剥き出しで走り、敢えてストレスを共にするモーターサイクルの魅力とは何か?エンジン時代からモーター時代へと移り変わろうとする今だからこそ“個性ある味わい”を探すために、3台のヨーロピアン・モーターサイクルを走らせてみた。
澄み切った静寂があるからこそ理解できるツインエンジンの鼓動感とサウンド
ボルボの次世代EV「コンセプト・リチャージ」が示す自動車電動化のあるべき姿
スウェーデン北部の都市、キールナから車で約15分走るとユッカスヤルビと言う小さな村に到着する。そこには予約がなかなか取れないことでも知られる「アイスホテル(Icehotel)」がある。あるとき、幸運にもその貴重なホテルに宿泊できると分かったときは、少々興奮したのを覚えている。1989年にオープンして以来、世界中から観光客が訪れ、宿泊は適わずとも、見学だけでもいい、と言われるほどの人気のホテルに泊まれるのだから「なんとも幸運」と、周囲からも言われた。
そしてついにその日はやって来た。凍てついた北欧の地を終日走り回り、ようやくたどり着いたアイスホテル。受付カウンターには日本人スタッフもいたし、その傍らにはなぜか招き猫が置かれていたことを覚えている。まぁ、それほどに日本人も多かったと言うことなのだ。チェックインを済ませ、いよいよ氷と雪で作られた部屋に通された。床は雪で固められ、それ以外は壁も天井も、そしてベッドもすべて、青白く光る氷。直接照明は最小限に抑えられ、ほとんどが氷を通しての間接照明だ。当然だが暖房はないし、オーディオの類いもなかった。氷のベッドの上に敷かれた木製の簀の子と、その上にトナカイの毛皮が1枚だけが、まるで場違いの異物のように置かれている。雪国育ちではあり、かまくら遊びも経験はあるが、さすがにこれほどの氷詰めは初めてである。
食事を済ませ、いよいよ就寝となり、トナカイの毛皮の上に用意されたシュラフに潜り込む。顔以外は想像以上に暖かく、かなり快適である。昼間のドライブの疲れもあって、すぐに眠れるかと思いきや、なかなか寝付けない。青白い光に包まれるという初めての経験もあったが、それ以上に静寂、いや無音に近い状況が怖かった。まったく音の無い世界が、驚くほど精神を覚醒させていた。風の音すらしない、自分の呼吸まで聞こえてきそうな空間で、まんじりともせずに1時間ほど青白い天井を見つめていた。そして、ついに耐えられなくなって、あろうことかアイスホテルの横に建つ、暖房もテレビもある小さなログハウスのようなコテージの一室に移動してしまったのだ。実は同じように不安定となり、眠れない人のためにも、そのコテージは用意されているとのことで、自分だけではないことを知り、少しだけ安心した。
避難したその部屋は天井の一部がガラス張りで、オーロラが出現したらすぐに分かるような作り。風の音も、ガラス窓の振動も伝わってくる。そこでテレビを付けながらぼぉ~っと天窓から「オーロラ、見えないかなぁ」と考えた途端に眠りに落ちてしまった。
本来、多少の外的要因と言うか、音や振動などと言ったストレスがないと、かえって精神的に不安になるのではないか。そんな風に感じた北欧の一夜であった。
そして最近、仮にBEV(電気自動車)全盛となっても、人間には五感を刺激する何かしらの走行感がないと、かえって不安になるのではないだろうか、とさえ思うときがある。とくにエンジンのサウンドや振動という外的要因は、むしろ心地よくさえ感じるのではないかと思うのは、単なるノスタルジーなのだろうか?
