自動車の暴走事故が発生すると、高齢者ドライバーの「ペダル踏み間違え」が問題視されるが、必ずしも高齢ドライバーだけの問題ではないのだ。不幸な事故を根本的に防止するためには、踏み間違えを起こさせないペダル配置などの工夫が必要なのだ!
※本稿は2023年6月のものです
文/水野和敏、写真/ベストカー編集部、メイン画像/Adobe Stock(@happy Wu)
初出:『ベストカー』2023年7月10日号
踏み間違え事故はなぜ起こる? 運転手だけの問題ではない近代車に潜むワナとは?
■「ペダル踏み間違え」をするのは高齢者だけではない
「踏み間違い自体はどの世代にも起こりえる」と水野氏は警鐘を鳴らす
今回はペダルの踏み間違えを防ぐにはどうしたらいいのか? と、高齢ドライバーの免許返納の問題などについての話をしたいと思います。
高齢者ドライバーというと、暴走事故が問題として取り上げられます。この高齢者の暴走事故には、必ず「ペダル踏み間違え」がセットで関連しているかのように報道されます。
しかしペダル踏み間違えは、高齢ドライバーだけの問題なのでしょうか?
暴走事故が発生するとしばしば「高齢ドライバー」が「ペダル操作を誤った」と報道され、テレビや新聞などで解説をする専門家も、その原因として「高齢ドライバーのペダル踏み間違え」とひとくくりにします。
しかし、警察庁のデータを見ると、高齢ドライバーが踏み間違え事故を起こした件数と、免許取得後3年以内の現役世代ドライバーが起こした件数は、ほぼ同じなのです。
ところが現実問題として高齢ドライバーはそれが重大な事故に繋がるケースが多く、現役世代のドライバーは、重大事故になる前に食い止められているケースが比較的多いのです。
それはなぜなのでしょうか?
■電制スロットル時代になって危険度は増した
ECUのデータを解析すると、アクセルペダルの開度に対するスロットルの開度がわかる。ペダルはハーフでも、スロットルはやや多めに開く「早開き」をしてレスポンスのよさを演出するのだ
このように、高齢者だけでなく現役世代でも同程度起こしている「ペダルの踏み間違え」は、ペダル配置や、パワートレーンの駆動力と、それを制動する能力など、クルマのハードも含めた対策をはかっていく必要があります。
一方、暴走を止められず、重大事故に繋がっている高齢運転者には踏み間違えなど緊急事態が起きた時、停車させるために必要な身体能力などを明示し、高齢運転者が自己管理や判定ができるツールの整備や展開を図る必要もあります。
「ペダルの踏み間違え」と「緊急事態での停車能力」、それぞれが本質に戻って暴走事故防止を図る必要があります。
しかし現在は、「高齢者による暴走事故」という一緒くたの報道や対策がほとんどです。
ところでみなさん、薄々は気が付いているでしょう?
暴走事故を起こしたクルマは、比較的特定の車両に集中しているという情報をしばしば聞きます。
クルマ側の対策にも踏み込んでいかないと、暴走事故を未然に防ぐ効果的な対策はできません。電動化やダウンサイジング過給エンジンなどで、発進時の駆動力が著しく向上している近年ではなおさらです。
ひと昔前まではスロットルとアクセルペダルはワイヤーで直接繋がり、アクセルペダルの踏み加減がそのままスロットルの開度でした。
ペダルを10%踏めばスロットルも10%開く。アクセルペダルを半分踏み込めばスロットルも半分開く。スロットルを全開にするには、アクセルペダルを床のストッパーまで踏み込みました。
しかし、今のクルマは「バイワイヤーシステム」になり、アクセルペダルとスロットルは、電気の信号線だけでつながっています。
アクセルペダルの踏み加減は電気信号でECU(エンジン制御コンピューター)に伝えられ、スロットルはECUからの指令でステップモーターによって開閉されます。
アクセルペダルを踏み込んだ瞬間にグッとトルクが立ち上がる演出をするために、踏み込んだ瞬間にいったんスロットルを大きく開く制御をしているケースは、実際多いです。
例えばアクセルペダルを、半分(50%)踏み込むとします。ゆっくりと静かに踏み込んだ場合には、ECUは「ドライバーは緩加速をしたいのだな」と判断し、比較的ゆっくりとスロットルを開く指示をします。
一方、半分の踏み込みでも素早くアクセルペダルを踏んだ場合、「ドライバーは急加速を求めている」とECUが判断し、いったんスロットルを全開にしてグイッと加速させた後に、スロットルを半分の開度に戻す制御をしています。
これが「スロットルの早開き」です。特にダウンサイズターボエンジンや、小排気量の自然吸気エンジンでは、多くが採用しています。
ここが問題なのです。
「ペダルの踏み間違え」というと、皆さんイメージとしては、ブレーキペダルを踏んだつもりが、アクセルペダルを踏んでしまい、突然意図しない加速が起こり、その減速のためにブレーキだと思い込んでいる、アクセルペダルをさらに踏み込み、暴走事故が起こった、と思われているでしょう。
もちろんそのような事案もありますが、多くの場合、ブレーキペダルを、通常よりも少し右側にずれて踏んだため、右足靴の側部がアクセルペダルも同時に踏んでいる、いわゆる「共踏み」状態になって異常な加速が起こった、という状況が多いのです。
通常アクセルよりブレーキペダルは、速く踏み込むので、共踏みされたアクセルペダルはECUに「スロットルの早開き」を指令し、その結果、強い駆動力になり、急ブレーキを踏める脚力(踏力)がないとクルマは止まれなくなります。
■モーターの大トルクを止めるためのブレーキ踏力は?
