、見方によっては社運を賭けたバクチだったのですが、賭けは見事に成功し、以後の同社は他メーカーに先駆ける形で、多種多様な新技術を導入することとなりました。
■「R1100RS」以前と、以降の違い
さて、ここまではBMWの変遷をざっくり記してきましたが、以下では私自身の印象、1995年から2輪メディアの仕事を始め、試乗という形で1960年代以降の同社の歴代主要モデルの多くを体験した私の視点で見た、「R1100RS」前後の変化を記したいと思います。
まずは乗り味の話をすると、かつてのBMWは、腕のあるライダーが乗ればスペックからは想像できない速さを発揮する一方で、経験の浅いライダーには鈍重、あるいは、クセが強くて乗りづらいバイクでした。
ベタな表現をするなら、“わかる人にはわかる”と言いたくなる特性で、当時の同社は“わからない”ライダーを相手にしていなかったのです。ところが、「R1100RS」以降は姿勢が一転し、誰が乗っても速く走れて、自分のスキルが上がったかのような錯覚を味わわせてくれるようになりました。
この変化をどう感じるかは人それぞれですが、自分のスキルが上がったかのような感触を嫌がるライダーはいないでしょう。逆に言うなら、そういった特性を多くのモデルで実現できたからこそ、「R1100RS」以降のBMWは支持層を大幅に拡大できたのだと思います。
■まさに、尋常ではない進化
続いてはモデルチェンジの話です。大幅な仕様変更を受けた新型が、旧型を上回る性能を備えているのは普通の話ですが、かつてのBMWにはあえて旧型に乗り続けるライダーが大勢いました。パワーが上がろうがカウルがつこうが、「俺はこれがいいんだ」という感じで。
でもそういうライダーは、「R1100RS」以降は少なくなりました。理由は至って単純で、モデルチェンジ時の進化が尋常ではなくなったからです。私は過去に、R1100から1250に至る「GS」シリーズや、スーパースポーツモデル「S1000RR」の新旧比較を何度か体験していますが、旧型に乗り続ける理由を見つけるのは困難でした。
言ってみれば、「R1100RS」以降のBMWは、新型が出たら、ほとんどのライダーが乗り換えたい(?)と感じる性能を備えていて、だからこそ近年の同社は好調なセールスを記録しているのです。
しかし……もちろんその姿勢はメーカーとしては正しいのですが、昔から1台を長く愛用するライダーを尊敬し、「R50」や「R75/5」、「R100RS」などを数十年に渡って乗り続けるマニアが周囲にいる私としては、昨今のBMWの手法には、そこはかとない寂しさを感じます。
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