2011年9月、トヨタはピクシススペースを発表し、販売を開始した。発売から10年が経過したが、ピクシスシリーズは5車種にとどまり、トヨタの軽自動車販売には勢いがない。
ホンダのNシリーズ、日産のデイズシリーズのように、販売の主力となる軽自動車を持たないトヨタだが、頑なに軽自動車の開発には着手しない。現在も、ダイハツからOEMを受けるだけである。
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トヨタはなぜ軽自動車を自社開発せずに、細々と売り続けるのだろうか。トヨタの販売現場で営業活動に従事してきた筆者が、トヨタと軽自動車の関係を、販売現場目線で解説していく。
文/佐々木亘、写真/TOYOTA、HONDA
【画像ギャラリー】OEMでひっそりと販売を続けるトヨタの軽自動車 ピクシスファミリーを見る
■トヨタの軽自動車販売は地方販売店からの根強い要望でスタート
トヨタが軽自動車として初導入したピクシススペース。ダイハツ ムーヴコンテのOEMであり、ダイハツでも当時人気車種というわけではなかった
2000年に入ったころ、軽自動車の人気が急激に高まった。人気の高まりに平行するように、軽自動車保有率が高い地域のトヨタ販売店からは、軽自動車を取り扱ってほしいという声が高まっていく。
そこで、2011年にカローラ店及びネッツ店で、軽自動車の取り扱いを開始する。また特例として、軽自動車の保有比率が高く、強く要請があった青森県、秋田県、鳥取県、島根県、四国地方4県、福岡を除く九州・沖縄地方では、トヨタ店とトヨペット店でも、軽自動車を取り扱うことが認められた。
しかし、軽自動車取り扱いには、一部の販売店から反対の声もあった。登録車に対して「格下」の軽自動車を扱えば、トヨタブランドの価値が下がると危惧するものである。
双方の販売店の声を聞いたトヨタは、軽自動車を提案できる土台は作ったが、軽自動車販売に本格参入する動きは見せなかった。反対意見に傾聴したようにも見えるが、トヨタは軽自動車販売において、根深い問題があることを知っていて、このような動きを取ったように筆者は感じている。
■薄利多売は絶対にダメ! 登録車メインの販売体制は崩さない
ホンダ Nシリーズ。好調に売れているNシリーズだが、純利益が比例して伸びているわけではない
小さなクルマ、特に軽自動車の販売は採算をとるのが難しい。利幅が小さく、薄利多売の格好を取らざるを得ないからだ。ノウハウのない会社が、自社で新規開発しようものなら、開発費を回収することは不可能に近いだろう。
毎年、自動車ユーザーが増えている状況ならまだいいが、日本の自動車保有数は、この10年間で減少の一途をたどる。自動車ユーザーの総数は決まっていて、一定数の顧客を各社が奪い合っている状態にある。
この状況で、軽自動車販売を加速させれば、自社客が保有するクルマは軽自動車に変わっていく。すなわち、登録車の割合が減少することになる。利益確保ができる登録車が減り、薄利の軽自動車が増えていけば、メーカーはもちろん、販売店もジリ貧だ。
実際にNシリーズが好調に売れたホンダを例にとると、2012年以降、売上高は増加傾向にあるが、純利益が比例して伸びているわけではない。特に2013年から2015年までは売上高は11.8兆円から14.6兆円まで増加するも、純利益は5700億円から3400億円まで減少した。
販売台数が増えても、メーカーや販売店の利益につながりにくいのが軽自動車だ。あくまで、台数ではなく総合的な利益を考えた結果、トヨタは薄利多売の戦場には、入らないと決めたのではなかろうか。
■OEMを効果的に使うトヨタの軽自動車ラインナップ
トヨタ ピクシス メガ。トヨタでは軽自動車は自社開発せず、ダイハツのOEM車を取り扱う。ピクシス メガはダイハツ ウェイクにあたる
トヨタが軽自動車として初導入したのはピクシススペース(ムーヴコンテOEM)であり、当時の人気車種とは言えない。
現在ではピクシスエポック(ミライースOEM)、ピクシスジョイ(キャストOEM)、ピクシスメガ(ウェイクOEM)を取り扱うが、売れ筋のハイト系軽ワゴンはピクシスメガだけである。タントやムーブといった、ダイハツの主力モデルは、OEM導入される気配もない。
一方で、登録車であれば、売れると踏んだクルマは躊躇なく入れる。大ヒットしたライズやルーミーは、いずれもダイハツOEMだ。トヨタは販売戦略のなかで巧みにOEMを利用してきた。効果的にOEMを使うトヨタだからこそ、現在の軽自動車ラインナップには、売る気を感じられない。
実際に筆者はトヨタの販売現場で営業マンをしていたが、ピクシスシリーズに対して販売指示が出たことは、記憶のかぎり一度もない。
モデルチェンジやニューモデルが発表されても、軽自動車を売れという指示は聞いたことがなかった。逆に登録車であれば、積極的に指示が出る。OEMであろうが、モデル末期であろうが、販売台数を増やすために、施策を打つのだ。
一部地域を除けば、メーカー同様に、トヨタ販売店でも、軽自動車販売には本腰を入れていない実態がある。
■軽自動車販売にもみえる「トヨタ方式」
トヨタにとっての軽自動車はセカンドカー需要に応えるためのラインナップであり、登録車の「代わり」となるような位置付けではない。写真はダイハツ キャストのトヨタ版、ピクシスジョイ
トヨタにとって軽自動車の導入は、あくまでセカンドカー需要に応える方法でしかない。本業(登録車販売)の邪魔にならない範囲で、OEM車種を選び、軽自動車を販売している。
軽自動車を登録車の「代わり」にするわけではなく、軽自動車は登録車をベースに考えた「プラスワン」だ。これが軽自動車におけるトヨタ販売方式といえるだろう。日産やホンダが仕掛けた軽自動車の販売戦略とは、大きく違うポイントだ。
トヨタは、軽自動車が必要とされる地域に、必要なだけいきわたればいいと思っているだろう。そこには最低限のラインナップを用意し、売りたいという提案活動の邪魔はしない。しかし、積極的に売る必要はない。売れば売るほど、自分たちを苦しめる可能性が高いとなれば、なおさら手を引くはずだ。
仮に1台300万円~400万円する軽自動車が登場し、市民権を得たとすれば、トヨタも軽自動車開発に本腰を上げるかもしれない。しかし、現在の軽自動車に対するニーズを考えれば、現実的な話ではない。
筆者の個人的な興味としては、トヨタが本気で作った軽自動車を見てみたいと思うが、実現するのは、遠い未来の話となりそうだ。
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みんなのコメント
むしろ得意分野ごとに生産を任せて利益を出す方がいい。
それが倒産の危機に陥ってしまった会社の答えなんだよ。
だからトヨタは強い。