水野氏が提唱する「30cm幅の階段を昇り降りできるか?」のチェック。30cm幅のスペースで階段の昇り降りができれば、足元の空間認識能力やブレーキペダルを60kgで踏める身体能力があることがわかる
さらにEVに限らず、ハイブリッド車でもモーターの駆動ではさらに急発進時のブレーキは難しくなります。
モーターのトルクの立ち上がりは急激で、回り始めた瞬間に最大トルクを発生します。モーターの性能にもよりますが、50~60kgmのトルクで急激に動き始めるのです。これはGT-Rの最大トルク並みです。
この駆動力で走ろうとするクルマを停止させるには、ブレーキペダルを60kgf以上の踏力で踏む必要があります。日常、信号でクルマを停止させるブレーキの踏力はせいぜい10kgfから20kgf程度です。60kgfの踏力は、現役世代でも思い切り体重をかけてブレーキペダルを踏むほどの踏力です。
ちなみに、新型車の型式認証試験では、温めて効きをよくしたブレーキを、約80kgfの踏力でペダルを踏み、停止性能の認証や公表をしています。
しかし60~80kgfの踏力は、簡単には出せません。大トルクで走り出そうとするクルマを止めるためには、強力な踏力でブレーキペダルを踏む必要があります。
しかも長時間駐車後の走りだしでは、ブレーキが冷えて摩擦力μが低く、効きが低下しています。もっと強い踏力が必要となるのです!!
現在、75歳以上の高齢ドライバーの免許更新では、認知能力試験はありますが、体力測定は不十分です。
実車による運転実技試験に「緊急時の停車能力の確認」はなく、通常の普通運転のみで合格となります。
ペダル共踏み時に、クルマを止めきれるかなどという試験項目はないし、さらに、急ブレーキの実技確認すらありません。
緊急時に急ブレーキが駆けられる60kgfのペダル踏力を出せるためには、最低限でも片足立ちで少し飛び跳ねて自分の体重を支えられる脚力が必要です。
私は以前から提案していますが、高齢者免許更新時の試験に、「30cm幅の枠の中で、階段を6段昇れること」、という身体能力試験を加えるべきだと考えています。
アクセルペダルとブレーキペダルの位置を足の感覚で認知するには、おおよそ20cmの位置感覚が必要です。ちょっと余裕を見て30cm幅のゾーンの中で階段を直視せずに、6段程度昇れるのであれば、ペダルの位置認知能力は大丈夫でしょう。
また、階段の昇り降りをすることで、片足で自重(60kgf程度)を支えられることも確認できます。
実に簡単なテストですが、ブレーキペダルをしっかりと踏み込めるかを確実に見極めることができます。
モーター動力のクルマでペダル共踏みをしてしまっても、60kgf以上の踏力でブレーキを踏めれば、アクセルが全開状態でも、ブレーキで暴走は止められます。
逆に言えば、30cm幅で階段を6段程登れなくなったなら免許返納を決断すべきだ、と言うことです。「急ブレーキも踏めない」自分の身体能力がわかれば、免許返納にも納得ができます。
皆さんご自身の場合もそうですが、例えば高齢の親御さんに免許返納を決断してもらう際にこうしたテストをしてください。
クリアできないようであれば、もう緊急時にクルマを止めることができないのだ、ということで、免許返納に納得してもらってください。
あるいは、ハンディキャップの方などのために、ブレーキやアクセルを手で操作するシステムがあります。これを高齢ドライバーでも愛車に取り付けて操作訓練をして使えるような仕組み作りも必要だと思います。
■踏み間違えが起こりにくいペダル配置が大切
販売店で展示車がある場合など、運転席に座ってペダル配置を確認していただきたい
ペダル踏み間違えは高齢ドライバーだけの問題ではありません。現役世代のドライバーでも踏み間違えは起こります。
例えば駐車場の出口で料金を支払おうと身体を捻った場合。あるいは駐車時など、後退時に後方確認で身体を捻った時などです。腰の位置がずれることで足の位置の認識にずれが生じます。
特に右回りに身体を捻ると、足の位置は全体に右に動き、ブレーキペダルだと思った位置にアクセルペダルがあるのです。
そこまで大きくずれなかったとしても、ブレーキペダルの中央ではなく右側を踏むことで、靴の右側部がアクセルペダルに引っかかる危険が増します。先ほどから言っている「共踏み」です。
