■性能だけでなく優れた素質をもった名エンジンたち
いま、自動車メーカーは電動化を進めており、純粋な内燃機関のみを搭載するクルマは、ますます減っていくと予想されます。
しかし、エンジンが動く様はまるで生き物のようで、音と振動は心地よさを感じることさえあります。
そこで、いまも語り継がれる優れたエンジンを5台ピックアップして紹介します。
●トヨタ「4A-GE型」
トヨタのスポーツ系エンジンは伝統的にDOHCでした。古くは「TE27型カローラレビン」などに搭載された1.6リッターの「2T-G型」や、初代「カリーナ」などに搭載された2リッターの「18R-G型」が、代表的な存在です。
しかし、これらのエンジンはOHVのエンジンブロックにDOHCのシリンダーヘッドを載せて作られたため、専用設計ではなく、大きく重くなっていました。
そこで、1983年に発売された「AE86型カローラレビン/スプリンタートレノ」(以下レビン/トレノ)に、SOHCをベースにDOHC化した1.6リッター直列4気筒の新型エンジン「4A-GE型」を搭載。
エンジンブロックは鋳鉄のままでしたが2T-G型よりも格段にコンパクトになり、直打の4バルブとしたことで軽量化と高回転化を実現し、最高出力130馬力(グロス)を発揮しました。
ボア×ストロークが81mm×77mmとショートストロークだったため回転の吹け上がりも良く、多くの4A-GE型ファンを魅了。
その後FFとなったレビン/トレノやミッドシップの「MR2」にも搭載し、スーパーチャージャーが装着され、1991年には5バルブとなるなど進化を続けます。
レースやチューニングのベースとしても秀逸でしたが、2002年に「スプリンターカリブ」の生産終了をもって4A-GE型の歴史は幕を閉じました。
●日産「L型6気筒」
日産の名エンジンといえば「RB26DETT型」「SR20DET型」「VQ型」など数多くありますが、なかでも「L型」はミドルクラス以上の日産車に搭載され、長く親しまれてきました。
L型6気筒を最初に搭載したのは、1965年に発売された2代目「セドリック」の「スペシャル6」でした。2リッターの「L20型」で、SUツインキャブが装着され最高出力115馬力を発揮します。
L型はSOHC2バルブで、カムシャフトをチェーンで駆動し、特徴的だったのは吸気系と排気系が同じ場所(シリンダーヘッドの左側)に位置する「ターンフロー」と呼ばれるレイアウトでした。
このターンフローは高性能化には不向きとされていましたが、構造が比較的簡単なためシリンダーヘッドを小型化でき、発電機やパワステアリングポンプなど補機の配置にも有利でした。
また、コンパクトなエンジンということで搭載するクルマの自由度も上がり、「スカイライン」や「フェアレディZ」「ブルーバード」など多岐にわたりました。
排気量のバリエーションは2リッター以外に、2.4リッター、2.6リッター、2.8リッターがラインナップされ、後に国産車初のターボエンジンも加わります。
さらに、2.8リッターのディーゼルエンジン「LD28型」が1979年に登場すると、当時としては高速型と呼ばれ、スカイラインにも搭載されました。
構造が単純なことでレースやチューニングのベースとして使用されるようになると、高性能化には不向きだったはずが高度なチューンナップによって、自然吸気でもリッターあたり100馬力を超えることができました。
こうして、1984年に新開発された「RB型」が登場すると、L型の生産は急激に減り、1986年から1987年にかけて廃止となります。
●三菱「4G63型」
三菱を代表する高性能車といえば「ランサーエボリューション」ですが、搭載されたエンジン「4G63型」も名機と呼ばれます。
始まりは1981年の輸出用「ランサーターボ」に搭載された2リッター直列4気筒SOHCターボでした。その後「スタリオン」や「ギャラン」シリーズに搭載されると、一気に高性能化されたのが、1987年に発売された「ギャラン VR-4」です。
ギャラン VR-4に搭載された4G63型はDOHC4バルブ化されたターボ仕様で、最高出力205馬力を発揮。4気筒エンジンとしては突出した性能でした。
そして、1992年に「ランサーエボリューション」が発売され、出力も250馬力までアップ。ランサーエボリューションはギャラン VR-4ではなし得なかった、世界ラリー選手権(WRC)制覇を目的として開発されたクルマです。
そして、毎年のように改良が加えられると、1996年発売のランサーエボリューションIVで、ついに280馬力までパワーアップします。