そんな経験を思い出しながら、日本自動車輸入組合(JAIA)が大磯で開催した恒例の二輪車試乗会で3台のモーターサイクルをセレクトした。それはすべて2気筒のモデルであった。本来、全身を剥き出しで、鉄の馬に跨がって走るようなモーターサイクルにとって、音や振動や風は、否応なしに付いてくるもの。だが、ライダーの多くは、その騒々しいストレスをむしろ心地いいとさえ言う。その感覚はちょうどスポーツを楽しむ感覚に似て、ぶつかり合い、汗を流し、そして筋肉に疲労を与え続けることで精神的安定を得る。ようするにモーターサイクルに乗ること自体がスポーツであり、非日常であり、特別な時間なのである。
三車三様のエンジンとその鼓動感の魅力
ではその特別な時間に乗るべきモーターサイクルはどう選ぶか? 個人的な好みでもあるが、スピードよりもリズミカルなサウンドと振動に身を委ねたいと思う。そしていつも選ぶのがシングル、そして2気筒エンジンである。もちろん足つきが良く、取り回しも楽で不安を感じることのない状態は必須であり、その上でモーターサイクルとの時間を楽しみたいのである。
●BMW R nineT
最初に走り出したのは「BMW R nineT」である。モーターサイクルと言えば、都会の喧噪を抜け、自然の中へ、と多くの人は考える。少々オーバーに言えば荒野とモーターサイクルはとても相性がいい。ところが極上の自由を町でも感じることが出来るのがBMW R nineTなのである。それを可能にしているルックスは無駄を徹底して省いたシンプルさが特徴で、カジュアルにしてクール。たとえば丸の内の仲通りあたりに乗り付けても、1200ccというビッグバイクでありながら威圧感を感じさせることなく、佇まいのすべてが先端の街に溶け込む。
そしてもうひとつの個性である空油冷4ストロークの水平対向ツインエンジンはフラットツインと言われ、ボクサーエンジン独特の鼓動感とサウンドを奏でる。さらに低重心であることによって街の中でも実に安定感があり、ヒラリヒラリと扱えるのである。もちろん街から抜け出したいと願えば、そのゆとりあるパワーと安定感のある走りによって、どこまでも駆けていけるのである。
クラシックなロードスターモデルには最新にして高品質の素材を用いて仕上げている。
1,170cc、109馬力のボクサーエンジンは4,000回転~6,000回転の領域でフラットなパワーとトルクで扱いやすい。
アナログ式のスピードメーターとタコメーターによってクラシカルな味わいを演出。
絞り込まれたシート形状によって足つき性も向上し、ボディとの一体感を生む。
●モト・グッツィ・Vツインスペシャル
次に跨がったのはビンテージスタイルの中にエレガンスを感じさせるモダンな雰囲気の「モト・グッツィ・Vツインスペシャル」。V7シリーズのなかでもワイヤースポークホイールに少し大きめのスクリーン、そしてエンジンガードやリアのキャリアなどが追加され、クラシカルな演出が施された仕様だ。
正面から見て90度のV型となる853cc空冷V型2気筒エンジンは軽やかに回転を上昇させる。65馬力ではあるがまったく不足を感じさせることもなく、走りを楽しむことが出来る。BMWの水平対向2気筒エンジンよりは鼓動感もサウンドも少しおとなしめだが、それは排気量が小さいことにも影響しているのかもしれない。そしてV7シリーズはチェーンやベルト駆動ではなく、縦置きクランクシャフト駆動を採用。その独特の操作感はオーナーに特別な歓びを与えるはずである。
ウインドスクリーンとクロームメッキのグラブレールなど、スペシャルのみが標準装備となる。
リアのステーなど、全体をクラシカルの演出している。
90度V型ツインエンジンとシャフトドライブのフィールは独特
速度計内の液晶画面には外気温、時刻、トラコン、積算計、距離計、走行時間、そして平均燃費や瞬間燃費が切り替わる。
●トライアンフ・ストリートツイン
鼓動感を感じるためのモーターサイクル選びの仕上げは「トライアンフ・ストリートツイン」だ。エンジンは900ccの横から見て地面に対して垂直に立っているバーチカルツイン。名車カワサキのW650なども、この伝統的なエンジン形式であり、独特の味わいを持っている。昔は4気筒のマルチエンジンの、まさにモーターのようなスムーズで強烈な加速感ばかりに酔いしれていた身とすれば、このストリートツインのドコドコという鼓動感と、スタッカートのように切れのいい破裂音は、まったく別の心地さとして響いてくる。
