“もっとも凶悪なSUV”と、いっていいのか、と悩ませるほど、ジープの「グランドチェロキー トラックホーク」はスゴい。大排気量のV型8気筒エンジンを搭載し、巨大なエアダム一体型バンパーに大きな20インチ・ホイールを組み合わせる。見た目もさることながら、実際の走りも、迫力あふれた“マッスルカー”ならぬ“マッスルSUV”だった。
【主要諸元】全長×全幅×全高:4890mm×1980mm×1800mm、ホイールベース:2915mm、車両重量:2470kg、乗車定員:5名、エンジン:6165ccV型8気筒OHVスーパーチャージャー付(710ps/6200rpm、868Nm/4700rpm)、トランスミッション:8AT、駆動方式:4WD、タイヤサイズ:295/45ZR20、価格:1330万4000円(OP含まず)。マフラーは左右2本ずつ、計4本出し。タイヤサイズは295/45ZR20。ブレーキキャリパーはブレンボ社製。トラックホークの日本導入は、2019年5月である。従来からの「グランドチェロキー SRT8」のさらに上をいくモデルとして登場した。本国におけるラインナップで、もっとも高性能なモデルである。
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トラックホークが、その名に“トラック(レース場)”を含むことからも、いかなるクルマを目指し、開発されたかが容易にわかるだろう。主たる目的は走行性能の向上である。ゆえに、最高出力710psを発揮する6.2リッターV型8気筒OHVエンジンを搭載するのだ。しかもこのエンジン、スーパーチャージャーを備えている。
テールゲートには、トラックホークをあらわす専用バッヂが備わる。スポーティかつラグジュアリーなインテリア実際乗り込むと、着座位置は高い。ひとによっては、「ちょっとエラくなったかもしれない」と、錯覚をおぼえてしまうかも。トラック並み、と、表現してもいいだろう。
トラックと記したが、あくまでそれは着座位置についてである。インテリアのつくりは、ゴージャスなSUVやセダンなどと遜色ない。私が試乗したモデルには、あざやかなレッドレザーがふんだんに使われていたのが印象的だった。ダッシュボードも、上面こそオーソドックスなブラックであるが下半分はレッドだったし、シート表皮もレッドだった。
シート表皮はレザー。インテリア・カラーはレッドのほか、ブラックも選べる。シートのバックレストには、トラックホークのロゴ入り。リアシートのバックレストはリクライニング機構およびヒーター機能付き。リアシート専用のエアコン吹き出し口やUSB端子もある。計器盤に目をやると、中央に陣取っているのが回転計だった。多くのスーパーカーとおなじ配置である。スポーティ感がバリバリと押しだされているではないか!
6000rpmからレッドゾーンが始まるというのも”トラックばなれ”している。半円形の速度計はというと、回転計のとなりに、すこし遠慮がちに配されていた。ただし最高速の数字は“320km/h”と、フツウではない。
速度計部分のみデジタル表示のメーターパネル。走行モードのくわしい情報は、インパネ上部のインフォテインメントモニターに表示される。サーキット走行を意識した走行モードも選べる。走行関連の設定も、インパネ上部のインフォテインメントモニターで操作する。それがこけおどしとも、ある種のユーモアとも異なるのは、走り出せばすぐにわかる。なんてたって最高出力は710ps、最大トルクは868Nmである。
とくに最大トルクは4700rpmで発生するので、アクセルペダルを踏み込むと、エンジン回転があがっていくにつれ、息もつかせずに速度が上昇していく。車重が2470kgもあるモデルとは思えぬ加速力だ。
そして、ドライバーがより興奮させられるのは、3000rpmを超えたあたりからである。スーパーチャージャーの存在を強調するかのような、甲高い音がエンジン・ルームからインテリアに侵入するのだ。ほかの音にたとえるのがむずかしい、独特な音である。この音と、そして圧倒的な加速感が、高揚感を上乗せしてくれるのだ。