そして、2006年に登場したランサーエボリューションIX MRをもって、4G63型を搭載するランサーエボリューションは最後となります。
ランサーエボリューションはWRCを制覇するだけでなく数々のレースでも好成績を残したことで、4G63型の高いポテンシャルが証明されました。
■30年の歴史に幕を下ろすスバルの名機
●ホンダ「F20C型」
ホンダは自動車製造が始まっていないころから、レースを戦いながら、その技術を市販向けにフィードバックしてきました。
1980年代から1990年代にかけてF1にエンジンを供給してきたことや、「VTEC」に代表される高回転・高出力なエンジンを多数生み出してきたこともあり、「ホンダ=エンジン屋」というイメージが定着します。
ホンダが誇る数々の高性能エンジンのなかでも集大成ともいえるのが「F20C型」で、このエンジンを搭載したのが1999年に発売されたオープンFRスポーツの「S2000」です。
S2000は1970年に生産終了した「S800」以来となるホンダのFR車で、すべてが新たに設計されるなど、ホンダ創立50周年を祝うメモリアルカーという意味合いもありました。
F20C型2リッター直列4気筒エンジンは自然吸気でありながら250馬力を発揮し、レッドゾーンは9000rpmと、市販車のエンジンとしては驚異的な高回転・高出力なものとなっていました。
これほどまでの高回転・高出力エンジンは、ひと昔前のレーシングカー並で、それを市販車に搭載するということは最低でも10万km走行を保証する必要があり、高い技術力が要求されます。
エンジンは途中から2.2リッターに排気量がアップされたF22C型となり、F20C型ほどの高回転エンジンではなくなりましたが、それでも十分にパワフルでそのうえ扱いやすくなり、国内外のファンから愛されました。
S2000は発売から10年後の2009年にフルモデルチェンジすることなく生産を終了し、F22C型も同時に生産を終えます。
●スバル「EJ20型」
2019年9月25日、スバルは主力エンジンである「EJ20型」2リッター水平対向4気筒の生産を2019年度中に終了すると発表しました。
EJ20型エンジンは、1989年に登場した初代「レガシィ」に搭載されて以来、約30年に渡ってさまざまな車種に採用され、WRCやニュルブルクリンク24時間レースをはじめとするモータースポーツでの活躍にも大きく貢献しました。
初代レガシィRSのEJ20型ターボは220馬力を発揮し、レガシィは高性能セダン/ステーションワゴンのポジションを確立します。
そして、三菱ランサーエボリューションと同様にWRC制覇を目的としたインプレッサWRXが1992年に発売され、EJ20型も一気に進化します。
当初240馬力だったエンジンは1996年には280馬力に到達。さらに2002年に発売されたSTIのコンプリートカー「S202 STi Version」では320馬力を発揮しました。
その後、2014年にインプレッサWRXは「WRX」という車名で独立し、高性能版の「WRX STI」では308馬力が標準となり、2017年に450台限定で発売された「S208」ではEJ20型で最高となる329馬力までチューニングされました。
このS208のエンジンは、回転機構の主要パーツの重量をひとつひとつ精査して組み上げた「EJ20バランスドBOXER」と呼ばれ、出力だけでなく回転フィーリングにもこだわっていました。
そして、前述のとおりEJ20型の生産終了がアナウンスされ、その最後を飾る「WRX STI EJ20 Final Edition」が555台で限定販売されます。
このEJ20 Final EditionにはS208と同様なEJ20バランスドBOXERが搭載され、EJ20型の30年にわたる歴史が終了します。
※ ※ ※
EJ20型は30年にわたって生産され、長寿のように思えますが、じつはエンジンの場合は珍しくありません。
新型エンジンの製造では莫大な設備投資がおこなわれるため、長い期間製造する必要があるためです。
たとえば、日産のL型がRB型に変わって完全に新型になりましたが、実際はL型用の製造設備の多くがそのまま使えるように設計されていました。
つまり、単に性能面だけを追求するのではなく、陳腐化せずに長く使えるエンジンの設計が要求されるということです。
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