そしてなにより細身で軽量なボディは、足つきもいいし、体との一体感も大きな魅力だ。リターンライダーをもし決めたなら、まずはストリートツインを走らせてみるといい。これまでずっと乗ってきた、慣れ親しんだその感覚は、まさに驚くほどの一体感なのだ。もし人生最後にバイクを所有しようと思い立ったら、その候補の最右翼にくる。
見るからに軽量で細身、扱いやすいことがわかる伝統的なボディデザイン。
フロント18インチ、リア17インチのタイヤを装備。直進安定性能を向上するためのタイヤサイズ設定。
正統派マシンが持つモダンでクラシックな佇まいと歯切れのいいサウンドを楽しめる。
シンプルな丸形メーターは視認性よし。スピードメーターはアナログ式で、タコメーターは液晶デジタル表示される。
こうして3台のツインエンジンを乗り比べて見たのは、別に甲乙を付けるためではない。どのビートも振動も走行感も個性的であり素晴らしいものであることは間違いないのだ。一方で、あのアイスホテルで感じたような、どこまでもクリーンな静寂の中では、どのサウンドを響かせたら心地いいだろうか?などと妄想してみたりもした。もちろん騒音はごめんであるが、この3台が奏でるサウンドやビートが創り出す世界には、たぶん不快さはないはずである。いや、それ以外のアメリカンにも日本製にも魅力的な存在はまだまだあることを思えば、楽しみはさらに広がるだろう。唯一の不安があるとすれば、この先、モーターが主役になったとき、なにを持ってして「モーターサイクルはやっぱりいいなぁ」と感じさせてくれるだろうか?である。
スペック
●BMW R nineT
(価格)2,270,000円~(税込み)
<SPECIFICATIONS>
ボディサイズ全長×全幅×全高=2,105mm×870mm×1,100mm
車重:224kg
シート高:805mm
駆動方式:シャフトドライブ
トランスミッション:リターン式6速
エンジン:空油冷4ストロークDOHCボクサーエンジン2気筒1,169cc
最高出力:80kw(109PS)/7,250rpm
最大トルク:116Nm(11.8kgm)/6,000 rpm
問い合わせ先:BMWカスタマー・インタラクション・センター 0120-269-437
●モト・グッツィ・Vツインスペシャル
(価格)1,320,000円~(税込み)
<SPECIFICATIONS>
ボディサイズ全長×全幅×全高=2,165mm×――mm×1,100mm
車重:203kg
シート高:780mm
駆動方式:シャフトドライブ
トランスミッション:リターン式6速
エンジン:4ストローク空冷90°V 型2気筒OHV 2バルブ853.4cc
最高出力:48kw(65PS)/6,800rpm
最大トルク:73Nm(7.4kgm)/5,000 rpm
問い合わせ先:https://motoguzzi-japan.com/dealer.html
●トライアンフ・ストリートツイン
(価格)1,164,500円~(COBALT BLUE/税込み)
<SPECIFICATIONS>
ボディサイズ全長×全幅×全高=――mm×780mm×1,115mm
車重:217kg
シート高:765mm
駆動方式:チェーン
トランスミッション:リターン式5速
エンジン:水冷SOHC並列2気筒 900cc
最高出力:48kw(65PS)/7,500rpm
最大トルク:80 Nm(8.2kgm)/3,800rpm
問い合わせ先:トライアンフコール 03-6809-5233
TEXT : 佐藤篤司(AQ編集部)
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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みんなのコメント
1,200㏄で100馬力超だと、ずっと鼓動感は強いのでは?
ルマン(実際のところは950㏄)も4,500回転当たりまでは強い鼓動感を(排気音は意外と歯切れが悪い)、それより上ではドドドドッというワイルド感を堪能出来ました(パワーは78馬力しかないんだけど、感覚的にはR100RSの倍くらいに感じる)。850㏄でも結構鼓動感は有るのでは?
ビンょ〜ん!って走るんだぞ。