■シェルビーが手掛けた究極の「マスタング」
日本のカーマニアの間でも、いつの時代もアメリカ車の人気は衰えることはない。かつては「外車」といえば、大きく強力な、まさにアメリカそのものを象徴するかのような憧れの存在であった。
現在もとくに高性能なV型8気筒エンジンを、アメリカ車としては比較的コンパクトなボディに搭載するスペシャリティカー、あるいはマッスルカーと呼ばれるジャンルのモデルには、マニアからの熱い視線が集まっている。
そこで今回VAGUEでは、最近開催されたオークション・シーンから、興味深いスペシャリティカーを紹介しよう。
●1968 シェルビー「GT500ファストバック」
まずはアメリカ車のファンには究極のブランドともいえるシェルビー・アメリカンが、1960年代に築いた栄光の歴史のほぼ最後に生産した1968年式の「GT500」だ。
1967年に「427コブラ」の生産を終了し、「GT350/GT500」のみに生産を集中していたシェルビーだが、その人気は高く、シェルビーでは連日、両車の生産に追われる日々が続いた。
シェルビーにモータースポーツ活動を委託していたフォードにとって、もはやその目的は完全に達成され、ここにモータースポーツとシェルビーの関係は、完全に途切れることになったのである。
とはいえGT500は、高性能なスペシャリティカーとして非常に魅力的な存在だった。搭載される428立法インチ=7リッターエンジンの最高出力はほぼ400psで、ミッションは4速MT。インテリアでは黒いビニールの高級バケットシートなど、さまざまなオプションが認められる。
長いエンジンフードラインやエアインテーク、ルーバー冷却ベントなどからなる新しいフロントマスクや、追加されたリアスポイラーなどによって、エクステリアも実に美しいフォルムが完成した。
ソリッドゴールドのペイントもコンディションは良好で、過去の所有者リストとメンテナンスレポートも一部期間を除いて揃っている。
その人気を背景に、入札が繰り返された結果、最終的な落札価格は11万5500ドル(邦貨換算約1200万円)。この落札価格は、人気は衰えていないことの証明にほかならない。
■フォード純正のマッスル「マスタング」とは
続いて1969年式のフォード「マスタングBOSS 302」を紹介しよう。前年までのマスタングと比較して、ボディはさらに大型化され、実用性を高めたのは1969年式の大きな特長のひとつだが、それによってエンジンルームのサイズもまた拡大されたことも忘れてはならない事実である。
なぜならそれによって、より大型の高性能エンジンを搭載することが可能になったからだ。
●1969 フォード「マスタング BOSS 302」
フォードがマスタングのセールスのために、モータースポーツをシェルビーに依頼したことはすでに触れたとおりだが、この新型ともいえる1969年式のマスタングにはフォード自身が高性能エンジンを搭載することができた。いわゆるBOSS 302とBOSS 429の2タイプのエンジンである。
価格は結果的にシェルビーGT350よりリーズナブルなものになったので、セールス面では特にBOSS 302は人気を集めることになった。ちなみにこのBOSS 302の5リッターエンジンは、当時のトランザムレースに参戦していたマシン直系のパワーユニットである。
RMサザビーズの調べによれば、1969年に生産されたBOSS 302はわずかに1628台。出品車はわずかに1万2500マイル(約2万km)を走行したのみのモデルで、290psのエンジンには、オプションの4速クロスミッションが組み合わされている。
注目の落札価格は7万7000ドル(邦貨換算約810万円)。そのコンディションを考えれば、価値ある買い物といえるかもしれない。
●1970 フォード「マスタング BOSS 302」
そして最後に紹介するのは、翌1970年のマスタングBOSS 302だ。モデルとしての内容は、すでに解説した1969年式のBOSS 302と同様である。ただし、4灯ヘッドライトから2灯ヘッドライトにするなどマイナーチェンジが施されている。
落札価格を決定するのはコンディションによるところが大きいが、こちらもまずまずの状態。マイナーチェンジ前のフェイスのほうが人気が高いのか、こちらは意外に入札が伸びずに、6万500ドル(邦貨換算約635万円)での落札となってしまった。
ただし、そろそろ貴重な存在になってきたBOSS 302を入手するには良い機会だったといえるだろう。
もしかするとアメリカン・マッスルのブームは、またこの日本にも訪れるのかもしれない。
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みんなのコメント
表題のそれもトップにありながら本文中で一度も出て来ないのは奇異に感じる。
憧れのマスタングといえばやはりこれ。
1200万か。意外と安く感じる。