これはペダル配置の工夫で大幅に減らすことができます。
いろいろなクルマのペダル配置を見ていくと、明らかに共踏みしやすいペダルの配置だったり、アクセルが異常に軽いクルマがあります。
一方で共踏みの危険が少なく、アクセルも重いペダル配置のクルマがあることがわかります。ショールームに行って運転席に座ってペダル操作してみてください。
駐車料金の支払い程度に体を捩り、ブレーキペダルの中心より少し右側を急ブレーキを想定してブレーキペダルを強く踏んだ時、靴の右側がアクセルペダルと共踏みしないか確認して下さい。
オルガン式アクセルペダルで斜めに配置されているクルマを多く見ます。踏みかえ操作性はよいのですが、同時に、ブレーキペダルを深く踏み込んだ時に、アクセルペダルの下の部分に干渉して、共踏みする可能性もあります。
■まとめ
今回お話をしたように、ペダル踏み間違えは必ずしも加齢が要因だとは限りません。しかし、踏み間違えをしてしまった際に、ブレーキペダルを踏み込んでクルマを止められるかは、身体能力が大きくかかわってきます。
ご自身の身体能力をしっかりと見極めて、運転免許を返納するという決断も大切です。30cm幅の階段を6段登ることができなければ、急発進したクルマを安全に止めることはできないのです。
【番外コラム】暴走事故を誘発するシフトレバーの操作性
最近のクルマでは、シフトセレクターのレイアウトや方式はさまざまで、誤操作の要因となる
誤操作による暴走事故の大きな要因がシフトレバーです。
最近は2ペダル車のシフトレバーは、新しさとユニーク性の演出するため、実に多彩なレイアウトや仕様が存在します。
20年前であれば、2ペダルAT車のシフトレバーは基本的にはフロアシフトで、上から「P・R・N・D・2・L」の順に並んでいました。ミニバンなどではコラム式もありましたが、並び順は同じで、いずれもレバーは、入れたシフト位置に留まり固定されていました。
ドライバーはシフトレバーの置かれた位置で体感的に現在のシフトポジションを認識できます。
ニュートラル(N)からレバーを引き下げる動作をすれば前進(D)に入り、ここからレバーを押し出す動作をすればNに戻る。Nの上には後退(R)があるけれど、ロックボタンを握るなど、プラスαの誤操作防止の動作をしないとRには入らない構造でした。
しかし、最近のクルマではシフトレバーは単なる電気スイッチになっているので、形状も自由自在ですし、指先で操作できる操作力で軽くて便利です。
ですが、最大の問題点は、選んだシフトの位置にレバーは固定されず、常にレバーはセンターポジションに戻ってしまうということです。シフトポジションはメーター内の小さな記号での確認が必要です。さらにプッシュボタン式のシフトセレクターのクルマも増えてきました。
レバーの位置で現在のシフトポジションが認識できないというのは、「入れ間違い」を誘発します。前進(D)に入れたつもりで後退(R)に入ったままだった、という危険も増します。
Rポジション時には警報音が鳴りますが、案外、ドライバーの耳を素通りしてしまっているのです。そして誤発信したことでパニックになると、ますますシフトポジションがわからなくなって、ニュートラルに入れることすらできなくなってしまうのです。
慣れれば大丈夫、自分のクルマならすぐに慣れる。そんな声も聞きますが、家族で共用するクルマで、別の操作系のクルマも併有していたら、何が起こるでしょう? レンタカーやカーシェアで借りたクルマだったらどうでしょう?
ベンツの、コラム右側からレバーが生えているシフトはかなり特殊なものですが、あれは人間の感覚に反しないレイアウトのため、誤操作の危険は小さいのです。
自動車メーカーは新しさとか差別化を求めて、操作系に新たな方式を採用しますが、誤操作、誤動作が重大な事故に直結するのが自動車です。シフト操作のレイアウトや方式などは検討に検討を重ねて、それでも変更はしない、という決断も必要でしょう。
今後の人口の年齢分布を見ても明らかなように、高齢ドライバーは増えていきます。とっさの時に誤操作をさせないペダル配置や、シフト方式は重要な課題です。
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みんなのコメント
そもそも本人はブレーキだと思って踏んでるんだから。