サスペンションはビルシュタイン社製。搭載するエンジンは6165ccV型8気筒OHVスーパーチャージャー付(710ps/6200rpm、868Nm/4700rpm)。トランスミッションは電子制御式8AT。パーキングブレーキは、今となっては珍しい足踏み式。電子制御式4WDのスウィッチはセンターコンソールにある。3000rpmもまわすと、とてつもない速度域に突入してしまうため、市街地では、なかなかこの音を聞けないはずだ。
ちなみに、搭載する6.2リッターV型8気筒OHVエンジンは「チャレンジャーSRTヘルキャット」にも搭載されているユニットである。前輪のグリップを凌駕するほどの大トルクで後輪を前に押しだすのは、チャレンジャーもグランドチェロキーも変わらない。この圧倒的な加速力に、多くのクルマ好きは、環境のことが気になりつつもグッと惹かれてしまうのだ。
ライバル不在?ハンドリングについては、小さなコーナーが連続するワインディングロードを経験していないので、はっきりしたことは言えないが、首都高を走りまわったかぎりは、ダイレクト感があり、かつ中立付近でも敏感で、切り込んでいったときのボディ・ロールはよく抑えられていた。
背の低いモデルとは明確に異なるオフローダー独特のロール感覚を活かしつつ、それでいて大パワーをしっかり受け止めていた。なお、装着するタイヤは、ピレリPゼロのスリーシーズンタイプである。
このタイヤが、どこまでスポーツドライビングを許容してくれるかはっきり言えないのが申し訳ないが、なにはともあれ、日常的なドライブなら、たっぷりと特別なドライブ体験を味わわせてくれる。
最小回転半径は5.7m。また、タンク容量は93リッター。インテリアの各所にカーボンファイバーパーツが使われている。パドルシフト付きのステアリングホイールは専用デザイン。8.4インチのインフォテインメントディスプレイはタッチパネル式。ナビゲーションシステムも搭載する。バックカメラやフロント/リアの超音波センサーは標準。フロント部分にあるカメラを利用した先進安全装備(衝突軽減ブレーキなど)も複数搭載する。価格は1330万4000円。近い価格で、かつ荷室も大きく、同時に710psの最高出力と868Nmの最大トルクに匹敵する性能を有するSUVやオフローダーがほかにないか考えた。
メルセデスAMGであれば「GLE43 4MATICクーペ」(1240万円)がある。全長4890mmのボディに390psの最高出力と520Nmの最大トルクを発揮する3.0リッターV型6気筒エンジンを搭載している。が、ボディ形状もパワーもだいぶ異なる。
よりパワフルなモデルとして「GLS63 4MATIC」(1977万円)や「G63」(2076万円)もあるけれど、価格差が大きい。
オーディオ・システムはハーマンカードンのプレミアムサウンドシステムを搭載する。開口部の広い大型電動サンルーフも備わる。リアシートのバックレストは40:60の分割可倒式。ラゲッジルームのフロア下スペースは、スペアタイヤがほとんどを占めるもの、小物入れもわずかにある。電動テールゲートのスウィッチはラゲッジルームサイドにあるため、背の低い人でも使いやすい。BMWは「X6 xDrive50i M Sport」(1383万円)が思いつく。450psの最高出力と650Nmの最大トルクを発揮する4.4リッターV8ユニットを、4925mmのボディに載せるが、こちらもエクステリア・デザインは、GLE43 4MATICクーペとおなじくクーペライクだ。ゆえに、グランドチェロキーとはコンセプトが異なる。
ほかにも調べたが、思い当たるライバルはなかった。当初、「グランドチェロキーにもかかわらず1330万4000円は高価では?」と、思ったが、性能や仕様や価格、そしてライバルが思いあたらないほどの独創性を考えると、価値あるモデルなのだ。ゆえに、日本に導入されたのも納得である。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)
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